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甘党探偵月影ましろ〜ボクとブラックでスイーツな日々〜  作者: ツキノ
16章 クトゥルーの呼び声〜浮上せしルルイエ〜
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1話 ナイトプール

「ふぅ……。ここのところ、毎日暑いですね」

「店内は冷房が効いてるとはいえ、厨房は暑いしなぁ……」


 冷房調整はアーバンの許可無しには行えない。ましろと鵜久森はじんわりと浮かんだ額の汗を拭う。

 本日の日替わりスイーツ、パイの上にたっぷりのトフィーとバナナ、コーヒーの苦味が効いた生クリームの乗ったイギリス菓子のバノフィーパイをホールに運んで帰って来たましろに、鵜久森が声を掛けた。


「そう言えばましろくん、最近この辺りに出来たナイトプールのこと、知ってる?」

「ナイトプール?」

「お酒の提供がないから全年齢対象で入場できるみたいだよ」

「へぇ……」

「反応がイマイチだね。ましろくん、プールが嫌いかい?」

「プールが、というよりはボク、泳げないんで」

「え!? そうなの?」

「はい。カナヅチなんです」

「浮き輪の貸し出しもあるみたいだよ」


 まるでアーバン・レジェンド全員で行くかのように話す鵜久森。……実際に、全員で行く予定で話しているのだろう。


「あはは……。そういうわけで、ボクは今回遠慮したいなぁ……なんて」


 そこへスマホの着信音が鳴り響く。赤羽根榴姫からだ。嫌な予感がする。


『もしもしましろクン?あろうが週末クトゥルフが絡んでそうな場所に調査に行くからそっちも来いってさ』

「……場所はどこ?」

『ナイトプールルルイエってとこ』

「ボクは今回遠慮したいなぁ……」

『フン。炎属性で水辺は苦手だからか?腰抜けめ。貴様、それでもギルドのリーダーか?』


 榴姫との通話の間に入ってきた鴉に罵られるが、ましろは平然と受け流す。


「ボクが行ったら、きっとまたお荷物になるよ」

『確かにな。だが、それとこれとは話が別だと思うぞ』

「うう。痛いところを突くなぁ……」


 戦闘の役に立たないのと、リーダーとして行かないのでは話しが違うことを鴉に指摘され、ましろは項垂れた。


「とほほ……。わかった。行くよ。行きます」

『ふむ。少しは見直してやろう』

『おけ?日時は今週の土曜日、18時頃集合ね』


 通話が終わり、鵜久森がぽんと肩を叩いてうんうんと頷く。


「ましろくん、行く気になってよかったよ」

「ああ……憂鬱です……」



 ◇◇◇



「うわぁー!ライトに照らされた水がきれーい」

「夜景が幻想的ですわ。読書が捗りそうです」

「来夢さん、水着に着替えているのに泳がないんですね……」


 ナイトプールを目の前にはしゃぐ綺羅々と、プールでも読書をする気満々の来夢に、メガネをかけていない林檎。


「どうどう?あたしたちの水着の感想は!」


 残念ながらない胸を張る綺羅々に、鵜久森が目を輝かせて「最高だよ!」と即答する。

 ビニールカバーをかけた本を片手に、ポニーテールに髪を結い上げた来夢はチラリとましろの反応を伺う。林檎はつい癖で無いメガネを押し上げる仕草をした。


「うん?似合ってると思うよ?」

「そこ。なんで疑問系なんですの?」


 大きな浮き輪を片手に抱えたましろは、三人娘の水着姿よりもパラソルの下でカップルが食べている特大フルーツパフェに注目していた。


「もー!ましろってば食べる気ばっかり!水着イベントなんて滅多にないのに!泳ぐ気ないなら浮き輪よこせー!」

「ああ、万が一に備えて折角借りたのに……」


 ましろから浮き輪を奪い、1番のりでプールへダイブした綺羅々と、綺羅々を追いかける鵜久森をどこか冷めた瞳で見るのは赤羽根榴姫。


「小鹿センパイって子供みたい。付き合うのカンベン」


 三つ編みを交えて結い上げたチェリーブロンド。髪の色に合わせた大人っぽい水着。ブレスレットにピアス。榴姫もあまり泳ぐ気はないようだ。


「榴姫、泳がないのか貴様は」


 鴉に聞かれた榴姫はましろの腕を取る。


「うん。パフェ注文しそうなましろクンとパラソルの下でだべってよっと!」

「え?」

「な、なんですって!?」

「何か文句ある?望月サン?」


 ニヤニヤと笑う榴姫に対抗し、来夢もましろの腕を取る。自分を挟んで火花を散らす2人を両手に、ましろはパフェを注文するべくカフェに歩み寄っていく。両手に花という自覚がない。


 鴉はゴーグルを付け、1人でさっさと泳ぎ始めた。


「ど、どうしましょう……」


 迷った末に、綺羅々と鵜久森の邪魔にならないようにと、林檎はましろの後を追いかける。


「んん……!ここにはパルフェがあるのかい!?」

「ましろクン、パフェとパルフェって同じじゃないの?」

「パフェは日本のデザートでアイスやフルーツ、生クリームを層にして盛り付けるのが特徴さ。パルフェはフランス発祥のスイーツ。アイスやソルベメインでグラスに美しく盛り付けるんだ。フルーツやチョコレート、ナッツを散りばめて見た目の美しさにこだわっている……フランス語で完璧って意味通りにね」

「へー、映えそうだからアタシもスクショしとこうかな」


 パルフェを注文したましろは、榴姫と来夢を連れてプールサイドのテーブルに腰掛けた。続けて3人も腰掛ける。


「まだかな、まだかなぁ」

「ましろさん、プールに来て浸かるつもりもないんですの?」

「浮き輪取られちゃったし……」

「新しくレンタルすればよいのでは?」

「一応言っておくけど、コレ、調査だかんな?ソコわかってる?」


 榴姫が肘を付いて首を傾げる。「わかってますとも」と、来夢が持っていた本に栞を挟んで表紙を見せた。


「『クトゥルーの呼び声』?」

「今急いで読んでいますけど、これにこのナイトプールの名になっている「ルルイエ」が出てくるという話しですの。他にも、ルルイエ異本という架空の魔導書があるとか……」

「架空かぁ……。クトゥルフが実在していることだし、実際にありそうだよね」

「それを読んだら、新しい魔法が習得出来たり……!?」

「さぁ、どうだろうね?」

「新しい魔法ね……。ましろクン、炎属性の他にも覚えたいカンジ?」


 榴姫に問われ、ましろはうーんと考え込んだ。


「確かに……。今回みたいに水辺の調査だとお役に立てないし、炎属性以外も習得できるチャンスがあれば、ね」

『その望み、ボクが叶えてあげようか?』


 頭の中に聞いたことが無い女の子の声が響き、ましろは首を傾げる。


「え……?ラプス、今何か言った?」

『いいや。何も』


 途端、プールの中に巨大な水柱が上がる。爆発したかのような水音と同時に鳴り響くファンファーレ。ナイトプール全体に結界が張られた。


「な、な、な、なんですの?!?」

『気を付けて!!領域展開だ!!』

「ええー!!まだパルフェ食べてないのにー!!」

「ははっ!どうやらそれはお預けみたいだな!」


 突如聳え立つ、水流るる螺旋階段をましろたちは見上げるしかない。水飛沫を浴びながら、ましろはぽかんと呟いた。


「……どうやら、これの最上階に上がるしかない?」

『水の中じゃなくてよかったじゃないか』

「そう言う問題ではありませんわ」


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