表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/127

【幕間4】 結界師は新しい制度を開始する

※今話は聖樹工房の宴での一幕です


「そういうことでしたら、俺にいい考えがあります」


「え!?」


俺はシルビアさんの告白とヴァン支部長の返答を聞いて、とても嬉しかった。


元々、俺が無属性剣を作成するきっかけとなったのは、モグラ狩りの冒険者がシルビアさんを偶像視していたことに憤慨したからだ。


そのシルビアさんが偶像という檻から抜け出て、ヴァン支部長とお付き合いを始めたのだから、嬉しくないはずはない。


俺は思い出した母さんの顔や声をシルビアさんと重ねる。


確かにミオが言っていたように、シルビアさんの声は母さんの声に似ているように感じる。


俺はそんなシルビアさんの門出を祝福し、冒険者ギルドにおける二人の功績になるであろう提案をしようと思ったのだ。


「ヴァン支部長、冒険者ギルドが非戦闘系の職業の冒険者を登録しなくなった理由は、彼らの命を危険に晒さないためだけでなく、彼らがもたらすかもしれない不利益を冒険者ギルドが負わないためですよね?」


「ああ、その通りだ。冒険者ギルド本部が非戦闘系の職業の冒険者を一斉解除したのは厄災戦が原因だが、その後に彼らを登録しなくなったのは、シド君が言う通りだ」


俺は予想通りの返答に頷き、次の質問をする。


「では、彼らの命の保証と、彼らが与える不利益を別の組織が担うとすれば、冒険者ギルドは彼らを使わない理由がなくなると思いますが、いかがでしょうか?」


「それは、一体どういう……」


ヴァン支部長が困惑顔になる。


「例えば、聖樹工房には未成年の子たちがいますが、彼女たちは時々、ロキ神父たちと一緒に、食料調達のための魔物狩りに行くそうです」


「そ、そうか……さすが庶民派の聖治癒師だな……」


ヴァン支部長がますます困惑顔になる。


「そこで、未成年の彼女たちがホーンラビットを狩ってきたとして、それをミオが冒険者ギルドに納品したらどうでしょうか?」


俺がそう聞くと、ヴァン支部長は少し複雑な顔になり、


「そ、それは、ギルドには未成年が狩ったものかミオ君が狩ったものか判別はできないから、納品したミオ君の功績としてギルドは買い取ることになるだろう」


と返答した。


「分かりました。では、これを聖樹工房以外に適用しましょう。あるG級冒険者パーティーが非戦闘系の職業の人たちを雇って、子供のホーンラビットを狩る専門集団を組織するとします」


俺がそう言った途端、ヴァン支部長とシルビアさんの目の色が変わる。


「非戦闘系の職業の方たちの安全確保と、失敗時の責任の所在は雇い主であるG級冒険者パーティーが全て負うこととして、非戦闘系の職業の方たちが狩った子供のホーンラビットを全てG級冒険者パーティーがギルドに納品すればどうでしょうか?」


「そっ!それはそのG級冒険者パーティーの功績としてギルドは買い取ることになるだろう。だが、そんなことを続けていては、そのG級冒険者たちは実績と職業成長に差が生まれ、職業スキルが未成長のまま冒険者ランクが上がってしまうことになるぞ!」


ヴァン支部長は懸念すべき点を指摘する。


「ホーンラビットの子供ではあまり職業成長の恩恵はありません。むしろ、雇い主のG級冒険者パーティーは、ホーンラビットの血抜き時に寄ってくるグラスウルフを専門に狩れば、職業成長率は飛躍的に伸びます」


「なっ! そ、それはそうだな……」


俺の一言にヴァン支部長が驚く。


「非戦闘系の職業の方々は、G級冒険者たちの護衛により安全に狩りを進め、安定収入を得る。G級冒険者は冒険者ギルドへ自分たちが狩ったグラスウルフと子供のホーンラビットを納品し、実績と大金を得る。いかがでしょうか?」


「そ、そんなことで、これまで納品が滞ってきた子供のホーンラビットの問題が解決するなんて……」


ヴァン支部長が叫ぶ。


「さすがシド様れすね。そんら発想は普通思いつきらせん。シド様の考えは獣人国のクラン制に似れますね」


酔ったシルビアさんが発言する。


シルビアさんは酔っていても頭がよく回るようだ。


「クラン制ですか?」


「はい、獣人の方々は、群れれ行動することが多くれ、非戦闘系のメンバーを含んれ、数十人からなるクランれ狩りをするんれす」


「それは俺も聞いたことがある。クラン制は獣人国のローカルルールで、冒険者が代表を務めるクランが冒険者ギルドの依頼を受けて、狩りや採取を行ない、ギルドに納品しているそうだ」


ヴァン支部長がシルビアさんの言葉を補って説明してくれる。


「なるほど、すなわち全くの前例なしではなく、獣人国の前例に従ってマナエルでもそのローカルルールを設ければいいというわけですね。ローカルルールって、どのようなルールなんですか?」


「ローカルルールは獣人国の法律のようなもので、納税に関するルールのことだ。俺たちは獣人国を『国』と言っているが、正しくは各部族がそれぞれ自治を行なっている」


「『王』がいるってさっき聞きましたけど……」


「ああ、十年に一度『王』を決める決闘が行なわれる。決闘の結果、選ばれた者が十年間『王』として獣人の各部族の調整役を担い、獣人の総意を他国に伝える外交担当を担う。その『王』に対する税金の徴税ルールがローカルルールだ」


「なるほど徴税についての法律ですか……、じゃあ、ジョセフ様に頼んで納税に関する法整備を――」


俺がそう言いかけたのを聞きつけ、少し離れた所で鍋を食べていたジョセフ様が寄ってきた。


「シド君、君はまだ気づいてないようだが、君はすでに法整備を求める側の人間ではなくて、法整備を行う側の人間だ。私に願わずとも、君がその法案をマナエル領の貴族議会に提出すればいい」


「えっ!? ほうあん? きぞくかいぎ?」


俺はこれまでの生活から、かけ離れた事実を聞いて頭が理解することを拒絶してしまった。


「シド君、シド君、しっかりしろ!」


「ああ、ヴァン支部長、今俺、自分が法整備する側だとか聞こえてしまって……ちょっと疲れ過ぎなんでしょうね……」


俺は自分の疲れのせいだと思おうとした瞬間、


「シド君、それは事実だ。君は何と言ってもシド・ラディクス子爵、もう少しすれば伯爵だからな」


ヴァン支部長が俺に現実を突きつけた。


「いや、俺単なる貧民街で育った、駆け出し冒険者ですよ。法整備だとかどうやったらいいのか分かりませんよ!」


俺が理不尽を嘆いていると、


「シド様、お任せください。私が付いております」


と、エルノートさんが近づいてきて、俺に一礼する。


「エルノートさん、 分かるんですか!?」


「はい、私は元エルフ聖樹国の第五席です。政治の中心におりましたので、お任せください」


「助かります!!」


(そう言えば、エルノートさんはエルフ聖樹国の政府中枢の人だった! 助かったぁぁ!)


「シド君、良い家人を持ったな。私は公爵だが、このマナエルには侯爵はいない。伯爵である君がこのマナエルのナンバーツーだ。それに、ミオ君にも近く貴族位を用意するから彼女も一緒に議会に参加できる。君たちが結婚すれば夫婦で議会デートだな! ハハハ!」


(ナンバーツーとか無理ですよぉぉ! それに、夫婦で議会デートって何ぃぃぃ!?)


「シド様、ご安心を。聖樹工房には私もいますし、数字に強く、人脈の広いサイロスもいます。対立する連中は、政治的に、また物理的にも排除できます。シド様は何と言っても、このマナエルの安全保障の要です。シド様に逆らえる者などいません!」


エルノートさんが自信満々といった表情で断言する。


(はいぃぃぃ!? いつの間に俺そんな裏ボス的立ち位置になったのぉぉ!?)


「シド君、君のおかげでエビルス隊長を含め、多くの伝統貴族派の貴族たちをこのマナエルから追い出すことができた。それに、今回の戦いで君の無属性剣のおかげで活躍できた者たちも貴族位が与えられ、議会に参加する。もはや、貴族議会で君の法案に異を唱えられる者などいない!」


ジョセフ様も俺に追加攻撃を叩き込む。


(裏ボスどころじゃなかったぁぁぁ!)


「シド・ラディクス子爵、いえ伯爵。私たちもあなたから並々ならぬ恩義を受けました。議会では私たちも協力させていただきますので、お任せください」


そう言って、レイモンド将軍がイストワール大隊長と一緒に頭を下げる。


(もう、オーバーキル過ぎますってぇぇぇ!)


「シド君、俺も男爵位を持っていて、議会の参加権がある。精一杯、助力させてもらう。安心してくれ!」


ヴァン支部長がダメ押しをかける。


(法整備の前に俺の精神状態の整備が必要です!)


「シド君、法整備が終わったら、君の聖樹工房をクラン設立第一号として登録しよう。冒険者ギルドのクエスト受注だけでなく、君の工房なら政治、経済、産業の総合アドバイザーとして、私の執務やギルド運営のコンサルティング業務も請け負えるはずだ」


ジョセフ様が、またしても斜め上の発言をして話をインフレさせる。


(ちょ、俺抜きで勝手に業務内容が急拡大してるんですけどぉぉぉ!?)


「冒険者ギルド運営への政治的な助言をしてくれるのなら、これほどありがたいことはない!」


ヴァン支部長までがジョセフ様の無茶振りに全ノリしてくる。


(いや、俺自身は政治的な助言なんて何一つできませんけどぉぉぉ!?)


「シド様、冒険者ギルドの政治的助言なら我々にお任せください。私は冒険者ギルド特別監察機関所属の主任監察官です。サイロスも情報と人脈を持っています!」


エルノートさんが自信満々に主張する。


(はい、俺、必要ありませんでしたぁぁぁ!)


「シド様、そういうことなら、我々も聖樹工房のクランに参加させてください! 私は冒険者ギルド本部のA級冒険者ですから、本部の冒険者たちにも多く伝があります」


「あっしは、エルノート様の部下として、ずっと冒険者ギルド本部の情報収集をしてきやした。諜報なら任せてほしいでやんす!」


ザインさん、ジンさんも寄ってきて、参加表明してきた。


(追加人員来ましたぁぁぁ! もはや俺のいる意義、スライム程もないですよねぇ)


「シド様、我ら聖治癒師も政治的中立性があるクランになら参加できます。それに、狩ってきた魔物をクランを通して換金できるのもありがたいです!」


「シドさん、私たちも工房のお仕事と魔物狩り頑張ります!」


「いっぱい、いっぱい、まものにへっどしょっとするの〜」


「「「私たちも、頑張りまぁぁす!!」」」


ロキ神父、ナナちゃん、キキちゃんと孤児の女の子たちもクラン参加を表明する。


(聖治癒師が同行してくれるのは正直ありがたい。でも、この人たちが同行するなら、もう、俺同行する必要ないじゃないですか!)


「シドさん、フォートラン商会もますます、聖樹工房と連携して、シェアを拡大するつもりです! クランで集めた素材を使って、まずは、今回の戦いで逃げた工房どものシェアを削りに削って、マナエルで簡単に工房を再開できなくしてやりましょう!」


「シド殿! わしは聖樹工房主宰の大運動会を開いてみてはどうかと思います! クラン対抗のマナエル城壁外周レースをぜひやりましょう!」


「シド、吹き矢の矢じりの形状と構造をもっと変えれば飛距離と威力を上げられると思うんだ。クランで素材別の矢じりの試作と実戦テストをしよう。当面の目標はビバルが吹いて中型種陸亀の甲羅が貫通できるくらいに」


「シド様、よろしくお願いいたします」


エミリーさん、ダンさん、おっちゃんが勢い込んで提案し、ビバルさんが頭を下げる。


(エミリーさん、あなた確実にサイモンさんの婚約者です! 言ってることがそっくりです! ダンさん、それって単にあなたが走りたいだけですよね!? ねえ!? おっちゃん、矢じりの改良はいいけど、目標ハードル高すぎないか!? それってもはや吹き矢の目標じゃないよねぇ!? ビバルさんもお願いしていいことと悪いことがあるんだよぉぉ)


「シド・ラディクス子爵、クラン結成おめでとうございます。いただいた『ゲイン』という名に恥じないよう、微力ながら全力でお仕えいたします!」


「「「「「お仕えいたします!」」」」」


ゲインさん、フィーネさんと四人の冒険者たちが跪いて改めて俺に忠誠を誓う。


(はい、また俺の存在意義が消えましたぁぁ! 陸亀トータス戦の名指揮官が参加したら、もはや作戦立案も俺なしでできちゃうよ! 四人の冒険者、涙を流してるけど、シルビアさんが原因だよね? 俺が原因じゃないよね?)


「いやあ、盛り上がってきたねぇ。私もシド君のクランに参加しようかなぁ」


「それは、お断りします! バナエルさんは速やかに王都にお帰りください!」


俺はバナエルさんの一言は瞬時に封殺した。


「そ、そんなぁ! 冷たいよシドくぅんん」


「あきらめろ、バナエル。帰らなければ王に叱られるぞ!」


「ヴァン、私も、どうか私も―――あいたぁ!」


「ホホホ、バナエルも後継者を育てよ。そうすれば、面倒ごとを押し付け……いや、楽しい余生を送れるぞ。ホホホ」


「師匠! 今、『面倒ごとを押し付け』って言いましたよね!? 師匠が引退したのは私に面倒ごとを押し付けるためだったんですかぁぁ?」


「ホホホ、飯はまだかいのう。ホホホ」


「今、正に鍋を食べてるじゃないですか! 待ってください! 師匠!」


(良かった……バナエルさんがクランに来ると、毎日うざ絡みされそうだからな……)


「シド、これから楽しくなりそうですわね」


「ああ、キャサリン。俺の役割は薄そうだけどな……」


「何言ってんの? シドが真ん中にいてくれるから、みんなが一緒に働けるんじゃない。私たちもクランとして、これからもどんどん狩りに出かけるよ!」


「ミオもだろ。ああ、約束した通り、俺もパーティーメンバーとして一緒に狩りに出るよ」


「目指すは、魔王討伐ですわ!!」


「「エイエイ、オー!!」」


「いや、それは遠慮させていただきます」


「「ええぇぇ!?」」


――こうして、慌ただしくも楽しい(ダメージ過多な)、俺たちの祝宴のひとときは過ぎて行った。


窓の外では、俺たちの『新しい生活』を祝福するかのように、聖樹が淡い光を舞い踊らせて楽しそうに揺れていた。



【あとがき】

本小説をお読みいただき、ありがとうございました。皆様お楽しみいただけましたでしょうか?予定していました完結後の間話は本話までとなりますが、今後、過去話として、キャサリンの学生時代の話と、シルビアの片思いの話を投稿しようかと思っています。これは、先日よりお知らせしています、彼女たちのキャラクターイメージソングの元となる話です。どうぞ、イメージソングともどもお楽しみください。皆様の応援、ご感想もただけましたら、今後の活動の励みとなります。


それでは皆様、ごきげんよう。


【ミオのイメージソング:君の笑顔が戻るまで】

https://youtu.be/l-oznzCxZr8?si=nyLbF2UyR2D0xMj0

サビのショート動画

https://youtube.com/shorts/MO1k5GbANwU?si=iCb0yZU19thdnc-I


【キャサリンのイメージソング:想いはまだ見ぬ故郷へ】

https://youtu.be/wgmskcBoWYw?si=5pMXzt_bRvkFloCf

サビのショート動画

https://youtube.com/shorts/EmA2IYJjmzQ?si=jpWa4EzU_LFLyKIp


【シルビアのイメージソング:Secret Glasses】

https://youtu.be/QFSVpzDZsjU?si=xNK6MMjQdscZ99EP

サビのショート動画

https://youtube.com/shorts/aNrWPGbyeP4?si=lj6nO_xU_iF2QD8o


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結お疲れ坂でした。 非常に読みやすく面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ