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第107話 付与術師たちはパートナーのために奮闘する

「メイ、指揮は任せるね」


「分かった」


同僚のカレンが私に指揮権を譲る。


(指揮を取るのは久しぶりだな……)


土ぼこりが舞い上がる東の草原。


私たちは今、小型種の陸亀トータスの死骸の隙間から、陣地の内側に誘い込まれた中型種の陸亀を観察している。


「カレン、フィーネさん、ライノ君、あの陸亀、もうすぐブレス吐きそう。吐いたら、タイミングを合わせて出るからね」


「了解!」


「了解です」


「了解しました。役割はどうしますか?」


「パターン通り、ブレスを吐いたら、まずはフィーネさんが陸亀の口内に法術を撃ち込んで、陸亀が口を閉じられないようにして、私とライノ君が両前足の関節を剣で差し通す。陸亀が跪いたら、カレンが発破法術具を投げ込む」


「分かりました。でも、発破法術具はこれ一発です。ノルマ的には俺たちでもう一匹は仕留めないといけません。次はどうしましょうか?」


「次は仕方ないから私の聖属性剣で仕留める」


「メイ、剣で大丈夫?」


「多分、大丈夫。魔物に関してはこの剣、カレンたちが持ってるリースの剣より切れ味がいいから。陸亀が反対側を向いている時に伸び切った首筋を切れば切れると思う」


「了解。私とライノ君で陸亀の注意を引きつければ良いね」


「じゃあ、全員タイミングを合わせるよ!」


「分かった、メイに付いていく。掛け声をかけて」


私が陸亀にもう一度目を向けると、ちょうど陸亀がブレスを吐くタイミングだった。


「ブレス吐くよ! 用意して!」


その瞬間、陸亀はブレスを吐いた。


ブレスは挑発役の弓士が隠れている小型種陸亀の甲羅に当たり、周辺が炎で包まれる。


しかし、炎は小型種の陸亀の甲羅で阻まれ、弓士には届かなかった。


「今よ!」


私は大きな声で三人に合図を送った。


私たちは一斉に小型種陸亀の隙間から飛び出し、ブレスを吐いた直後の陸亀に突撃する。


フィーネさんが正面に出て、


火球ファイヤーボール


法術を放つ。


火球は陸亀の口の中に入った。


陸亀の口内はブレスを吐く特性から火炎耐性が高いが、喉から奥はそうではない。


フィーネさんの火球はうまく喉奥を通り抜けたようだ。


陸亀が喉奥から首にかけて内側から焼かれ口を開けてもがき苦しむ。


「今よ!」


私とライノ君が陸亀の前足の関節を剣で刺し通す。


陸亀は奇声を上げ、苦しみながら両膝をつく。


「カレン!」


「はい!」


カレンがピンを抜き、ダイヤルを回した発破法術具を陸亀の口内へ正確に投げ込む。


法術具はそのまま喉の奥深くへと飲み込まれ――直後、内部で鈍い爆発音が響いた。


あらゆる穴から血を噴き出しながら、巨体が大きく震え、そのまま地に伏して絶命する。


「よし! いったん戻るよ!」


私が指示を出した直後――


「メイ、ブレスが来る!」


カレンが叫んだ。


カレンが指差した先にブレスの発射体制に入った陸亀がいた。


「みんな、この陸亀の影に入って!」


私は全員に今倒した陸亀の陰に隠れるよう指示を出した。


しかし、どこからともなく飛来した、高速の光る矢尻がブレスの発射体制にあった陸亀の頭部を貫いた。


陸亀は口内にブレスを咥えたまま、静かにうなだれ絶命した。


私は一瞬、その矢尻が飛来した方向を見たが、


「みんな退いて!」


すぐに後退の指示を出し、陣地の外に全員で退避した。


「危なかったねぇ」


カレンが口を開いた。


「そうね」


「あの光って何だったんだろう?」


カレンがあの陸亀の頭部を撃ち抜いた光る矢尻について質問した。


私にはそれに心あたりがあった。


「あれはうちの工房製の吹き矢から発射された聖属性の矢尻だと思う」


私がそう答えると、


「いや、あれってもはや吹き矢の威力じゃないでしょ!?」


とカレンが叫ぶ。


私は城壁のバリスタの下にある矢狭間から今も発射され続けている光る矢尻を見る。


「……確かに、そうかもしれない」


あれは多分、さっき工房での会議で、エルノートさんがシド様に許可をもらって持ち出していた秘匿兵器だ。


あれの開発時、エルノートさんとサイロスさんの会話が偶然聞こえてしまったのだが、あの兵器には聖樹の聖域の力を、矢尻を撃ち出す推力へと変換する、エルフの秘匿技術が使われているとか言っていた。


空力や構造計算に、数字に強いサイロスさんが協力して、現状で最高の威力と精度を持つ吹き矢を製作。


そして、その吹き矢に、常時聖樹からの力が供給される仕組み。


カレンの言う通り、あれはもはや『吹き矢』などという生易しい代物ではない。


息を吹き込むのはあくまで発射のトリガーでしかなく、実際は聖樹の莫大な力と射手の法力操作によって高精度な狙撃を可能とする、『空気圧砲』とでも呼ぶべき代物だ。


そして、それを今この戦場で扱っているのは、現在の聖樹工房においてシド様に次ぐ最高の法力操作技術を持つ、幼いキキさんだ。


聖樹の聖域でマナエルを防御しつつ、吹き矢で敵を仕留める。


あの小さな工房は、戦局そのものを変えてしまう攻防一体の技術を、この戦いに投入したのだ。


いったい、聖樹工房はどこへ進もうとしているのか。


末恐ろしい気分にさせられる。


「カレン、あの武器についてはあまり深く詮索しないほうが良いと思う」


「そうね。私の身には余ると思うからそうする」


カレンは私の様子からこれに関与しない方が良いと判断したようだ。


「それにしてもこの作戦を立てた人って頭いいね」


カレンが話題を切り替えるために唐突に話を変える。


「確かにね」


この戦いの当初、五百匹の中型種の陸亀たちをこのクモの巣の陣地に引き込んだのは、法術師大隊のサラ・ヴァル・イストワール大隊長だった。


陸亀たちのブレスの射程外から、大規模火炎法術『炎嵐フレアストーム』を打ち込み、陸亀たちの攻撃目標をイストワール大隊長に集中させた。


普通なら殲滅用に使用する大規模火炎法術を、大胆にも陸亀誘引のための囮攻撃として使用したのだ。


攻撃を受けた陸亀たちは目論見通り、クモの巣の陣地に足を踏み込んだ。


そのクモの巣の陣地は小型種陸亀の死骸の防壁で囲まれていて、なおかつ下方からは槍士たちによるスキル攻撃がなされる仕組みだ。


槍士たちのスキル攻撃は中型種の陸亀の腹側の甲羅を貫けはしないが、陸亀をひっくり返すだけの威力があり、次々に陸亀たちはひっくり返されていった。


ひっくり返された陸亀たちはその間、ブレスが撃てなくなるため絶好の攻撃の的となった。


また、ブレスを撃った後の陸亀は次弾まで間隔があり、撃った直後に、さきほど私たちが行ったような連携攻撃をすれば、容易に仕留められる。


挑発役の弓士が陸亀たちを挑発し、小型種陸亀の甲羅にブレスを吐き出させる作戦も素晴らしい。


戦いにおいて遊兵を作らず、全員が機能し、余裕を持って敵を屠っている。


「領軍の参謀が立てた計画なのかな?」


カレンが質問する。


それに対して、


「あのぉ……この作戦を立てたの私の彼氏です……まだ正式にお付き合いしてませんが……」


フィーネさんが口を開く。


「え!? フィーネさんの彼氏って領軍の参謀なの!?」


カレンが驚いて聞き返す。


「いえ、領軍の参謀じゃなくて……ただの冒険者です」


「ええっ!? 冒険者!? この大規模作戦で、領軍がほぼ全軍動いているのに!?」


カレンが目を見開いて詰め寄る。


無理もない話だ。


これだけの正規軍が一糸乱れぬ動きを見せているのだ。


その作戦立案と指揮を務めているのが、『ただの冒険者』だなんて、信じられないのも当然だった。


「あのぉ……まだ戦いの最中なので長話は……」


ライノ君がカレンを制止する。


「確かに、ライノ君の言う通りだね。油断は禁物だよ」


私はそう答えてもう一度、緊張感を取り戻そうとしたが、


「いいじゃない。戦況を見てよ。どう見ても優勢だし、死人も出てないわ」


カレンがケロッとした顔で反論した。


「しかし、ギルドの教官が戦闘中におしゃべりしてサボってたなんて、支部長の耳に入ったら……」


ライノ君がそう指摘する。


「そうね! まずいわね。フィーネさん、戦いが終わったらその彼氏に会わせてね」


カレンがフィーネさんにお願いする。


「はい、聞いてみます」


フィーネさんが答える。


「陸亀の肉って精力が付くそうだよ。狩ってお肉食べさせて、正式なお付き合いに持ち込んじゃえ!」


カレンがフィーネさんを焚き付ける。


「ちょっとカレン、下品なこと言わないで!」


私が注意すると、


「何よ! メイ、あなた既婚者でしょ! 旦那さんにお肉持って帰ってあげなよ!」


私にも飛び火した。


(でも、それもそうかも……サイロスさんに食べさせたら……)


「よし、狩ろう。次の一匹はパートナーに食べさせるためのお肉にします。そのために最高の鮮度を保てる戦いをするよ!」


「「おおー!!」」


カレンとフィーネさんが気合を入れる。


「あのぉ……俺も食べるんですか?」


ライノ君がカレンに尋ねる。


「当たり前じゃない!」


カレンが口角を上げてライノ君に詰め寄る。


それに対してライノ君が青ざめる。


「さあ、さっさと行って狩るわよ!」


「「おおー!!」」


私たちは再度、気合を入れて戦いに出て行った――


お肉のために。


(待っててねサイロスさん。今晩はゆっくり楽しもうね♡)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うお!!」


「どうしましたサイロスさん?」


「すみません、エルノート様。何やらゾクゾクっとしたもので」


「そうですか、では今晩は暖かいものを食べましょう。そうですね……鍋物なんていいかもしれませんね」


「そうですね。それが良いかと思います」


「では、皆さんのお帰りに間に合うよう、準備しておきましょう」


「はい、お任せください。私は数字には強いですから、素材の味を引き出す調味料の最高の黄金比を割り出してみせます」


「さすがは上級会計士ですね。頼もしい限りです」


「いえいえ、エルノート様の『聖細工師』のスキルでの素材の裁断と『精霊眼』による火加減の見極めこそが重要です」


「フフ、では……二人で究極の鍋を作りましょうか」


「はい、皆さんを唸らせましょう」



その後、その鍋にメイたちと、シドたちの持ち帰った大量の陸亀の肉が入れられたことは言うまでもない。



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