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第105話 モグラ狩りは未来へと続く扉を開くための戦いを開始する

「いいぞ! これが最後だ。ゆっくり落ち着いて下ろせ」


俺たちは陸亀トータスの小型種との戦いの後、中型種との戦いに備えて、陣地の補強を行っている。


小型種のブレスは中級法術師の火球ファイヤーボールくらいの威力だったのに比べ、中型種のブレスは上位法術の爆炎ファイアストライクくらいの威力があるとされている。


通常の土法術で作った土塁だけの防御陣地では、いくらも保たずに融解してしまう。


「おお、ゲイル殿、間に合ったようじゃな」


レイモンド将軍が完成した陣地を見ながら、護衛の兵から離れて俺に近づいてきた。


「はい、どうにか間に合いました」


そこには元あった土塁に立てかけるように、先ほど討伐した小型種の陸亀の遺骸が並べられている。


「ゲイル殿はやはり参謀としての資質があるな。中型種のブレスを小型種の甲羅で防ぐなど、わしには思いつきもしない発想じゃ」


そう、中型種との戦いでは、この並べた小型種の甲羅でブレスを防ぎつつ、陸亀を陣地に誘い込む。


「いえ、俺はただ必死に出せるアイデアを出してるだけですから……」


「謙遜だな。この戦いが終わったら領軍に来てもらえると嬉しいんじゃが、どうだね」


俺は想像もしていなかった突然のスカウトに、目を丸くして言葉を失った。


「別に困らせようと思って言ったわけではないんじゃ。この戦いが終わったらゆっくり考えてくれ」


俺の困った顔を見て将軍が気を遣ってくれる。


「す、すみません」


俺が謝ると、レイモンド将軍は向きを変え、何か悲しそうな目で、再び並ぶ陸亀たちを静かに眺めた。


「わしの息子たちはみな、十年前の厄災戦で亡くなってしまったんじゃ」


悲しみと寂しさの混ざった声で将軍は呟く。


「息子たちはマナエル辺境伯家の騎士団員だった。彼らはマナエル辺境伯と共に騎士としてあの陸亀の群れに立ち向かい……そして、そのまま全滅した。わしは息子たちの無念を晴らすために八年前のマナエル奪還戦の将として参戦したが、もうその時にはマナエルには陸亀はおらんかった」


俺もその戦場にいたから覚えている。


マナエルに立てこもる魔物たちは、女の悪魔を将として、ゴブリン種やオーク種、オーガ種などが中心戦力で、陸亀の姿はなかった。


「今回、ようやく……八年越しの弔い合戦ができておる気がする」


「将軍……」


俺は何も気の利いたことが言えなかった。


「そうじゃ。領軍のことは脇において、ゲイル殿、この戦いが終わったら、わしの養子にならんか? フィーネ殿もうちの娘になってくれるなら、妻も喜ぶ」


「なっ! そ、そんなこと……ナイル将軍、カイル将軍が既にご養子としておられるじゃないですか!?」


またも将軍の突拍子もない提案に思わず大きな声が出てしまった。


「ナイルとカイルは確かにわしの養子じゃが、あやつらはヴァンディミオンの名を名乗りつつも、既に独立した男爵家の当主でな。今はヴァンディミオン子爵家は、年老いたわしら夫婦だけで淋しいもんじゃ」


俺が子爵家の養子だなんて、それこそ想像もつかない。


俺は続く言葉が見つからず、冷や汗を拭うことしかできなかった。


「ハハハ、すまん、すまん。作戦前の指揮官にする話じゃないのぅ。じゃが、戦いが終わったら一度、フィーネ殿と一緒に我が家にお茶でも飲みに来てほしい。妻も喜ぶのでな」


あまり無言でいるのも失礼だと思い、


「わ、分かりました……」


と答えた。


「そうそう、先ほどの戦いの援軍の近衛第一騎士団じゃが、敵の奇襲部隊を最後まで引き受けてくれているそうじゃ」


「本当ですか!? 助かります!」


敵の奇襲部隊は横穴を通って進軍してきた。


だから、掃討戦は穴に入って行わなければならなかったが、俺たちにはそれに割けるだけの戦力はなかった。


「それに、その騎士団を率いてきた剣聖バナエル・コーエン団長を含む少数精鋭の特別討伐隊が大型種とダンジョンボスを引き受けてくれると領主様から連絡があった。後顧の憂いはないので、目の前の戦いに集中してくれとのことじゃ」


「ええっ!? そ、それを先に言ってくださいよ!!」


俺は思わず叫んでしまった。


はっきり言って、俺が浪費させてしまった発破法術具の件で、俺はかなり悩んでいた。


足りない分をどう補うか、その答えが出ずに悩んでいたが、それを顔に出すと周囲の士気を下げてしまう。


俺は必死に痩せ我慢をしていたのだ。


「ハハハ、すまんな。ゲイル殿の見事な陣地形成を見て、言うのが遅くなってしもうた。それに加えて朗報じゃ。ゴブリン殲滅戦に参加しておった冒険者たちがみな無事に帰還し、もうすぐ援軍としてここに到着するそうじゃ」


「なっ!」


森の魔素の件を聞いていたので、嬉しさと驚きのあまり、言葉が詰まった。


「ほ、本当に良かった……」


そして、涙があふれてきた。


「神は不思議なことをなさるもんじゃ。領軍を南の草原から引き上げた際には断腸の思いであったが、ここに来て全ての状況が好転しておる」


「はい、俺もそう思います」


「作戦は既に領主様から冒険者たちに説明済みとのことじゃ。ほれ、噂をすれば影、じゃな――」


レイモンド将軍が振り向くと、東の城門から大勢の冒険者たちが出てくるのが見えた。


将軍は俺に向き直り、


「ゲイル殿、頼んだぞ」


と言うと、再び俺に通信法術具を手渡した。


それは、俺が先ほどの戦いが終わった後にあえて返却したものだ。


「死力を尽くします」


俺はそう返答し、手渡された法術具を装着し、将軍に敬礼した。


将軍は答礼し、司令所に戻って行った。


俺は東の草原を見つめた。


土煙が上がり、陸亀の到着が間近であることが分かった。


俺は通信法術具を起動させ、


「各班、現状を報告してくれ」


と、呼びかけた。


さあ、始めよう。


未来へと続く扉を開くための戦いを。


俺は新たに加わる仲間たちの元へと駆け出した。



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