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第104話 結界師はパーティー戦に臨む

「ホホホ、みな楽しそうじゃな。ホホホ」


俺たちが楽しく食事をしていると、後ろから声がかけられる。


この独特の口調は見なくても分かる。


「エル爺、卒業式以来だね」


「ホホホ、そうじゃな、シド。おぬし少し見ぬ間に、さらに強くなったようじゃのぅ。もはやわしでは勝てんのぅ。ホホホ」


その発言を聞いて、隣の人物がギョッとする。


「エル爺、冗談はよしてよ。俺はまだまだだよ」


(エル爺……冗談を聞いて真に受ける人もいるんだから、そういう冗談は困るんだよなぁ)


隣の人物はフルレザーアーマーにコイフを被っている。


(強そうな人だ……このレザーアーマー、ミオのと同じアースドラゴンの皮か。相当な高級品だ)


俺はこの隣の人物をどこかで見た覚えがあったが、どこで見たのか思い出せなかった。


「ホホホ、紹介が遅れたのぅ。こやつはヴァン。わしが昔、教えとった弟子じゃ。ホホホ」


俺が隣の人に注目していると、エル爺がそれに気づいたようで、隣の人を紹介してくれる。


(なるほど、兄弟子だったか……)


「そうでしたか。兄弟子とは知らず、ご挨拶が遅れました。私はシドと申します」


俺が一礼すると、


「いや、兄弟子などと言われるのもおこがましい。俺は師匠の奥義には遠く及ばなかった身。一方、貴殿は師匠の実力を凌駕しておられる強者。どうか、かしこまった呼び名は勘弁してほしい」


(ほら、早速エル爺の冗談を真に受けてるじゃないか!)


「いえ、さきほどのエル爺の発言は冗談ですよ。俺もまだ修行中の身です。どうか兄弟子と呼ばせてください」


「ホホホ、冗談のつもりはないが、ヴァンもわしの元を離れてから、それなりに研鑽を積んできたようじゃから、兄弟子と呼ばれるくらいの実力はあるじゃろうて。ホホホ」


(エル爺……だから変に持ち上げて勘違いさせるの、止めてくれよな)


「ところで、人違いなら申し訳ないのだが、貴殿はもしやシド・ラディクス子爵であられるか?」


ヴァンさんが突然質問してきた。


今度は俺が息を呑んだ。


(この人、どこで俺のことを……撤退軍の中にこの人も入ってたのかな?)


「すみません。少しここから移動してもよいでしょうか?」


俺はその話をあまり人に聞かれたくなかったので、聖樹の周りで楽しく過ごしている人たちから少し離れてもらうことにした。


人々から少し離れたところで、俺が口を開こうとしたその時、


「ヴァン様、失礼しますわ。紹介いたしますわ。ご質問の通りこの方はシド・ラディクス子爵ですわ」


隣にいたキャサリンが俺に代わって返答した。


ヴァンさんはキャサリンを見て、少し気後れしている印象を受けた。


「キャサリン嬢、ご紹介、ありがとうございます」


ヴァンさんが頭を下げる。


(この二人、何かあったのかな?)


「ホホホ、シド、知らぬ間にずいぶん出世したもんじゃのぉ。ホホホ」


「いや、成り行きで、選択の余地なく受け入れたけど、俺自身は何も変わってないから……」


貴族になったと言われても、俺自身は貴族教育も何も受けてなくて、正直持て余している。


「シド・ラディクス子爵、この度はゴブリン殲滅戦の参加者たちを助けていただきありがとうございました」


ヴァンさんが深々と頭を下げる。


俺はそれを見て慌ててしまう。


「えっと、はい、どういたしまして……あのぉ、失礼ですが私、ヴァンさんとどこかでお目にかかりましたでしょうか?」


「これは、失礼しました。実は、子爵が渓谷から登ってくるゴブリンエンペラー軍を退けられた際に、私もそこに立ち会っていたのです」


「そ、そうだったんですか……」


(全然、記憶にないぞ……)


「剣技もさることながら、あの発破法術具のような爆発する塊で次々と敵を倒されるお姿を拝見し、驚愕いたしました。差し支えなければ、あれは何かお教えいただけますでしょうか?」


(あれを見てたのか……平時なら説明してもいいんだけど、今は戦いの前だからなぁ……供与してくれとか言われると困るなぁ……さて、どう答えようか? )


「あれは、俺の職業『結界師』のスキルで生み出したもので、俺にしか扱えません。また、詳細な内容はお教えできません」


「『結界師』のスキル!? 子爵は剣士でなく、結界師なのですか!? ………あの、もしかして子爵は冒険者ですか?」


「はい、先日登録したばかりのH級冒険者ですが、それが何か……」


それを聞いて、ヴァンさんは跪く。


「も、申し訳ございませんでした! 私たち冒険者ギルドは子爵の実力も調べもせず、ただ不遇職であることを理由に、子爵をH級冒険者としてしまいました!」


俺はそれを聞いた途端、この人が冒険者ギルドのヴァン支部長であることに気付いた。


(な、何ですぐに思い出せなかったんだ!)


「や、やめてくださいヴァン支部長! 俺、自分がH級であることに不満なんて持ってませんから! それに、戦闘訓練に参加して再試験を受ければ、支部長が直々に実力を確認してG級に昇格させてくれるって、ちゃんと人事部長さんから聞いてますし!」


俺がそう言っても、ヴァン支部長は跪いたままだ。


(ど、どうすればいいんだこれ……)


俺はミオとキャサリンを見たが、二人とも苦笑いを返すだけだった。


「では、この戦いが終わったら改めてヴァン支部長がシド・ラディクス子爵と試合をすればいいじゃないか」


俺が困り果てていると、表通りの方から歩いてくる人物が発言した。


「お父様!」


「おかえり、キャサリン。ラディクス子爵、ミオ君も無事で何よりだ」


そこにはマナエル公爵がいた。


俺は跪こうとしたが、


「止してくれ、ラディクス子爵。いや、この呼び方はここでは相応しくないな。シド君、どうかいつも通りにしてほしい。私の呼び名もジョセフで」


「しかし……」


「頼むよ」


「分かりました」


俺はこれ以上の問答は止めることにした。


「ヴァン支部長、立ってほしい。君のシド君への決断は間違っていなかった。だから、改めて試合をしてシド君を評価すればいいことだ」


ジョセフ様がヴァン支部長に語りかける。


「ホホホ、では、その試合の立会人はわしが務めよう。ホホホ」


「分かりました」


二人の発言で、ヴァン支部長はようやく立ち上がってくれた。


「シド君、エル殿とヴァン支部長をここに呼んだのは私なんだ。実は君たちにお願いがあって来たんだが、工房を少し貸してくれないかな?」


「はい、大丈夫ですよ」


俺たちは工房の中に入った。


「改めて、シド君、ゴブリン殲滅戦の参加者全てを助けてくれたこと、礼を言う」


ジョセフ様が冒頭、俺に頭を下げ、ヴァン支部長も同時に頭を下げる。


「ちょ、ちょっと止めてください。俺だけの力で成したことではありません」


「しかし、間違いなく君の功績が一番大きい」


俺はミオとキャサリンを見るが、二人とも笑顔でサムズアップするだけで、何も言わない。


(こういうのも困るんだよなぁ。実力が過大評価されてしまうから……)


「ジョセフ様、時間が無いと思いますので、もうそのへんで……」


俺がそう言うと、


「そうだな、時間が無い。本題に入ろう」


ジョセフ様はその場に座る全員に語り始めた。


「今回の陸亀との戦いで、発破法術具が有効であると判断されたんだが、実はさきほどの小型種の陸亀との戦いで大量消費してしまった。中型種の陸亀五百匹を迎撃するには、発破法術具の数が足りていない……」


(発破法術具……俺のあの爆発する塊、まだ名前を付けてなかったんだよな……何か名前を……本来、投擲して使うから『投擲弾』でいいかな……)


「どの程度足りていないんですか?」


ヴァン支部長が聞く。


「現状で四百個を切っている」


(投擲弾はあと何個あったかな?)


俺は亜空間バッグに手を入れて数を探ってみる。


すると残数が通常弾が五十個、矢じり弾が三十個あった。


(渓谷で結構な数使ったからな……)


「中型種だけでも百個足りないわけですか」


(俺が中型種に全弾撃ち込んでも、なお二十個足りないな……)


「そうだ。さらにその後方には、大型種が五十匹と、ダンジョンボスである超大型陸亀が控えている」


「ラディクス子爵、私が見たあの爆発する塊ですが、あれは今、どのくらいのお持ちでしょうか?」


(そうだよな。当然、聞かれるよな)


「渓谷で結構な数を使ってしまいましたから、今は八十個ほどです」


(まあ、中身の聖属性の鉄球があればすぐに作れるんだが、作戦までに間に合わないよな……)


「爆発する塊!? それは一体何だ!? シド君」


ジョセフ様が興奮して聞いてくるが、今は秘匿したほうがいいと判断して、


「すみませんが、今は言えません。名前は投擲弾と命名しましたが、俺にしか扱えない代物です」


そう答えた。


「そうか、技術について聞けないのは残念だが、仕方ない。今は時間もないし、そんな代物を持っているなら、話が早い」


ジョセフ様はそう言うと、再度俺たちを見回す。


「シド君、ミオ君、エル殿、ヴァン支部長、お願いだ。大型種とダンジョンボスの討伐もしくは足止めを引き受けてもらえないだろうか」


ジョセフ様が頭を下げる。


俺は返答に困り押し黙ったが、


「ホホホ、それは名案じゃな。ホホホ」


エル爺がジョセフ様の案を評価する。


「エル爺、何が名案なんだ?」


俺が聞くと、


「ホホホ、陸亀の大型種は攻撃力は高いが、動きが鈍いでのぉ。わしらのように少数の動きの速い相手には目標が定められず攻撃が当てられん。逆に攻撃人数が多くなれば、狙いがつけやすくなって、大火力で一掃しやすくなるでのう。ホホホ」


「なるほど、機動性と攻撃力が高い者が少数精鋭で攻撃する方が、被害を出さずに討伐しやすいということですか」


ヴァン支部長が理解を示す。


「ホホホ、それに城壁が射程内に入ってしまっては、城壁の被害が大きくなるでのぉ。城壁からまだ遠く離れておる内に倒してしまう方が良かろうて。ホホホ」


「エル爺、簡単に言うけど、俺たちだけで大丈夫なのか?」


俺が心配して質問すると、


「ホホホ、大丈夫じゃ。あんなウスノロな陸亀、シドだけでも十分じゃろうて。ミオも腕が上がったようじゃから、ミオとヴァンの免許皆伝の試験も兼ねて、四人で行くかのぉ。ホホホ」


「エル爺、私、聖百裂剣ホーリーハンドレッドスラッシュが撃てたんだよ!」


ミオが嬉しそうに話すと、ヴァン支部長がまたギョッとした顔つきになる。


「ホホホ、それはぜひ見てみたいのぉ。ホホホ」


「エル殿、王都からバナエル殿も到着したと通信が入りました。いかがされますか?」


ジョセフ様がエル爺に尋ねる。


(バナエル……? どこかで聞いた名前だな。また俺の知らないエル爺の弟子か?)


「ホホホ、あやつも来たか。ちょうど良い、まとめて試験するかのぉ。ホホホ」


「では、連絡を取り合流できるようにしましょう。あと、シド君に工房長としてお願いがあるのだが……」


ジョセフ様が俺に尋ねる。


「何でしょう?」


「中型種との戦いに聖樹工房の力を借りたいのだが、良いだろうか?」


俺はエルノートさんを見て、


「エルノートさん、俺はまた出なきゃいけなくなったので、お任せして良いですか?」


と質問した。


「かしこまりました。敵の戦力も鑑みまして、秘匿兵器の使用もお許しいただけますか? 今の聖樹の回復具合なら相当な威力が期待できます」


(あの兵器か……。発破法術具も足りてないみたいだから、仕方ないか……)


「分かった。許可する」


「ありがとうございます」


エルノートさんが頭を下げる。


こうして、話がまとまりかけたその時、


「お父様、大型種とダンジョンボスの討伐、私も同行しますわ」


キャサリンが発言した。


「キャサリン、それは許可できない。明らかに足手まといになる」


ジョセフ様は彼女に冷静に答えた。


「しかし、私はシドとミオのパーティーメンバーであり、このマナエルの後継者ですわ。私には彼らの戦いを最後まで見届ける責任がありますわ」


キャサリンの表情には固い意志が表れ出ている。


「ホホホ、一人ぐらいどうにかなるじゃろ。のぉシド。ホホホ」


(俺に振らないでくれよ……エル爺)


「お願いですわ、シド」


キャサリンは俺の目を真剣に見つめる。


(これは何を言ってもダメそうだな……)


「はぁ、俺が面倒見ます」


仕方なく、俺が引き受けた。


「お父様!」


キャサリンはジョセフ様に詰め寄る。


ジョセフ様もとても困った顔になったが、最終的には、


「分かった。行ってくるといい」


と、許可を出した。


こうして、図らずしも俺とミオとキャサリンの冒険者パーティーとしての初仕事が実現した。


俺たちは直ちに、大型種とダンジョンボスの討伐へ向けて、マナエルを出発した。



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