第102話 結界師たちは明日の希望のための戦いを開始する
マナエルの南門前の広場は今、南の森から帰還した冒険者たちとその関係者でごった返している。
家族の迎えを受ける者たち、死線を潜り抜け帰還した喜びを互いに分かち合う者たち、夫や妻、恋人と抱き合う者たち、みな一様に、安堵の笑顔を浮かべていた。
「シド様、ミオ様、キャサリン様、メイ殿、おかえりなさいませ。無事のご帰還、何よりでございます」
俺たちはエルノートさんの出迎えを受けた。
「留守を守っていただき、ありがとうございました。ワイバーンが襲来したと聞き、急いで戻ってきました」
その一言を聞いてエルノートさんは深く頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。私の力が及ばず、第一世代聖樹に重い負担を担わせてしまいました」
俺は聖樹の分体経由で、エルノートさんがどのような行動を取ったのか、大体のことは把握できていたので、彼の行動が間違っていないことを知っていた。
「いえ、俺もミオもエルノートさんができる限りのことをしてくださったことを知っていますよ。ですから、頭を上げてください」
「恐縮です。現在、聖樹は力を回復している最中なのですが、面白いことが分かりました」
「面白いこと?」
「はい、後ほどご説明いたします」
エルノートさんはそこまで言うと、広場の演台の上に立つ人物に目を向けた。
そこにはジョセフ様、いや、マナエル公爵が立っていた。
公爵は拡声の法術具を持ち、帰還した冒険者たちに語りかけた。
「諸君、まずは無事の帰還を嬉しく思う。神は諸君らの無事の帰還を叶え、家族や友人の元へと送り届けてくださった。諸君らの信仰と不断の努力がこのような喜ばしい結果を導いたのだと確信し、私は神に、そして神と共に戦った諸君らに深い感謝を捧げる」
公爵の言葉に、ある人は家族と抱き合い、ある人は神に感謝の祈りを捧げる。
「――だが。その上で、私は為政者として真実を語らなければならない。戦いはまだ終わっていないということを」
その静かで重い一言に、歓喜に沸いていた冒険者たちの表情が一瞬にして引き締まる。
「ワイバーンが襲来したことは聞き及んでいると思う。しかし、それは単なる前触れに過ぎなかった」
聴衆が固唾を飲んで公爵を見つめる。
「トータスダンジョンがスタンピードし、敵の主力がマナエルに迫っている」
それを聞き、冒険者たちがどよめく。
「東の城壁の方から戦いの音が響いてきたのを諸君らは聞いたと思う」
確かに、俺たちが帰還する途中、激しい爆発音が東の城壁の彼方から聞こえてきた。
「諸君らには、まずは喜んでもらいたい。たった今、東の城壁外の戦いにおいて……我々は、見事に緒戦の勝利を収めた!」
その瞬間、広場を揺るがすような大歓声が沸き起こった。抱き合って涙を流す者、拳を天に突き上げる者。
波のような歓声がしばらく続いた後、公爵が静かに右手を上げると、群衆は再び水を打ったように静まり返った。
「十年前の厄災戦において、我々は緒戦に敗退し、マナエルは一度失われた。しかし、今度は違う。我々は緒戦に勝利し、次の戦いに挑戦する権利を獲得した」
聴衆の表情が一気に引き締まった。
「倒すべき敵は、第二波、第三波、そして最後にはトータスダンジョンのダンジョンボスが控えている」
その言葉を聞き、聴衆の緊張が一気に高まった。
「だが安心してほしい。我々は何の策も講じずに無謀な戦いに挑むのではない。十年前は策を講じる余裕もなく、我々はただ逃げるしかできなかった。しかし、今日の戦いは勝ち筋のある戦いなのだ。我々はこの十年間を無為に過ごしたのではない!」
聴衆の目に希望の光が宿る。
「我々はこの十年間で成長してきた。力と知恵を持つ次世代がこのマナエルで育ってきたのだ。特に、ここ南の貧民街に住む住人たちはそれを実感しているのではないだろうか。諸君らはもはや希望のない民ではない。より明るい明日へと、胸を張って前に進む民となったのだ」
俺たちがよく知っている近隣の住人たちが強く頷いている。
「私は諸君らに強要しない。諸君らはゴブリン殲滅戦において死線を潜り抜け、よく戦ってくれた。だが、私はここで強く呼びかけたい。明日への希望のために、共に戦い抜く覚悟がある者たちを! もはやこの地を、二度と我々の手から奪うことは叶わないのだと、敵に知らしめたい者たちを!」
帰還した冒険者たちの表情に闘志が宿る。
「我らは再び神に願う。ここにいるすべての者が、この地にて希望に満ちた明日を共に迎えることを。今日と同じく、新しい週の聖日を共に迎え、隣人たちとパンを割き、盃を分かち合うことを」
冒険者たちの家族が共に抱き合う。
「どうか聞かせてくれ、諸君らの声を。共に戦い勝利し、再びここで凱歌を、神への賛美の歌を歌うことを願う諸君らの声を。共に明日の希望へと踏み出す諸君らの声を。今、私はここに宣言する!」
全聴衆の戦意が一気に高まる。
「我ら希望の民なり!!」
公爵の力強い叫びに、全ての聴衆が地を割るような唱和で呼応した。
「おおおおおおっ!!」
俺もまた、無意識のうちに拳を握り込み、全ての聴衆と一体となって声を張り上げていた。
熱を帯び、燃え上がるような群衆の声。
それは、聞く者の心に確かな『明日の希望』をともすように、マナエル全体へと広がっていった。




