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第101話 モグラ狩りたちは緒戦を突破する

「援軍、ありがとうございます!」


俺は通信を入れてきた騎士へ短く礼を言った。


しかし、返答はなかった。


おそらく、戦闘に突入したのだろう。


<ゲイル殿、後は任せる。思う存分やってくれ!>


「はい!」


レイモンド将軍からの通信に簡潔に返答し、俺は思考を立て直し、再び目の前の戦場に意識を集中させた。


徐々に土煙が晴れ、戦場が見えるようになってきた。


囮部隊も身を低くしていたが、健在なようだ。


陸亀トータスどもも、引っ込めていた足と頭をゆっくり戻しつつある。


「ヨハン、異常はないか?」


<陸亀以外の敵勢力は見えない>


ヨハンの返答を聞いて、俺は通信を開き、周りの味方に向かって叫んだ。


「敵の奇襲があったが、同時に王都から援軍が到着した! 喜べ! 援軍はシルバニア王国近衛第一騎士団だ! 後顧の憂いはない! 各人目の前の戦闘に集中してくれ!」


俺の通信に、味方の陣営から地を震わせるほどの歓声と雄叫びが上がった。


囮部隊もすぐさま攻撃を再開し、陸亀たちを再度引きつけながら誘導し始める。


フィーネさんの方に目をやると、彼女は俺の方を見て、笑顔で小さく拳を突き上げていた。


俺も同じように拳を握って応える。


敵の激しいブレスを前衛の重装剣士隊が防ぎ、その後方で法術師たちが間断なく法術を放つ。


その完璧な連携のまま、囮部隊は順調に後退し、いよいよ『クモの巣』のエリアへと入り込んできた。


「陸亀の目標が囮部隊から逸れないよう、遊撃隊、弓隊共に絶対に動くなよ!」


俺は通信で念を押す。


「ヨハン、陸亀の先頭がクモの巣の半分に達したら、槍部隊に攻撃指示を出してくれ」


<了解した>


張り詰めた緊張の時間が流れる。


クモの巣エリアの地面には無数の穴が空いており、囮部隊はそれに足を取られないよう気を配りながら後退しなければならない。


しかも目の前には、密集して迫り来る五千匹の巨大な陸亀の群れ。


隊員たちと、それを指揮するイストワール大隊長の胆力が試される極限の状況だ。


だが、ぶっつけ本番の作戦にもかかわらず、囮部隊は一糸乱れぬ動きで見事に後退を続けていく。


(いいぞ、もうすぐだ……)


俺は目の前の攻防を見つめ、唾を飲んだ。


その時、


<赤18>


ヨハンの声が聞こえた。


その瞬間、中間地点に達した陸亀が下からの衝撃に吹っ飛んだ。


わずかな時間、その陸亀は宙を舞い、逆さまに地に落ちた。


腹側の甲羅には大きな穴が空いており、陸亀は首を垂れて声を上げることもなく絶命した。


そして続けざまに、


<赤15、青8、緑11>


ヨハンが通信で番号を指定する。


今度は同時に三体の陸亀が宙を舞い、絶命した。


目の前の戦況は一転した。


ヨハンの連続する番号指定で次々と陸亀が打ち破られていく。


囮部隊は敵の注意を逸らさないよう、継続して攻撃を続ける。


「ゲイル、俺たちの出番はまだか?」


ハンクが俺に質問する。


「焦るな。このまま続けると敵の死骸が溜まって番号指定が難しくなる。だから、地下からの攻撃が通しにくくなり、打ち漏らしが出てくる。その時が俺たちの出番だ」


「時間が長く感じるぜ……」


ハンクはそう言って黙ったが、チャックやベンも同じような表情で戦場を見つめる。


俺も少々焦れてくるが、そこはグッと堪える。


(それにしても、相変わらず恐ろしいほど目がいいな、ヨハンは……)


あいつは陸亀の殿しんがりがクモの巣エリア内に入ったと見るやいなや、退路を塞ぐように後方の個体から集中的に仕留めさせていく。


この短時間で、敵の総数はすでに三割近く削り取られている。


俺は、ヨハンの完璧な誘導によって敵の後方が完全に遮断され、陸亀どもが袋のネズミになったことを確認すると、大きく息を吸い込んだ。


「弓隊、射撃自由。狙撃を開始せよ!」


と、待機していた弓隊へ一斉攻撃を命じた。


その瞬間、精鋭の弓隊が一斉に弦を鳴らし、陸亀を狙撃し始めた。


弓はいずれも強弓で高威力であり、また、矢じりはアダマンタイトを使用している。


矢は次々と陸亀の頭部を撃ち抜いていく。


<ゲイル、そろそろ限界だ>


ヨハンから通信が入る。


「了解した!」


俺は通信を開き、


「遊撃隊、待たせたな! 槍隊は地下で待機! 弓隊、間違っても味方を撃つなよ! 全員、突入せよ!!」


俺の号令と共に、堰を切ったように冒険者たちと特殊剣士隊が雄叫びを上げ、土塁の隙間からクモの巣エリア内へと雪崩れ込んでいく。


役目を終えた囮部隊はすでにエリア外へと退避していたが、聖治癒師たちと先ほどの風剣士だけはエリア内に留まり、素手と風斬撃で次々と敵を屠っていく。


俺は全遊撃隊の無事の突入を確認すると、自らも剣を抜き、戦闘の輪の中へと飛び込んだ。


ハンク、チャック、ベンは既に何匹かの陸亀を屠っていた。


やはりギルドでリースされた剣は格別の切れ味だ。


剣士たちが陸亀の頭部を次々と切り落としていく。


首を縮めた陸亀も縮めた頭部を剣で差し通して仕留めていく。


陸亀は密集しすぎているのと、味方同士が障害物となって、ブレスの狙いをつけにくくなっている。


躊躇う陸亀を剣士たちが容赦なく切り伏せていく。


刺突ピアシング


俺も手近な陸亀を仕留める。


だが、これだけ密集していると、どの陸亀が生きているか分からない。


「ヨハン、上から見て、まだ生きている陸亀の位置を教えてくれ」


<了解>


俺はヨハンの誘導に従い周りの剣士たちに指示を出した。


そして、しばらくの戦闘の後、


<ゲイル、残敵なし>


ヨハンからの通信が入った。


俺はかたわらに横たわる陸亀の甲羅の上に登り、思いきり息を吸い込んだ。


そして、


「緒戦を突破したぞ!!!」


と勝ち鬨を上げた。


その瞬間、全陣営から呼応するように、地を揺るがすほどの雄叫びが上がった。


こうして俺たちは、スタンピード戦の緒戦を無事突破した。



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