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第100話 モグラ狩りたちは最強の援軍を得る

俺は剣士隊、特殊剣士隊、法術師、冒険者、聖治癒師の一団それぞれに指示を出し、彼らに配置についてもらった。


それが完了して間もなく、伝令が駆け寄ってきた。


陸亀トータス接敵します!」


と、報告を行った。


俺は将軍たちに向き直った。


「では、俺は現場に入ります」


「やはり行くのか」


レイモンド将軍が俺に尋ねる。


「俺は現場にいるほうが向いてますから」


レイモンド将軍は顎髭をなでながら、


「可能なら、最後までここで指揮を取ってほしかったが、仕方ないの。では、せめてこれは持って行くがいい」


レイモンド将軍が通信士に指示を出すと、通信士は一つの法術具を俺に差し出した。


「領軍全ての法力通信の法術具と送受信できる法術具じゃ。必要と思う時に使うといい」


「そんな高価なもの……」


「これはゲイル殿が立てた作戦じゃ。最後まで責任を持たねばな」


俺はレイモンド将軍のその一言で何も言えなくなった。


「分かりました。お預かりします」


俺は渡された法術具を身に着け、


「では、行ってまいります」


将軍たちに一礼し、遊撃役の冒険者たちに合流するため走り出した。


今回の作戦では、最初に接敵するのは――重装の剣士隊が護衛する法術師たちだ。


剣士隊、法術師いずれも約四百名で、法術師には土塁などを構築する土法術師は含まれない。


土法術師には既に土塁形成で働いてもらっているため、今は休んでもらっているのだ。


剣士隊はクリストフ副隊長が率い、戦列を敷き、大盾で法術師たちを護衛する。


法術師たちは法術師大隊のサラ・ヴァル・イストワール大隊長が率い、四列に並び、百名の法術師が順次入れ替わり、剣士隊の盾の隙間から間断なく敵を攻撃する。


これに加えて、先ほど到着した聖治癒師たちが加わり、回復役を担ってくれる。


彼らは囮部隊で、後退しつつ分散進軍する敵をあるポイントへと誘い込む役割を担う。


今回、陸亀トータスを誘い込むポイントとして選んだのは、モグラ狩りたちが『クモの巣』と呼ぶ場所で、イビルモールがクモの巣のように横穴を多数形成しているポイントだ。


新たにイビルモールが入りこまないよう、念のためクモの巣エリアと外部の横穴をつなぐ経路は土法術師の形成した岩でふさいでいる。


クモの巣内の横穴はどれも補強されていて崩落の危険性はないが、本作戦のために、天井に無数の小さな穴を空けた。


横穴には、領軍の槍士一万名に騎士千五百名が潜み、天井に空けた小さな穴から、上を通る陸亀の腹に向かって槍のスキル攻撃を行うことで陸亀を仕留める。


現在接敵中の小型種の陸亀は背中の甲羅は硬いが、腹側の甲羅は薄く、槍のスキル攻撃で甲羅を貫通させることができる。


クモの巣のエリアは陸亀に向かってハの字の土塁が形成されており、誘い込まれた陸亀たちは自然と密集するようになっている。


俺たち冒険者の剣士たちと特殊剣士隊は土塁の外側に待機し、槍士が仕留め損なった陸亀を見つけ、土塁の切れ目から中へと入り、陸亀に止めを刺す役割を担う。


俺はレイモンド将軍から渡された通信法術具でヨハンに呼びかける。


「ヨハン、配置に付いてるか?」


<ついてるぞ。ゲイル>


ヨハンが返事をする。


今回、ヨハンはマナエルの城壁の上から、望遠監視の法術具でクモの巣を見張ってもらい、陸亀がどのポイントに侵入したのかを地下の槍士と騎士たちに通信法術具で伝える役目を担ってもらう。


「ヨハン、可能な限り敵をクモの巣の最奥へと引き込むよう、槍士と騎士たちに指示を出してくれ」


<了解した。ああ、眠い……>


「眠らないでくれよ!」


<分かってる>


槍士と騎士は穴から上を覗いているだけなので、陸亀の進行状況が分からない。


だから、ヨハンが彼らの目になり、攻撃タイミングを教える。


穴には番号が振られていて、攻撃タイミングになった時にヨハンがその番号を指定する。


誰よりも優れた目と、緻密な判断ができるヨハンでしかできない役割だ。


領軍の弓士三千名の内、二千名は城壁のバリスタ操作に回ってもらい、残り千名は俺たち遊撃役と共に土塁の外側に待機してもらい、俺たち遊撃役が突入する際の援護をしてもらう。


陸亀の体の部位で矢が通るのは目と口だけなので、当てるのは難易度が高い。


だから援護役の弓士千名は隊でも選りすぐりの者たちを選出してもらった。


「ゲイル、始まったぞ!」


ハンクが法術師たちの攻撃が開始されたのを教えてくれる。


第一撃が陸亀の群れに向かって飛び、着弾するのが見えた。


着弾した法術の多くは背中の甲羅に当たり、陸亀たちには大きなダメージは入っていない様子だ。


法術を放った第一列は後方に下がり、第二列目がその場で法術を準備する。


剣士隊は法術師の一列分、後方に下がり第二列目の法術師を守る。


第二列目が法術を放った時、敵も反撃を開始した。


小型種の陸亀のブレスは中級法術師の火球ファイヤーボールくらいの威力だと言われている。


敵から放たれたブレスが飛来し、着弾する。


剣士隊の持つ大盾が炎で包まれるが、受け止めた剣士隊には被害はない。


すかさず法術師の第三列が法術を放つ。


その中に一際、高速で射出される法術が混ざっているのが見えた。


その炎の法術は矢のように一直線に飛んでいき、ブレスを吐いたばかりの陸亀の口内へ正確に飛び込み、一撃で仕留めてしまった。


「すげえな。あれがサラ・ヴァル・イストワール大隊長だぜ」


と、ハンクが俺に教えてくれる。


サラ・ヴァル・イストワール大隊長、彼女は八年前のマナエル奪還戦の功労者だ。


俺たちも義勇兵として参加したが、彼女とは面識がない。


どうやら、陸亀たちは囮部隊の攻撃に無事引きつけられたようで、分散進軍していた陸亀たちが、囮部隊に向かって集まってくるのが見えた。


第四列が法術を放つのが見えた。


フィーネさんは第四列の北の端にいた。


俺も北側の土塁に隠れており、彼女が炎の法術を放つのが見えた。


(フィーネさん……)


俺は口には出さないが、彼女の名を心の中で呼んだ。


彼女が放ったのは火球ファイヤーボールだったようで、山なりに飛んでいき、陸亀の背中の甲羅に当たった。


ダメージは通っていないが、陸亀の注意は囮部隊に向けられているので、目的は果たしている。


陸亀たちも先頭の集団が次々にブレス攻撃を放ち、前進してくる。


どのブレスも剣士隊がしっかりと受け止めている。


最後方にいる聖治癒師たちが動いていないのを見ると、被害は出ていないようだ。


法術師たちの攻撃に先ほどイストワール大隊長が放った、矢のような法術が混ざるようになった。


幾本かは陸亀たちの口の中に入り、攻撃を受けた陸亀たちが仕留められていく。


陸亀たちが土塁の内側へと誘導されていく流れが形成されているのを見て、


「順調なようだな……」


そう俺が呟いた時、


<ゲイル! 北側からダイアウルフが接近!>


ヨハンから緊急通信が入った。


俺は振り返り北の方角を見ると、十匹ほどのダイアウルフが囮部隊の方へ向かって走り寄っていくのが見えた。


「なっ!」


俺はあまりに突然の出来事に一瞬言葉を失ったが、


「フィ、フィーネッ!!」


次の瞬間には、我を忘れて彼女の名を叫んでいた。


ダイアウルフは北の端にいるフィーネさんに向かって一直線で向かっている。


それに気づいたフィーネさんと周辺の法術師たちが大きく目を開き、法術を準備するが、クールタイムにある法術師は対応できない。


もうダメだと思った瞬間、


「うおぉぉぉぉ!」


雄叫びと共に輝く両拳を構えた屈強な男たちが、法術師とダイアウルフの間に割って入った。


「あ、あれは!」


そう、彼らは聖治癒師たちだった。


先頭に立つのはロキ神父。


彼の輝く拳が振りかぶられたと思ったら、次の瞬間、接近してきたダイアウルフの頭が破裂した。


あまりに早い打撃で、俺は目で追えなかったが、拳でダイアウルフの頭部を打ち砕いたことだけは分かった。


次々と迫るダイアウルフたちを聖治癒師たちは拳で砕いていく。


そして、イストワール大隊長も動いた。


なんと彼女は、南側に法術を放った。


その先には北側と同じくダイアウルフの群れが走り寄ってくるのが見えた。


イストワール大隊長の法術で何匹かが撃退されるが、尚も群れが接近する。


だが、そこに一人の剣士が現れる。


風剣士のようで、風のアシストにより高速でダイアウルフの前に躍り出る。


そして、目にも留まらぬ速度でダイアウルフを狩っていく。


(あれは聖治癒師たちと同行してた剣士だ!)


彼らが割って入ったことで、間一髪、南北からのダイアウルフの強襲は退けられた。


だが、俺の背筋を凍らせた『真の問題』はそこではない。


ダイアウルフは、魔境の奥地かダンジョン深層にしか現れないはずだ。


こんな魔境の浅い場所に、群れでいるわけがない。


それが、俺たちの横っ腹を突くように『突然』現れた。


導き出される答えは一つ――俺は、最悪の事態が起きていることに気づいた。


俺は通信法術具を起動し、司令所に連絡を試みた。


「こちら、冒険者のゲイル。至急、レイモンド将軍につないでくれ!」


俺が喋ると通信士の女性が応答する。


<りょ、了解しました!>


しばらくすると、


<こちらレイモンドだ。ゲイル殿どうした!?>


レイモンド将軍の声が聞こえた。


「ダイアウルフが現れました! 俺たちが足止めした敵のスタンピード軍の前衛の生き残りが地下を通って進軍してきました!」


<何だって!?>


レイモンド将軍とそれを取り巻く人たちが動揺しているのが分かる。


「驚いている暇はありません。クモの巣につながる北と南の横穴を発破法術具付きのバリスタで破壊してください!」


<そ、それは……言っている意味が分かって言ってるのか!?>


「はい、発破法術具が足りてないこと、今から撃つバリスタの矢は、陸亀の大型種用のとっておきの矢だと分かってます! ですが今、撃たなければ大量の魔物に南北から挟撃される可能性があります! そうなれば、乱戦になって厄災戦の二の舞になります!!」


<……分かった。直ちに射出する。クモの巣の内部の兵たちには被害は及ばないか!?>


「はい、地下については堅牢な岩できっちり塞いでいますから、大丈夫です!」


<分かった。おい! バリスタ部隊に通信だ!―――>


レイモンド将軍が俺の提案を受けて動いてくれた。


まさか、一度失敗した進軍方法を放棄せず、同じ方法で進軍してくるとは思いもしなかった。


(完全に俺のミスだ!)


俺は悔やんだが、今は一刻も早く、横穴爆破後の対応を考えなければならない。


おそらく、ダイアウルフは敵の先行部隊で、本隊はまだ南北の横穴を通って進行中だ。


横穴の爆破で進軍は鈍るかもしれないが、撃退はできないだろう。


「おい、ゲイル。何が起きてるんだ!?」


ハンクが俺に尋ねる。


「今説明する」


俺は通信法術具を起動しつつ、大声で周囲の冒険者たち、特殊剣士隊の隊員たちに向かって叫ぶ。


「聞いてくれ! 南北の地下からスタンピード軍の別働隊が進軍してきている。間もなく、将軍の命で南北の横穴を爆破する! 皆、爆発に備えろ!」


俺がそう言った直後、城壁からバリスタが発射された。


矢は横穴の位置に次々と刺さっていく。


そして―――


一斉に南北の横穴から爆煙が上がり、衝撃波が発生した。


この衝撃波に敵も味方も皆、動きを止め、身を低くする。


耳は耳鳴りで、周囲の音が聞こえなくなり、爆煙によって生じた土煙が周囲の視界を塞いでしまった。


俺は周囲の状況が分からないまま、身をかがめ、次の一手を必死に考える。


だが、どう考えても、現状で動かせる戦力など遊撃役の冒険者たちと特殊剣士隊くらいしかいない。


俺は再びレイモンド将軍に連絡を取る。


「レイモンド将軍、聞こえますか!?」


耳鳴りがする中、必死に聞き耳を立てるが、俺の呼びかけに対し返事が聞こえない。


先ほどの爆発の余波が影響しているのだろう。


俺は再度、呼びかけた。


すると、


<失礼しました! 通信聞こえます>


と、通信士から返事があった。


<ゲイル殿、無事か?>


レイモンド将軍が通信に出る。


「はい、無事です。レイモンド将軍、おそらく、敵の別働隊はまだ健在です。これから、俺たち遊撃役の冒険者と特殊剣士隊は南北からの敵の侵攻を止めるため移動します」


<何だって!? そんな少数で敵を迎え撃つ気か!?>


「仕方ありません。クモの巣の地下の人員は削れない以上、俺たちが動くしかありません! 陸亀の止めは弓士に任せます!」


<しかし……!>


将軍が躊躇したその時、ヨハンから悲痛な通信が入った。


<ゲイル! 南北の爆破範囲外の狩り穴から、魔物たちが地上へ這い出てきているぞ!>


「将軍、もう時間がありません! 俺たちは向かいます!」


俺が強引に事を進めようとした、その直後だった。


<――いや、その必要はない。南北の敵は我々に任せてもらおう>


どこからか、聞き慣れない声が通信に乱入してきた。


そして、ヨハンから再度通信が入った。


<騎兵だ!……南北に騎兵が現れた!>


ヨハンの叫び声に応えるように、


<避難民に妨げられ、到着が遅くなった。シルバニア王国近衛第一騎士団、ただ今王都から到着した! 後顧の憂いは我々が断つ、君たちはただ眼前の敵に集中してくれ!>


俺はあまりにも予想外の事態に言葉を失った。


だが、確実に言えることがあった。


俺たちは――王国最強の援軍を得た。



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