21:提携関係
「よく来たな。悪友」
「手厚い歓迎感謝します。大臣」
ホテル内、坂田さんと防衛大臣が邂逅する。私たちを案内した男はこの場所へ案内し終えると同時、エレベーター付近で待機を始めた。私は椅子に座る坂田さんの斜め後ろに立ち、彼ら二人の会話を聞いていた。
「坂田。なぜ私がお前をここに呼んだかわかるか?」
「勿体ぶらないでください。私を殺すためでしょう?」
大臣は笑みを零す。
「すまないな。私の目的のためには、お前が邪魔になってしまったのだよ」
「それじゃあ、冥土の土産にその目的とやらについて説明してもらいましょうかね」
坂田さんの言葉に、大臣は話を始めた。
「亡霊狩りを、私が支配する」
支配……か。具体的にはどうやって支配するのだろうか?
防衛大臣が管理しているのは、戦闘に銃を主として使用する自衛隊。自衛隊は能力が戦闘向きでない者たちが亡霊狩りの代わりとして向かう先であり、亡霊狩りを相手にすると先ほどのように制圧されてしまうことがほとんどだ。
能力者として強力な者たちが集う亡霊狩りを支配するということに自衛隊を用いると、返り討ちにされる可能性の方が私は高いと思う。……いや、条件次第かな。
「そして私はこの国の頂点に立ち、世界を変えるのだよ」
「世界を変える……ですか。そんな幼稚な考えを同年代から聞くことになるとは思いませんでしたよ」
「……私も彼らの話を聞くまではそう思っていたよ」
「“彼ら”……?」
世界を変える。そんな理想を掲げていた組織が他にもあったなと思っていた矢先、思い浮かべていたその組織の名が大臣の口から放たれた。
「能力者連合だ」
「……!」
何故今彼らの名前が出たんだろうか。その疑問は、大臣によって解消された。
「私は能力者連合と手を組み、計画実行時には彼らの助力を得る契約を結んだ。つまり坂田。お前ら亡霊狩りの敵は、自衛隊と能力者連合の二つだ」
聞き逃すことのできない話に、坂田さんが前かがみとなって彼を睨んだ。
「寧ろ私たちにとっては嬉しい報告ですな。敵対する二つの組織が同時にやって来るというのですから。これ以上に嬉しい話はない」
「……話は終わりだ。さあ、死んで貰おうか」
突如として大臣は立ち上がり二度手を叩く。
瞬間、私たちと彼との間にある天井が落ちてきた。周囲に粉塵が舞う中、私は坂田さんの前に立ち、敵の襲撃に備えた。
そして感知する。粉塵の中、三つの能源があった。
一つは大臣のもの。そしてもう二つは同じ能源。この感触は──能輩のものだ。
凝縮された時間の中、私はハルトと刑務所に訪れた時のことを思い出していた。それは媒獣の感触を覚えておくため、地下に行った時のこと。あの化け物の能源は、能輩の感触と同じだった。
つまり、今私の目の前にいるのは────
「殺れ!」
見えない場所で、大臣の声がする。同時、二つの能源がこちらへと突進するのを感じ取る。
私は携えていた刀を鞘から引き抜き、能源を込め、粉塵を薙ぎ払った。視界が晴れたことにより、彼らの姿が顕となる。やはり、一人の能輩と媒獣。
私は大きく息を吸った。
イメトレは何度もしてきた。媒獣は頭を潰す他に倒す術が無い。あの素早い動きへ対応し、頭部を潰す。
私は襲いかかる媒獣の腕を剣で振り上げるようにして斬り落とし、即座に能力を発動した。
「『追重力』」
媒獣は瞬く間に頭から潰れ、私は意識を能輩へと移す。無精髭が生え揃った中年の男。手には弓と矢、背中に矢筒を背負っていた。
私は刀に能源を乗せ、まずは間合いを詰めることに着手することに集中する。能輩は矢に能源を込め、私へと弓を用いて連射してきた。避けることは容易かったが、私の後ろには坂田さんがいる。
彼を殺されてしまえば、実質的に私の負けだ。前方には数発の矢、後方には坂田さん、そして坂田さんを人質に取ろうと走り出す待機していた男。
この状況を打開するために、私は能力を発動した。
「追重力」により矢を落とした後、「支配」を発動する。
「ルールを決めましょうか」
瞬間、能輩と背後の男が動きを止める。正確には、今私止めた。
「何っ……!」
「何だ……!?」
私は顎に手を当て、この場に沿ったルールを考える。考えを吟味したうえで口にした。
「一対一でやり合いましょう。平等にね。まずはそちらの自衛隊の方から。こちらに来てください」
私の能力により、ルールは強制され彼の足は自ずと動き出す。彼は困惑したままの状態で私と向き合い、足が止まると、彼の意思で即座に銃をこちらへ向けた。そして発砲する。
だが、私は予め怜音の能力で壁を作っていたため、その弾丸が私のもとに届くことはなかった。意表を突くことにより、私の刀が彼へ届く。彼の首元寸前、皮一枚のところで刀を止めると、彼は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。
私は彼の落とした銃を蹴り飛ばし、能輩の方へ振り返る。
「それじゃ、次はあなたです」
**
場所は移り、冬神と橘は巨漢の亡霊と対峙していた。
「そういえば、亡霊狩りには等級制度があるんだっけか。お前ら、何級だ?」
「……私は亡霊狩りではありません」
「二級だ」
冬神は敢えて一つ下の等級を言う。彼との能源量の差は果てしない。その差を埋めるには、相手を油断させてその隙を突く他無い。真っ向勝負となれば、確実に殺されるのだから。
冬神らは、彼を倒す必要は無い。彼らの目的は坂田の護衛であり、対抗勢力の撲滅ではない。坂田さえ無事であれば、今回の任務は成功なのだ。
だが、冬神の信念がそれを否定した。たとえ勝ち筋が無くとも、たとえ能源量に圧倒的な差があったとしても、初めから勝つという選択肢の無い戦いはしない。選択肢が無ければ、自分で作り出すのみ。
だからこそ彼は偽りの言葉を吐き、必死になっている。その必死さがまるで男に伝わったかのように、彼は冬神の虚言を見抜いた。
「嘘を吐くのが下手だな。その能源からして準一級程度の実力はあるだろう?」
「……!」
“感知”は、相手の能源を推し量るためだけの術ではない。能源には個人特有の揺動があり、その振れ幅の程度が微々たるものである程、能源の操作に長けており、基本的には強者であることを示す。
冬神は能力の性質上、能源の操作に精密性が求められる。故に彼の能源の揺動は少なく、それを根拠として男に嘘であることを見抜かれたというわけだ。
冬神の隣、橘が尋ねる。
「冬神さん。逃げるなんてこと、しませんよね?」
「……当たり前だ。あんたこそ逃げんなよ」
「舐めないでください」
二人は戦闘態勢を取る。対峙した男も戦闘態勢を取る。
「自己紹介を忘れていたな。俺は『尾上』。能力者連合の人間だ」
「……冬神だ」
「橘です」
尾上が地面を蹴り、瞬く間に二人のもとへ移動する。彼が冬神へ拳を振るうと同時、冬神は仰け反ってそれを避け、彼の腕に自身の能源を付着させる。そして橘は尾上の横腹に蹴りを入れようと、足を横に払おうとする。
瞬間、彼女の蹴りが当たるよりも早く、尾上の蹴りが彼女を吹き飛ばした。冬神が反応する間もなく、尾上は能力を発動。
「『取捨選択』」
同時、冬神による能力を利用した死角からの攻撃。尾上はその攻撃を見ることなく、能源の纏った手で受け止めた。冬神の喫驚、瞬時に尾上の攻撃が彼へとヒットし、彼は遠くにいた橘付近へと飛ばされた。
「大丈夫か?」
「ええ、攻撃が当たる寸前に能源でガードしたので何とかなりました。もし一瞬でも遅れていたら内臓が破裂していたでしょうけどね」
橘がそう表現する程に、彼の打撃の威力は凄まじいものだった。実際、能源を集約させ彼の攻撃を防いだ冬神にとっても、彼の打撃による痛みは鋭いものであった。
「……橘。今の奴の動き、見たか?」
「……? いえ」
「奴は俺の死角からの攻撃を見もせずに防いだ。感知で防いだのかもしれないが、能源の揺動的に恐らくは能力の類だ。気をつけろ」
「わかりました」
二人の会話に、尾上が割って入った。
「ちまちま戦うのは好きじゃないんでな。俺の能力を説明してやろう」
身構える二人に対し、彼は続ける。
「人生は選択の連続だ。俺はその選択肢を把握し、いついかなる状況においても、最善の道を選ぶことができる。これが俺の能力『取捨選択』」
無反応の二人に、彼は説明を重ねることにした。
「分かりやすく言おう。不可避の攻撃以外、ありとあらゆる攻撃には回避の方法がある。ただ、回避の手段を知らなければ、避けられる攻撃も避けることができないだろう? 俺はその避ける選択肢を能力で予め知り、それを辿る。つまりだ。簡単に言うと、お前らの攻撃の全ては俺には通用しない」




