22:雌雄を決する者たち
「通用しない……か」
尾上の説明を受け、冬神は呟く。尾上の能力は自身が置かれている状況下における最善の選択をするためのものであり、冬神らが攻撃したとしても、その攻撃は最善の未来によって回避されてしまう。
だがしかし、亡霊狩りとして多くの戦闘を重ねてきた冬神には、一つの打開策があった。
「橘。さっきの能力を戦闘と平行して発動することは可能か?」
「問題ないです」
「俺とお前の二人で同時に奴を叩く。俺とお前、ピンチになった方に能力を発動しろ。奴へのとどめは、俺が刺す」
「……わかりました」
二人は走り出す。
尾上の能力は具変系やベクトル系などの、攻撃性のない能力。つまり、彼の攻撃の手段は自身の身体能力に依存するということ。冬神は、その部分を尾上のウィークポイントとみなし、突くことにした。
冬神の拳。避ける尾上。反対側からの橘の蹴り。避ける尾上。避けた先への冬神の蹴り。避け、反撃する尾上。橘がそれを能力によって防ぐ。
一進一退の攻防を繰り返す三者。
暫くは同じ状況が続いたが、ある瞬間、戦況は大きく傾く。
冬神と橘が同時に攻撃を仕掛け、尾上の逃げ道を無くす。冬神の拳が彼の顔面へ、橘の拳が彼の鳩尾へと伸びて行く。
瞬間、尾上の体が鮮やかに発光する。そして、彼の体の至る所から高密度の能源が銃弾のようにして放出され、二人の体の複数箇所を貫いた。
血を吹き出しながら、体勢を崩す冬神と橘。服に血が滲み、苦痛に顔を歪める。そんな彼らを、尾上はにたりと笑みを浮かべながら眺めていた。
「悪い悪い。こっちの能力は言って無かったな」
冬神が地面に膝を着き、橘は倒れる。痛みの中、冬神は彼を見上げた。
「能源を弾丸状に固めて全身から放出する能力……ベクトル系か」
「お別れだな」
尾上は手で銃の形を作り、その銃口を冬神へと向ける。絶対絶命のピンチ。にも関わらず、冬神は薄ら笑いを浮かべていた。その表情に疑問を抱きつつも、尾上は能力を発動する。
その寸前、尾上の腕がグンと曲がり銃口が彼の頭に向く。能力発動の解除が間に合わず、尾上は自身の頭部へと発砲した。
戦闘開始時、尾上が振るった拳に付着させた冬神の能源が、まだ生きていたのだ。
冬神の能力「無秩序」には、対象の軌道を変える他にもう一つの特徴がある。一定時間以上対象に付着させ続けた能源に、“方向の伴った速度”を与えることができるのだ。
そして尾上の能力「取捨選択」には、一つ致命的な弱点がある。
尾上は攻撃を認知したうえで能力を発動し、攻撃の着弾までに最善の未来を選択して攻撃を避ける。そのため、認知の外側から訪れる攻撃に対しては対処法がないのだ。
頭が貫かれ、意識が遠のいていく中、尾上は最後の力を振り絞って冬神に銃口を向ける。
「クソッ……!」
相打ち覚悟。しかし彼の銃弾は、意識を取り繕った橘の能力により防がれた。
そして、力なく倒れる尾上。彼はその圧倒的な能源を持ちながらも、二人の能力者によりその経験と能力の前に散ったのであった。
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能輩。媒獣と能源による契約を交わした者に冠される俗称。
そしてこの人は今、私によりその強み──媒獣を潰された。本人のみでの戦闘においては、私に勝敗の天秤が傾いている。
この人さえ倒してしまえば、私たちの勝ちだ。武装した人は倒したし、他の武装した人たちはレオと姫野さんによって動けない状況にある。大臣に関しては、媒獣を潰された時点で腰が抜けたみたいで、今はその場で地面に尻を着いている。
「やるしかない」と、その言葉が頭の中で何度も反復される。
「もしやお前、煌然澪か?」
突如質問を投げかけられ、一瞬固まったが、私は答えた。
「何でそう思うんですか?」
「俺たち能力者連合の間ではお前の情報が共有されていてな。大体の体裁は知っている」
「ああ、なるほど」
関心しつつも、恐怖を感じる。情報が共有されているということは、街を歩いている最中とかに襲われたとしても不思議ではないからだ。寧ろ、今まで無事だったのが不思議なくらいだ。
私は刀の切っ先を彼へ向ける。能力者連合の人間とこうして対峙するのは二度目だ。
「お手並み拝見といこう。お前がどれほどの実力者なのか、俄然興味が湧いてきた」
「よろしくお願いします」
私は刀を振り、彼の胴体を狙う。したがって彼は腕全体に能源を込め、腕で刀を受け止める。私は彼が受け止めた刀へと能源を込め、腕全体の力で刀を彼の腕へと食い込ませていく。ズブズブと刀が肉を斬り裂いていく中、彼は腕を逸らすのではなく、もう片方の腕で刀を側面から殴りへし折った。
即座に彼は足を振り上げ、私へと蹴りを入れようとする。折れた刀でその蹴りをいなし、私は能力を発動した。
「『放換』」
能輩はそれを軽い身のこなしで避け、能力を発動した。
「『賭け人』」
そして彼は私へと殴り掛かる。私はそれを腕で受け止めた。だがしかし、その威力は私が思うよりも遥かに強いもので、私は体全体に強い衝撃を受けた。
体勢を取り繕いつつ、私は折れてしまった刀を捨てる。彼は語りだした。
「俺の能力はギャンブル。俺が『当てる』と思った攻撃が当たった場合、2分の1の確率でその威力が1.5倍になる。そして連続してニブイチを引き当てた場合、前の1.5倍の攻撃の2倍の威力となる。但し、ニブイチを外した場合、その攻撃の威力はゼロだ」
彼の能力を把握しつつ、私は疑問を口にする。
「何で私に教えるんです?」
「俺はお前の能力について知ってるからな。こっちだけ有利じゃ、平等じゃないだろう?」
「案外良い人ですね。あなた」
拳に込められた能源から予測した以上の威力。つまり、今の攻撃に際しては彼が2分の1を引いたということ。そしてもしも次、彼が再び2分の1を引いた場合、この衝撃の2倍の威力が私を襲う。
そうなれば、次は無傷で受け止めきれるかどうかは分からない。そのうえに、何度も2分の1を引き続けた場合、それこそ勝負に勝ち目が無くなってしまう。
狙うは早期決着。私は能力を発動する。
「『追重力』」
私が能力を発動した範囲から、素早い動きによって逃れる能輩。彼は私へと拳を突き出す。
当たってしまえば、大ダメージを負う可能性がある。私は後ろに飛んで彼の拳を避け、再び能力を発動した。
「『放換』」
四方八方からの放換。彼はそれを拳に能源を込めて、全て叩き落とした。恐らくは能力を使用せずに。驚きと同時、それによって生まれた隙へ、彼は拳を入れた。
私は腹部に、先よりも遥かに重い衝撃を食らう。彼が再び二分の一を引き当てた何よりの証拠だ。
「っ……!!」
地面に膝を着き、吐血した。攻撃着弾の直前、能源で腹部を強化したのにも関わらずこの威力。また直撃してしまえばもう後が無い。
私は腹部の痛みを感じながら、血を吐きながらで、後ろにいた坂田さんへ叫んだ。
「坂田……さん……! 逃げて……!」
瞬間、私は能輩によって後頭部へと打撃を受け、気を失った。




