20:接触
私たち六人は一つのワゴン車に乗り、高速道路を走行していた。
走行中、トラブルが起こると予め踏んでいた私たち護衛の四人は、常時警戒態勢を取っていた。また、もしワゴン車が走行不可能となった場合に備え、私たちの乗る車の後ろに更にワゴン車を一台走らせている。
高速道路に入ってから約三分後、私たちの想定通り、トラブルが起こった。
パアンという音と共に、車体の制御が利かなくなり、勢いをそのままに車は横転した。本来ならば大事故に繋がり兼ねなかったが、レオが能力を発動したことにより車体、そして私たちへのダメージを最小に留めた。
横転した車の上の扉を開け、私たちは脱出を試みる。まずレオ。次に私が車から出ようとした。
その時、レオが私へと叫んだ。
「ミオ! 伏せるんだ!」
「えっ?」
私の判断ミスを、助手席の方から既に脱出していた冬神さんが補った。私の顔面直前まで飛んで来ていた弾丸と私の間に能源の込めた手を挟め、着弾すると同時に能力を発動して弾丸の軌道を変えたのだ。
私は急いで伏せ、レオが能力で形成した空気の壁の後ろに冬神さんと共に隠れた。それから、焦って冬神さんに確認をした。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「ああ。お前が思ってるよりは軽症だ」
「良かったぁ……」
内心ホッとしつつ、私は現状に意識を移す。遠く離れた位置に車道の中央で停車している一台の車がある。そしてその車の両横に、銃を構える武装した複数の人。ワゴン車の後輪が二つパンクしていたことから、私は彼らがタイヤをパンクさせたのだと知る。
「二手に分かれるぞ」
二台のワゴン車を覆う形でドーム状に弾丸をも弾く空気の壁を形成した後、レオがそう切り出した。その間に横転したワゴン車の中から運転手を含む他の四人が脱出をしていた。
「俺と冬神であいつらを足止めする。その隙に澪と姫野はあっちの車に乗って目的地に向かえ」
私はそれで異論なかった。レオの能力があれば銃であったとしても敵ではないだろうし、きっと跳ね返すこともできる。この状況を無傷で打開できるはずだ。だが、冬神さんは異議ありのようだ。
「待った。橙田の能力はまだ温存しとくべきだ。ここは俺一人に任せてくれ」
「あなたの能力、銃とは相性が悪いんじゃないの? 最悪死ぬわよ」
「……任務で死ぬなら本望さ」
口元に笑みを浮かべる冬神さん。レオはワゴン車へと歩き始めた。
「えっ、ちょっと……レオ?」
「共に任務をこなしている以上、俺たちは互いを信頼しなくちゃならない。冬神は俺たちに“任せろ”と言っているんだ。なら、俺たちはその言葉を信じるべきだろう?」
「お前とは友達になれそうだな。橙田」
したがって、後ろめたい気持ちを抱えながらも、私たちは後方に走らせていたもう一つのワゴン車へと乗り込む。
「運転手さん。ここは彼に任せ、私たちは先へ進みます。運転お願いします」
「わっ、わかりました!」
冬神さんはレオの壁の前で準備運動をしている。皆が続々と乗り込んでいく中、メイドさんは一人、その場で冬神さんの方を見ていた。
「メイドさん?」
「澪さん。坂田様は任せました」
同時、私が彼女に向かって声をかける間もなく、メイドさんによって扉は閉ざされた。
皆が乗ったことを確認してから、車は発進する。
レオのドームが能力の解除によって徐々に崩れていく中、メイドさんと冬神さんは銃を持った彼らへと立ち向かっていく。私はそれを、車の中から眺めていることしかできなかった。
**
「何だ、あんたも残ったのか」
「冬神さん一人じゃ、心もとないですからね」
「ははっ、言ってくれるな」
冬神塔真の能力「無秩序」は、対象に能源を付着させ、その付着させた数の分、対象の軌道を強制的に変化させる能力。この能力の強みは能力を発動することのできる対象に“自身”も含まれているということ。
但し、自身が動いていなければその強みは発揮できず、その速さが緩慢なものであれば尚更だ。
そこで冬神は飛行機内で知ったメイドの能力を利用することにした。
「あんた。俺が合図したら、俺に能力を付与してくれ」
「わかりました」
メイド「橘 美優」の能力「守護者」は、他者系に属する能力。“2秒間”、能力の効果を付与した対象にありとあらゆる攻撃を弾く能源の盾を付与する。盾は対象とともに移動し、攻撃を能力者の意思を介在せずにオートで弾く。
但し、対象に付与できる盾は一度に一回のみであり、対象が自身を中心とする半径1.5メートル以内にいる場合にのみ能力を発動することができる。
車の発進する音が後方から聞こえる。車を進めるため、レオのドームが崩壊を始める。
その中で、冬神はクラウチングスタートの構えを取る。
足に能源を溜め、ドームの完全崩壊と共に、冬神は走り出す。同時、彼は叫んだ。
「今だ!」
「『守護者』」
冬神の位置から銃を構える敵の位置までは50メートル前後。能源を利用して大幅に強化された脚力により、冬神は50メートルを2.5秒で走るに至る。
冬神が走り出すと同時に何発もの銃から彼に向けて発泡される。銃弾を橘の能力が防ぎ、その間冬神は臆することなく走り続ける。
2秒の経過。橘の盾が消える。走る冬神の顔面めがけ、銃弾が飛ぶ。
その時、冬神は予め自身に付着させていた能源を利用し、能力を発動する。自らが上空へと飛び上がり、武装した者たちがその冬神を目で捉えるよりも早く、彼は上空で再び能力を発動。銃を構える者たちの方向へと方向と速度を変えることにより、50メートルを完走。
瞬時に能源を利用した基本的な体術によって彼らを気絶させ、制圧した。転倒した車の陰から見ていた橘に対し、グッドポーズをする冬神。安堵から、両者は笑みを零した。
その瞬間、両者は銃を持っていた者たちが乗っていた車から、邪悪な能源を感知する。冬神は一度後退し、橘は車の陰から出る。車から出てきたのは、亡霊の能源をした巨漢であった。
「やっぱ、亡霊狩りは一筋縄じゃいかないわな」
冬神と橘の脳裏に戦慄が走る。彼の脳源量は、冬神や橘のそれを足しても尚、軽く凌ぐ程の量であった。
**
冬神さんたちが足止めをしてくれたおかげで、私たちは難なくあの場を切り抜けることができた。
だがしかし、直ぐに次の問題に直面した。
ホテルの出入口付近、先程と同じような武装した人たちが大勢で潜伏していたのだ。
おかげで私たちは車から出て直ぐに潜伏していた彼らに包囲されてしまった。そのうえ彼らは皆、銃を持っている。
「何が狙いだ?」
レオが彼らに対して問いかけた。対し、彼らの一人が答える。
「防衛大臣がそこのジジイと話したがっててな」
「だったら、さっさと俺たちを通させてくれ」
「生憎だが、大臣からの指示でね。中にはジジイ一人で入れるよう言われている」
瞬間、レオが能力を発動した。そのことに彼らが気づくよりも、レオが話している人の持つ銃の先を片手で握った。
「いいか? よく聞け。俺やこの仲間たちはお前ら程度なら瞬殺できる」
そしてレオは力を込め、銃を湾曲させた。彼の力量に彼は驚く。そして私も密かに驚いていた。
「なっ……!」
「お前らを殺さない代わり、こっちからの提案も一つ呑んでくれないか?」
よく見ると、銃全体にレオの能源が込められていた。私は彼が能力によって銃を曲げたのだと理解する。
「……少し待て。大臣に繋ぐ」
彼はそう言うとトランシーバーを手にし、それに向かって話し始めた。それから少しすると、彼はレオにトランシーバーを渡した。レオはその向こうにいる大臣へと、自身の提案についてを話し始めた。
「防衛大臣。俺は亡霊狩りの者だ。今こっちには上層部の坂田と、俺の他に二人の亡霊狩りがいる。そこで一つ提案だ。俺たちを囲んでいるこいつらを皆殺しにされたくなければ、俺たちの中から一人、上層部と一緒にそっちへ向かわせてくれ」
「……良いだろう。亡霊狩りが一人いたところで何も変わらないだろうからな。だが、同行するのはお前以外の誰かだ」
「何でだ?」
「勘だ。お前、強いだろう?」
「……わかった。それでいい」
レオがさっき「瞬殺できる」と言ったのはあくまでレオ自身に限ったことで、私や非戦闘向けの能力者である姫野さんはその言葉に該当しない。だから、レオが私たちの命を優先しているのなら、彼はこの場から動くことができない。
そのため、こっちとしては好都合だ。レオが姫野さんとここに残り、彼女を守る。そして私が坂田さんと同行し、大臣のもとへと向かう。それでいい。
レオはトランシーバーを男へと返す。
「条件成立だ。俺たちはお前たちに危害を加えない。だが、お前たちがこちらに危害を加えようものなら、即殺す」
「わかったわかった。それで? どっちが行くんだ?」
男は私と姫野さんの方へ視線を向ける。私は言った。
「レオ。私が行く」
「……ああ。死ぬなよ」
レオの言葉を受け止め、私は武装した男たちの一人に連れられて、坂田さんと共にホテルの中へと歩みを進めた。




