19:道中
「北王都……何故ですか?」
「防衛大臣から意見交換会にお呼ばれしていてな。自衛隊との関係を良好な状態に保つためにも、断ることはできない」
防衛大臣、か。死期占いのことを伝えれば予定をずらすことくらいはできるんじゃないのかな。
私の思考を能力で読み取ったらしい姫野さんが、坂田さんへと尋ねた。
「一つ質問させてください。死期占いのことは防衛大臣の方に伝えたんですか?」
「ああ。そのうえでお呼ばれしてもらった」
「どうしてですか?」
坂田さんの死期を知っていて、意見交換会へ誘った。それってつまり……そういうことじゃないのか?
「考えてみろ。大臣が私を殺そうとしていると思い込み、誘いを断ればそれこそ関係悪化に繋がりかねない。だが、もし第三者によって私と大臣のどちらも同時に狙われるとなれば、大臣の身にも危害が及ぶ。その時には、私たち亡霊狩りが大臣を守らなければならない」
そこで私は口を挟んだ。
「ちょっといいですか。そこの占い師さんに質問させてください」
「ああ、構わんよ」
「占いで出た結果って確実なんですよね? それって坂田さんがどこにいたとしても同じ結果ですか?」
私が言いたいのは、もしこれから坂田さんが海外に一週間くらいの旅行へ行っても死んでしまうのか、ということ。
占い師は答える。
「そうだ。死因こそ変わるかもしれないが、死ぬ可能性自体は変わらない。それが死期占いというものだ」
「わかりました。ありがとうございます。坂田さん、今占い師さんが仰った通りです。もし防衛大臣の身の安全を重視しているのなら、坂田さんが大臣のもとへ向かうことで逆に巻き込んでしまう可能性があるんじゃないんですか?」
坂田さんは深く頷く。それから、続けて言った。
「煌然くん。君は私が多くの亡霊狩りから嫌われていることは知っているだろう?」
「……ええ、まあ。噂程度には」
「君たちには悪いが、丁度良いと思ったのだよ。組織を変えるためには、上が変わるしかない。いつまでも我々みたいな老人が上に立つ必要は無いと思ったのだ」
**
「わかんないです」
「何が?」
出発は一時間後。私たち護衛任務に携わる者たちには休憩目的で二つの客間が与えられ、私たちは男と女に分かれてその客間を利用することにした。
客間の中、鏡の前で髪を整えていた姫野さんに私が話しかけていた。
「何で坂田さんって嫌われてるんですか? 話した感じだと、そんな悪そうな人には思えなかったんですけど」
「……あなたはまだ亡霊狩りに来てから間もないから知らないでしょうけど、上層部って人使いが荒いのよ。それに昔からの規則を重んじてたり、面倒事を押し付けたりで嫌われる理由は様々ね」
確かに、御影さんも「地位に頼ってる」とか何とか言ってたような気がする。でももし坂田さんが本当に組織を変えたいと望んでるなら──
「あの時、上層部があなたに言ってたことは本心だったわよ」
「えっ? あっ、また心読みましたね?」
「ぼーっとしてるあなたが悪いのよ」
姫野さんは髪を整え終え、私の正面にある椅子へと座った。
「こんなこと考えたくはないけど、もしかすると上層部は自分を殺してくれる存在を求めてたのかもね」
そう言われ、私は複雑な気持ちを抱えた。
**
北王都市は洋館のある乾空市から飛行機で約二時間。そのため移動手段はチャーターのプライベートジェット。搭乗員は坂田さんが信頼する人間が務めた。また、チャーター機に乗る人数は制限し、私たち四人と坂田さん、そして洋館にいたメイドさん一人が機内へと乗り込んだ。
空高く、私はメイドさんと会話していた。
「あっ、やっぱり高校生なんですね」
「ええ。坂田様とはちょっとした縁があって、あの洋館でメイドを務めています」
「へぇ〜。えっ、普段どんな仕事してるんですか?」
「そうですね……洋館に侵入してきた人のお掃除をしてます」
「ああっ……! なるほど……」
移動開始から約三十分が経った。機内で睡眠を始める者たちがいる中、私はメイドさんとスマホで対戦ゲームをしていた。そんな時、事件は発生してしまった。
前触れなく、機体が大きく揺れる。酸素マスクが降りてくる中、怜音が急いで操縦席へ向かったのを見て私も席を立ち上がり、彼の後を追った。そして驚愕する。
操縦席に座っていた男性が、全身から大量に出血をしていたのだ。
「どうしたんですか!?」
男性は微かな声で、途切れ途切れ今起こったことを説明し始めた。
「わから……ない……突然体が……中から爆発した……」
「“中から爆発”……?」
「どきなさい!」
後ろから私を押しのけるようにして現れたのは、姫野さん。彼女は男性の顔面を手で覆い、能力を発動した。
「『透き通る思考』」
姫野さんは操縦席から彼を引きずり下ろし、私たちの方へと運んだ。
「助かる可能性は低いと思うけど、お願い」
怜音が意識を失った彼の首に手を当て、脈を測る。彼が頷いた後で、私は男性に霞田さんの能力を発動した。
「『不完全な回帰』」
能源がごっそりと持っていかれたが、彼の傷は完全に治癒した。私は視線を移し、操縦席に座った姫野さんの方を見る。彼女は能力によって男性から得た知識により、見事このチャーター機の操縦に成功していた。
「澪。今から私の思考をあなたにあげるわ。あっちであの人たちに伝えてきてちょうだい」
姫野さんの能力により、私は言葉を交わすことなく彼女の思考を手に入れる。
言われた通りに私は後方へと歩いて行き、機内にいた者たちの安全を確認したうえで、一度呼びかけてこちらへと注目を集める。
「皆さん、聞いて下さい」
「何か起こったのか?」
坂田さんの問いに対し、私は全体への説明を始めた。
「パイロットの方が何者かに襲われました。傷や当人の証言から、能力者による仕業と見てまず間違いありません。ですが、問題なのはパイロットを襲った犯人がこの中にいるかもしれないということです」
冷静な面持ちを維持したまま、彼らは私の話を聞いていた。
「皆さんも知っている通り、パイロットが被害に遭う前後、操縦席を訪れた者は誰一人いませんでした。にも関わらず、パイロットは能力による被害を受けた。つまり、犯人の能力は遠隔による能力の発動が可能なものか時間の経過によって能力が発動するもののどちらかです」
姫野さんの思考に基づき、説明を続ける。
「ただ、能力を発動する際には能源量が変化するので前者はほぼ無いと言っていいでしょう。となれば必然的に、パイロットを襲ったのは後者のタイプの能力者です」
「そこで」と、私は足を進めて彼らの中心へと移動した。
「お互いの能力を明かしませんか? 私たち護衛の四人は既に共有していますが、メイドさんと坂田さんの能力は知りません。皆さんの潔白を示すため、教えてください」
その場にいたものは私の提案に賛同し、メイドさんから順に能力の開示を始めた。だがパイロットさんを襲った能力の持ち主はこの場にはいなかった。つまりそれは、この場にいない者によって仕掛けられたということを示す。
パイロットと合流したのは空港であったから、恐らく空港内に上層部の命を狙う者が潜んでおり、搭乗前にパイロットへと能力を発動していた。真実はきっとこうだ。
そう結論づけた私たちは、ひとまずパイロットの意識が戻るまでは姫野さんにチャーター機の運転を任せることにした。私は操縦席の近くに立ち、姫野さんと会話する。
「姫野さんがいて助かりました。姫野さんがいなかったら、私たちここで全滅でしたよ」
「ほんとにね。私に感謝しなさい」
「ありがとうございます、姫野さん」
パイロットが目を覚ますことは無かったが、姫野さんの技量によってチャーター機は無事に着陸した。パイロットを空港の休養室へと運び、私たちは先を急ぐことに。
意見交換会は今日の午後六時から始まる。これから車に乗り、私たちは意見交換会の行われるホテルへと約一時間と二十分かけて向かう。現在の時刻は四時半であるため、時間はかなりギリギリだ。
道中、何も起こらなければいいのだが。
高速道路を走る車に揺られながら、私はそんなことを考えていた。




