13:敵は本部の中に
「二人とも。少し話がある」
画面から目を話した春斗が、私たちの方を見た。真摯なその目に、私たちは話を聞かざるを得なかった。
「今、怜音から『敵がこの本部の中にいる』という連絡があった」
私と三葉は等しく驚きを受ける。
「本部の中に敵? それ本当?」
「冗談でこんなこと言うと思うか?」
「……多分、傀儡使いだ」
私の言葉に、三葉が反応する。
「澪。何でそう思うの?」
「御影さんと怜音は傀儡使いを倒しに蓮花市に向かった。だから多分、二人には傀儡使いの居場所におおよその見当があったんだと思う。でも、今メールが来たんなら、その見当が外れたんじゃないかな」
私の説明に春斗は頷いた。
「なるほどな。可能性が一番高かったのが蓮花市で、次に高いのがこの本部、と。でも本部に敵がいるなんて、そんなことあり得るか?」
亡霊狩り本部へと入るためには、逐一行われる検問を通過しなければならない。無論、証明手帳を見せれば多少検問にかかる時間は短縮されるが、それでも厳重なことに変わりはない。だから、本部内に傀儡使いがいるなんてことは有り得ないことなんだ。
ただしそれは、傀儡使いの能力を加味しなかった場合の話。春斗と私が知っているあの傀儡使いは、傀儡使いではない可能性があり、その能力さえも異なる可能性がある。
「もし敵がいなかったとしてもさ、警戒するには越したことないんじゃない?」
「……それもそうか」
二人はそう言ったが、私はそうは思わなかった。
「春斗、三葉。ちょっと私の無茶に付き合ってくれる?」
三葉は首を傾げたが、春斗は不敵な笑みを浮かべていた。
私が二人に話したのは、傀儡使いがこの本部にいると仮定したうえでの私たちがすべきこと。それに関わって、私が推測した傀儡使いの能力についても説明しておこう。
御影さんは、傀儡使いの能力について、以下のパターンを考えていたと思う。
パターン1:対象の能源を自身の能源の性質に変える能力
パターン2:対象に自らの能源を注入する能力
私が思うに、このパターンのみで相手の行動を予測したために御影さんらは傀儡使いの居場所を誤ったのではないだろうか。傀儡使いの能力を推測するうえで必要なのは、この二つのパターンに加えてもう一つのパターン。そして、傀儡使いの能力はそれらパターンをブレンドしたものなのではないか。
そのもう一つのパターンというのが「相手の肉体を一定時間乗っ取る」というもの。このパターンをパターン3とし、これを含むことを絶対とした時、考えられるブレンドのパターンは二つ。
パターン1・パターン3:対象の能源を変化させ、同対象の肉体を自らの意思で支配する能力
パターン2・パターン3:対象に能源を注入し、同対象の肉体を自らの意思で支配する能力
能源の変化・注入。どちらかが肉体の主導権を奪うための条件となる時、私はどちらのブレンドもあり得ると思っている。ここで、私はキャンプにて御影さんから受け取ったデータを取り上げた。
この県に近づく程に傀儡使いの目撃数が増加しているというこのデータは、傀儡使いが能力を発動することのできる範囲が横に層状になっていることを示している。と同時に、私の推測とデータを照らし合わせると、変化・注入の手段が完全遠隔なのではないかという考えに至る。
ここまでは恐らく、御影さんも頭に入れていたと思う。ただ、私はここから想像を膨らませる。
パターン3より、全国に現れた大量の傀儡使いは全て本物の傀儡使い。無関係な人間を巻き込み、人を殺した後、最後には操っていた者までをも絶命させる。
しかし、この推測によって矛盾が生まれた。
私が沢木さんらと共に遭遇したあの大量の人形たちだ。だけど、あの人形たちと私と春斗が遭遇した早川とでは生命の有無という大きな違いがある。つまり私が言いたいことは、物体であれば意識の有無に関わらず操作することが可能なのではないか、ということ。
物体に能源を込めることは、能力者としての基本的な技術。傀儡使いほどの能力者ができないはずがない。
また、ここで考慮すべき点が再び生じる。
それは、御影さんらと対峙している敵が人形か人であるかという点。ただ、その点に関しては推測するわけにはいかなかった。理由としては、傀儡使いが一度に人の意識を上書きできる数が不明であるから。
ここからは、現在私たちがすべき行動の話。
本部には、データの管理室がある。ここに蓄積されるのは、過去から現在にわたるまでの全亡霊狩りのデータや全国各地で出現した亡霊に関するデータなど。そのどれもが詳細なものであるため、これらデータの扱いには慎重にならざるを得ない。
そのため、データへのアクセスのためには上層部からの許可と管理室勤務の亡霊狩りの同伴が必須。だが、このデータから傀儡使いの能力に対する知識を得ることができる。その知識によって、御影さんらが対峙している敵の情報が、少なくとも人形かそうでないかくらいはわかるはず。
データの抽出は春斗に任せ、私と三葉は別のことを行う。
傀儡使いは何かを操作している時、自身は戦場に赴かない。分かりやすい遠距離タイプの能力者。したがって、自分の身は安全でなければならない。怜音の言葉を信じ、この本部に傀儡使いがいるとするならば、それはきっと人目につかないような安全な場所に違いない。
ただ、本部はドーム程の莫大な敷地を有している。
自らの足を使って本部を探し回るのは余りにも時間がかかる。それでも、そうする他方法はなかった。
私たち三人は二手に別れ、それぞれ行動することにした。
**
スマホでメールを送り終えた後で、怜音は御影へと尋ねる。
「御影さん。腕、なまってないよな?」
「こっちのセリフだ」
戦闘は、人形が巨腕を二人めがけて振り降ろしたことにより開始された。腕が自らに到達するまでの間、怜音は能力を発動するに至る。
「『空虚』」
一定の体積の空気の性質を変え、その弾力性によって人形の腕を跳ね返す。蹌踉めく人形に御影は接近。能源の込められた蹴りを人形の軸足へと食らわせた。
人形はその巨体の制御を失い、地面へと倒れる。
生まれた大きな隙を怜音は見逃さなかった。
先程の空気を用いて大きく飛び上がり、上空から勢いのついた蹴りを人形の胴体へと食らわせる。地面へ押し込まれる人形に対し、怜音はその胴体に触れ、能力の発動を試みる。
しかし、彼の能力が発動することはなかった。
人形の腕が胴体の上にいる怜音目掛けて動く。仕方なく、怜音は胴体から撤退し、御影のもとへと飛んだ。人形が体を起こす中、怜音は今起こったことを御影へと説明する。
「御影さん。やっぱ無理みたいだ」
「……じゃあ、俺の能力も効かないかな」
怜音の能力の発動条件は、対象に能源が込められていないこと。つまり、人形の体全体には常に能源が込められているということ。そして、全体に常に能源が流れているということは、攻撃の威力が生身の攻撃のそれとは一線を画すということ。
御影の「消散」は具変系、怜音の「空虚」は他者系。
どちらの能力も、この人形とは相性が悪い。
だが御影と怜音、二人の脳内には負ける意志など何処にもない。
「怜音。プランBだ」
「まずAを教えてくれ」
会話を経た後、御影は弓手、怜音は馬手へと走った。
走る二人を押し潰そうと、人形は両の拳をそれぞれの真上から落とす。だが、どちらもその拳を避け、腕の上を走り人形の顔面目掛け、疾走する。
最大限の能源を拳に込め、二人は人形の顔面を数発殴った。
揺れる巨体の上から御影は降りる。降下中、彼はポケットから丸い物体を取り出す。丸い物体、それは御影お手製の爆弾。球全体に能源を流すことにより、起爆までのカウントダウンが始まる。
御影はその爆弾を人形の衣服の隙間に潜り込ませる。そしてそれを駆け出す以前に一つ受け取っていた怜音が、能源を込め、人形の口へと爆弾を放り込んだ。
爆弾の起爆。人形の体の一部から、黒煙が上がる。
と同時、人形の動きが止まる。
一方の御影と怜音は地上で合流していた。
「中々の威力だろ?」
「ああ。後で作り方教えてくれ」
「3000円な」
「高校生にせびるなよ」
瞬間、動きを止めていた人形が動き出す。今までとは比にならない速度で、人形は腰に携えていた刀に手を伸ばし、居合の構えをとった。それと同じくして、人形の能源の感触が変化する。
「何か来る」。その感覚が二人を襲う。




