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命の行方  作者: 焼魚
第1章:邂逅・啓発

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12:蓮花市(4)

爆音が鳴り止んだ頃、怜音は私たちに言った。

「もういないみたいだ。楽にしていい」


頭を上げ、周囲を見渡すと、周りには何もなくなっていた。

さっきまでそこにあった瓦礫も地面も、何もかもがなくなり、私たちの下にある地面のみが浮き出るかのように存在していた。


「怜音。大丈夫だったの?」

「ああ。ギリギリだったけどな」


私はこの爆撃から私たちを守ってくれたであろう彼に説明を求めた。怜音は「まずはここを離れよう」と、再び襲い来るかもしれない人形たちの存在を考慮した。


私たちもそれに従い、手を取り合って立ち上がる。先導する怜音が話し始めた。


「一つ言っておく。俺は春斗からここに来るように頼まれた」

「春斗から?」

「ああ。何でも、帰りが遅いから心配らしくてな。連絡してやってくれ」

「なるほどね。わかったよ」


私はスマホを開き、春斗に怜音と会ったこと、現在無事ということの連絡を送る。最中、怜音からの話が続けられる。


「澪。あとそこの二人。行方不明の奴らの捜索は一時中断だ」


その言葉に、後ろの松井さんが反応を示す。

「待った。少なくとも俺たち捜索部隊は残る」


怜音は視線を変えずに反発した。

「捜索部隊の人。その心意気は素晴らしいが、危険だから駄目だ。残るとしても、本部からの応援が来るまでは蓮花市の外にいた方が良い」

「……キャンプの人たちはどうなる?」


怜音は足を止め、松井さんに視線を向ける。松井さんは沢木さんに肩を貸しながら、言った。

「あれほど危険な人形たちがキャンプを襲う可能性だってあるんだろ? 頼む。残って彼らを守らせてくれ」

「その点に関しては心配ない。俺が残るからな。あんたらは安心してこの市を出ていくんだ」


怜音が「残る」と告げた瞬間、彼ら二人は安堵していた。

「そうか。君が残ってくれるなら安心だ」

「ありがとう……!」


微笑んだ後、怜音は再び足を動かし始めた。彼に、私は問う。

「怜音。これからどこに?」

「ここに来るまでにキャンプに向かう三葉を見かけた。だから取り敢えずはキャンプに向かって三葉らと合流する」

「それからは?」


その問いかけに対し、沈黙で返す怜音。少しして、彼は後ろの二人には聞こえない程度の声量で私に訊いた。

「澪。傀儡使いについて、どこまで知ってる?」


    **


本部。御影のスマホが着信を知らせた。


「もしもし?」

『あ、もしもし御影さん。澪です』

「おお、どうかした?」

『実は今、かくかくしかじかで〜』


澪より、任務の件から人形に襲われたこと、怜音と出会ったことまでの始終を伝えられた御影。加えて応援要請を受けたため、御影は自らが蓮花市へと向かうことにした。


電話を繋いだまま、彼は移動を始める。

「今から俺がそっちに向かう。澪は三葉と共に引き上げてくれ」

『何でですか?』

「澪。君はまだ能力者として未熟な存在だ。それに対して、今回の件は一級以上の能力者が必要とされる。君は、本部で結果を待っているべきだ」

『……わかりました』


亡霊狩りが定めている、能力者としての等級。下から順に五、四、三、準二、二、準一、一という等級が設けられており、これが一般的に能力者としての強さを証明する。


昇級するためには一定の条件を満たす必要があり、それら条件を満たし等級を上げることによって亡霊狩りとしての仕事の質が上がっていく。つまり、亡霊狩りを生業として生活していくためには、等級を上げることが要求されるということ。


尚、それぞれの等級に値するための条件は以下の通りである。


五級:亡霊狩りの選別を通過すること。

四級:三級以上の亡霊狩りに実力があると判断されること。

三級:亡霊狩りとして単独による任務の完遂。

準二級:単独任務を複数回こなすこと。

二級:準一級以上の亡霊狩りに実力があると判断されること。

準一級:実技試験の合格。

一級:実技試験の合格。


御影・怜音は一級能力者。三葉・春斗は現段階で準二級能力者。霞田による判断より、上層部の承認を待つ状況にある。そして澪は駆け出しの五級能力者相当。


怜音・御影による判断が正しい。そう認めざるを得ない。

三葉と澪、捜索部隊は合流した後、本部での待機を余儀なくされた。


    **


「怜音。傀儡使いの話は聞いてるよな?」

「ああ。随分と厄介な奴を敵に回したな」

「近年稀に見る実力者だ。気合入れてこう」


キャンプから少し離れた所。二人は住民全体に事情を話したうえでキャンプの周りを周回していた。


結論から言おう。「本物の傀儡使いは一人」という御影の予測は恐らく当たっている。

全国各地で出現している傀儡使いと名乗る、もしくは能力源などから傀儡使いとみなされる亡霊。彼らには一つの共通点があった。それが「能力源」。


能力源は能力と同等に、千差万別の類のもの、普通ならば一人一つのもの。つまり、誰かと一致するなどあり得ない話なのだ。にも関わらず、全国各地で亡霊狩りに捕らえられた者たちのそれは数回にわたる検査の結果、全て一致していた。


そして皆等しく、捕まった翌日には絶命している。澪らが捕らえたあの男も、先ほど御影が唐木と共に確認しにいったところ、人知れず絶命していた。


このことから、傀儡使いの能力について少しだけ考察することができる。

・対象の能源を自身の能源の性質に変える能力

・対象に自らの能源を注入する能力


人は体内から能源が無くなると死に至る。そのことから、恐らく傀儡使いの能力はこの二つのうちのどれか。そのように考えた御影は、一級以上の能力者を応援として蓮花市へ送ったとしても、その者が操られる可能性があるため、対象の能力を無効化する能力を有する自身が出向いた。


御影は怜音に対し、尋ねる。

「そういえばお前、どうしてここに?」

「個人的な興味で傀儡使いを追ってた」


御影が怜音の顔を覗き込む。

「嘘だな?」


彼の言葉に、怜音は笑う他なかった。

「御影さんには隠し事が出来ないな。本当のことを言うと、春斗からの連絡でここに来たんだ」

「春斗?」

「ああ。『二人の帰りが遅くて心配』ってな」

「あはは、なるほどね」

「……それで御影さん。ほんとにここに傀儡使いがいるのか?」

「多分ね」


傀儡使いの居場所。それは亡霊狩りにとって最大の難点だった。


傀儡使いは全国のどこにいたとしても、人間を操ることができる。それ故に、居場所の特定に必要な証拠が圧倒的に不足していた。そこで御影は、数日前から情報収集に走っていた。


結果得た情報は、操られていたと見なされる人間の数は一つの県に近づく程に増加しているということ。


つまり、傀儡使いが能力を発動可能な範囲は全国にまで及ぶが、操れる人間の数は自身に近づく程多くなり、遠ざかる程少なくなる。


そしてその県こそ、澪や御影、本部のあるこの県。


また、こういった能力を使う者は必然的に自身の身を守らなければならない。そういった意味では、蓮花市が最適解であると言える。


「もっと言えば、俺はこの市内のどっか高い場所だと思う。高低差を利用して辺りを見渡せた方が確実に良いからね」

「同感だな」

「じゃ、怜音。頼んだよ」


二人が足を止めたのは、比較的原型を保ったビルの前。苔が生い茂り、所々破損している箇所が垣間見えた。


怜音は能力を発動し、瞬時にビルを崩壊させる。

落ちてきた瓦礫は弾力性を帯びた柔らかい物質へと変容しており、二人へのダメージは一切なかった。


怜音の能力「空虚(ラディス)」は、物質の性質を変化させる能力。ただし、対象に能源が含まれないことが発動の条件であり、人間や動物などの生物に対しては発動することのできない能力だ。


今、怜音はビル全体を維持できないほどに脆くし、崩壊した直後で瓦礫全てを柔らかく弾力性のあるものに変えたというわけだ。


崩壊したビルの中から、人は出てこなかった。彼らは移動し、次のビルを目指す。


無論、キャンプのリーダーから許可は得ている。

その許可のもとで、怜音は建物を壊していく。道中、怜音は傀儡使いについて御影と話していた。


「御影さん。何で傀儡使いはキャンプを襲わないんだろうな」

「単純にキャンプに対しての敵意がないんじゃないか?」

「そりゃそうか。相手に敵意がなけりゃ、排除する必要もないもんな」

「ああ。だからこうして建物を壊してるんだろ?」


建物を崩すことにより、自分たちが傀儡使いに対して敵意があることを示す。

傀儡使いは鏑木と淳間の二人を襲った。もしくは能力を施した。結果として二人は行方不明となっている。


傀儡使い全体に見られる傾向として、敵対する可能性のある人間は消す傾向がある。つまり、ほぼ確実だ。怜音と御影の前に傀儡使いが現れるのは。


怜音と御影、両者が歩いていると、突如として背後に邪悪な能源が現れた。

振り返り、その姿を視認する。


そこには、一体の人形。

腰辺りまで伸びた白髪、風で靡いて見え隠れする目、腰に携えた刀。そして何より、自分たちの数倍はあるであろうその巨体。目から得られるそれらの情報が、二人に不気味な印象を与えた。


「こいつが傀儡使い……?」

「いいや御影さん。残念ながらこれはただの人形だ」


御影は拳に力を込める。

「外したか」


    **


亡霊狩り本部。

そこには、蓮花市から帰ってきた澪と三葉の姿。そして彼女らにカフェモカを奢る春斗。


「──てなわけでさ、メール来てたの全く気づかなかった。ごめん」


蓮花市にいた頃、澪と三葉のスマホには、それぞれメールが届いていた。だが彼女らは自らの判断により、捜索部隊への加勢をし、その時はスマホを見れない状態であった。


その経緯を説明したうえで、三葉は軽く謝った。


「いや、別にいいんだけどさ。予定よりも二時間も間が空くと、こっちも心配せざるを得ないんだよ」


彼の言葉に、澪は微笑んだ。

「ありがとね春斗」


二人がカフェモカを飲み終える。カフェを後にし、三人は本部内を歩きながら話をしていた。

そんな時、春斗のスマホに、怜音からのメールが届く。


「ちょっと待ってくれ」


春斗は足を止める。それにしたがって、澪と三葉も足を止めた。

画面を確認し、春斗が目を見開く。メールは、端的に言葉が並べられているものだった。しかしそれでも、そこに込められた意味は十分に理解できた。


『敵 本部内 注意』

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