第五話 季節廻る国の物語
あるところに、春、夏、秋、冬、それぞれの季節をつかさどる女王様がおりました。
女王はきめられた期間、交替で塔にすむことになっています。
そうすることで、その国にその女王の季節がおとずれるのです。
ところがあるとき、いつまでたっても冬が終わらなくなりました。
冬の女王が塔に入ったままなのです。
辺り一面雪におおわれ、このままではいずれ食べ物もつきてしまいます。
こまった王様はおふれを出しました。
「冬の女王を春の女王と交替させた者には褒美をとらせよう。ただし、冬の女王が次に廻ってこられなくなる方法はみとめない。季節を廻ることをさまたげてはならない」
なぜ、冬の女王は塔をはなれないのでしょうか。
なぜ、春の女王は塔におとずれないのでしょうか。
おふれを読んだ街の人たちは、元気なくひそひそと話し合います。
「王様は知らんのじゃろうか。女王様たちはあの木の変化を見ながら交替の時期をきめているのを」
「王様は塔にずっとおすまいだからしかたない」
塔を囲む塀の外には、国中どこからでもみえるほどの大きな大きな木が立っています。
「あの木を火であたためれば、花がさいて春の女王が来てくれるのではないか」
「花をさかせてどうする」
「そうすれば褒美をもらえるではないか」
「褒美をもらってもどうしようもない。冬が終わらぬ限り、この国から食べ物さえ消えてしまうのだ。たとえ金貨をもらっても腹の足しににはならんよ」
「こんなところで話していてはこごえてしまう。さあ、家にもどろう」
その大きなフシザクラの木の下で四人の賢者が話し合っています。
「どうして冬がおわらないのさ。ねえ、春の博士。このままでは我が国は舟を出せず、氷の穴から垂らした糸で魚をつらねばならぬわ」
美しく長い髪をもつ夏の騎士がいいました。
「わが国の天文博士によると、この大地は北にむかってうごいているらしい」
目を細めて春の博士はいいました。
「ちっともゆれやしないのに、地面が動いているなんて、おかしな話だ。しかし、春の博士がいうからには間違いないだろう。どうしたら大地をもとにもどせるのだ」
腕をくんで秋の工匠はいいました。
「最早、祈りなどではどうにもなるまい。この大地に住むものみなの力をあわせて手を打たねば、きっと大変なことになる。そうなってしまったら、我が女王に危害がおよぶかもしれん」
大木ほどもある背を丸めて、巨人の冬の将軍は低くうめきました。
「思えば秋が二度来た時からこの異変ははじまってたのだな。おかげでたくわえはいつもよりもずっと多い。<中央>におくる分は<秋の国>がうけおうとしよう」
工匠がいいました。
「人の世の常として、騒動の元はたいてい食糧。それはさけたいわね。でもそれって一時しのぎなんでしょう? この状況が数ヶ月続いたら問題ね」
騎士は心配していいました。
「<冬の国>で試験栽培していたオオネを、どの国もまだ雪が覆っていない部分にうえるのだ。特に<夏の国>と我が<春の国>には地熱の高い部分がある。数ヶ月先の備えを早くはじめよう」
博士がいいました。
「現状より悪化すればオオネも育つまい。春を取り戻す方法をわれわれで考えようではないか」
将軍は立ち上がり、塔を見ました。
塔には美しい女王様がいました。
<年を改めるための祈りを捧げる>ために、フシザクラの葉が散ってからずっと、塔の最上階にこもっているのです。
窓の鎧戸の外でチチチと声がしました。妖精のケティです。
「今日も来てくれたのね。窓の外の白い世界とこの冷たい石の中では、あなたの虹色の羽だけが私の目を癒してくれるのよ。私の衣なんてほら、寒さに強いだけで。あなたがうらやましいわ」
ケティは誇らしげに部屋を飛び回りました。
「海はどう? あなたの首元の色のように青い海はあった?」
ケティは残念そうに鳴きました。
「そう、どこも氷にとざされているのね。年が改まらないなんて、私はこの祈りをどこに届ければよいのでしょう。ケティ、またお願いね。どうか私の力不足のせいで飢える人がいないよう、たくわえてある食糧を袋につめて届けてあげて」
何もせずにはいられない女王は、元々ほっそりとしているのに、自分のための食糧をも分け与えてしまうので、ますますやせて肌も雪のように青白く透き通っていくようでした。
塔の下部には王宮があります。
王様はまだ十一歳です。
若くして王位を継いだので、このようなできごとははじめてですし、どうしてよいかわかりません。
長い着物をひきずりながら部屋をうろうろと歩き回っています。
「じい。じいやはおるか」
「大臣とお呼びください。若様」
「じいはじいだ。それに若様ではなく王だ。それよりだれか冬の女王と春の女王を交替させる方法を思いつたのか。このままでは、とじこもっている冬の女王が死んでしまう」
若くして父母を亡くした王様は、四人の女王を母や姉のようにしたっているのです。
「残念ながらまだ」
「もうよい。余が外で直接呼びかける」
「若様、なりません。王に何かあればこの<四季廻る国>は希望すらも失います」
「どうにかならんのか!」
そのとき、来訪者の知らせがありました。
春の博士です。
王は謁見の間に歩いて行きました。
「待たせた。用件を」
「陛下。冬のままで停滞したこの国をすくうため、陛下の力添えをいただきたく参上つかまつりました」
「何と申した」
「何とぞ陛下のお力添えを」
「余にできることがあるというのか」
「陛下のみではございません。この国にくらすものみなの力が必要なのです」
「冬の女王を塔から出し、春の女王を迎え入れ、この国に四季を廻らせるために、余やこの国のみなの力が必要だと?」
「いかにも」
「それはいったいどういうことなのだ」
「この国はそもそもさまざまな場所から渡来した民がなしたもの。ですから、国内に四つの女王国があり、異なる民族が存在するのです。それをたばねるのが王様、あなたなのです」
「それはわかっておる。大臣から聞いた。それぞれの女王を定めた期間塔に住まわせるのは、力の均衡をはかったのがそもそものおこりなのだろう。それでいったい余になにができる」
「この国の民の助けがなければ冬は終わらぬのです。力あるものはその力を、力なきものはその体を。われわれのよびかけのため、全ての民を広場に集めるようお触れを出していただきたくございます」
春の博士は額を床にこすりつけるようにして頭を下げました。
「簡単なことだ。だが、王の命で国民全員を呼び集めるというのは、有事の場合に限られること」
「今が有事でございます」
「後戻りできぬぞ」
「もとより覚悟のうえでございます」
十一歳の王様は立ち上がっていいました。
「じい、じいはおるか! なんとしても冬の女王を救うぞ! 国民全員を広場に集結させるのだ」
こうして五日後、すべての国民が塔の見える広場に集まりました。
ざわめく国民たちの前に王様が姿を現しました。
「しずまれ、民草よ! 今こそわれらの力をあわせる時が来た」
北の将軍が前に進みたち、雷のような声で叫びました。
「聞け! 冬を今こそ終わらせよう。そのためにはこの国を動かす力が必要だ。みなの力を私に貸せ」
一瞬場は静まり返りましたが、再びざわめき始めました。
「おれたちに何ができるっていうんだ」
「あんたに何ができるっていうんだ」
「私がこの国を引く!」
意味が分かったとたん広場は笑いに包まれました。
「そんな馬鹿な!」
「国が動くわけがない!」
「こら、お前ら。将軍様を笑うな! どこの国のものだ」
「なんだ、やるか、こいつ」
広場の一角で喧嘩がはじまってしまいました。
「かっかっか。将軍、祭りはこうでなくっちゃねえ」
「工匠!」
今度は秋の工匠がすすみでました。
「血気盛んなものたちよ、きけ! その余る力はオレにたくせ! ここから<秋の国>までの山三つ。オレがいう高さまで一番早く削ったものたちに褒美を出す! 褒美は<秋の国>と<春の国>の酒全部だ! ただし三つの組はオレが分ける。春夏秋冬、国は一切関係なし。仲良くしないと負けは決まりだ」
多くのものたちが喜びの声をあげましたが、当然反対するものもいます。
「冗談じゃない、私たち非力なものまで力仕事なんてできるもんか!」
今度は夏の騎士が進み立ち、剣を抜いていいました。
「美しきものたちよ。必要なのは腕力のみにあらず! この国を救えるものは自分たちのほかにないのだ! 見よ!」
そう言うと自慢の長い黒髪を剣でぶつっと切り落とし、掲げて叫ぶのでした。
「この髪を束ねつらねて、<命の鎖>とする! われらの身体でこの国を救うのだ! この冬を終わらせるために! 千年先の幼子のために!」
美しい髪を捧げた騎士に感動せぬものはいませんでした。
「この老いぼれも国を救えるのか!」
腰の曲がったおばあさんも大きな拍手をおくりました。
「私は髪が短いから、働いてきた人たちが身体を冷やさぬよう鍋を作ってやるよ!」
「ぼくらは土運びを手伝うよ」
「髪を編むのはわしらにまかせておくれ」
みな心に火がついたように声をあげました。
そして、作業がはじまりました。
国中のものはそれはそれは懸命にはたらきました。
その様子を妖精のケティは冬の女王に知らせました。
冬の女王はいてもたってもいられなくなりました。
懐からナイフを取り出すと、自分の髪をぷっつりと切って純白のハンカチでしばりました。
「ケティ、これを将軍へ。おねがい」
塔を見上げていた少年が声をあげました。
「ねえ、見て! 冬の女王様が手をふってるよ」
「本当だ! これはがんばらないとな!」
「あの子ばっかりいいところを見せてはいられないわ」
広場に夏の女王が姿を見せました。
広場に残るものたちは大いに盛り上がりました。
夏の女王は美しい髪を惜しげもなく肩のところでバッサリと切りました。
「<命の鎖>に私の魂も加えなさい。この数日に全てをかけるのよ! 千年先の未来のために!」
秋の女王は炊き出しをしているところに姿を見せました。
「みんな。薪をもってきました! 今日は一段と冷えますから、がんばりましょうね」
春の女王は指先を土にまみれさせながら、子どもたちと一緒に土を運んでいました。
「じょ、女王様がそんなお仕事をなさっては!」
「できることを今しなければ、きっと後悔します。後悔なんてしたくないのです」
冬の将軍はケティから受け取った女王の髪を、縄ない名人のおじいさんに渡しました。
「はじめはあなたを笑っていた民も、今はもうあなたの起こす奇跡を待っています。将軍、頼みましたぞ」
「ああ、たくされた」
将軍はパシンと掌と拳を打ち合わせました。
「そのためにもこの<命の鎖>を、より強く、より長く。必ずこの国を引いてみせる」
三日ののち、工匠の指示通りの切通しがつくられました。<冬の国>の酒もあわせたので、どの組にも祝杯がふるまわれました。
<命の鎖>も編み上がり、フシザクラの太い幹にしっかりと巻かれました。
切通しの上をまっすぐ伸びた<命の鎖>は、<秋の国>まで伸びていました。
<秋の国>では、<命の鎖>を身に巻きつけた将軍が氷の海の上を歩き始めました。
「女王よ。この役目。必ず果たして見せます」
体に結んだ<命の鎖>には、女王の純白のハンカチが結わえてあります。
氷の上で綱を引き手応えを感じた将軍は、冷たい海を泳ぎ始めました。
三日三晩土を削っていた男たちも氷の上に立ち、<命の鎖>に縄を結びつけて一緒に引きました。
「将軍だけにこんな荒行をさせてたまるか」
「俺たちも国を引くんだ」
「じい様方、もっと縄をなってくれ!」
「酒を飲んだものは行っちゃならん! ひと眠りしてから将軍様を手伝え」
「そんな悠長なことをいってられるか!」
「待ちなさい」
春の博士が海に飛び込もうという男たちを止めました。
「まだ、近くに島影は見えん。将軍といえども泳ぐには数日はかかる。お前たちはすでに三日寝ておらぬ。交替するのだ。しっかり寝るもの。起きるもの。交替でともに国を引くのだ」
「おれたちはまだやれる! 限界まで。限界まで、どうか!」
男たちは博士に願い出ました。
その男たちの前まで来た少年がいました。
「あなたは、国王様!」
「そうか、これが海か。余はこの海の冷たさも知らなかったのだな。そなたたちが入るなら余もこの海に飛び込もう」
「なりません、国王様!」
「お前たちは無理を通して、余には道理をひっこめろと」
「そ、そんなつもりは」
「はっはっは、冗談だ。博士のいうことをきくがよい。余はもっとこの世のことを知らねばならぬ」
冬の女王のいる塔の扉をたたくものがありました。
「私です。女王陛下」
「あなたは夏の騎士」
扉を開いて、二人とも短くなった髪を見て目を丸くしました。
そして笑い出しました。
「可愛いですわ。夏の騎士」
「女王様こそ。お麗しく」
「どうしてここへ?」
「三賢者と話し合い、万が一、あの木に何かあった場合のために護衛に参りました」
窓の外の木を見ると、ずいぶんと木がかしいでいるように見えます。
将軍が<命の鎖>を引き始めてもう二日が経つのです。
「小舟で将軍を追ったものの話によると、将軍は雪のない島につき綱を引いているのだそうです」
「無事なのですね、将軍は」
「将軍は鬼のような姿でただ一心に綱を引いているそうでした。おそらく肉は悲鳴を上げ、骨もいたるところきしんでいるのでしょう。それでも彼は国を引き続けているのでしょう」
「ああ」
女王は涙を流して祈りました。
「私は、私は年が改まることしか祈れません。将軍のために一刻も早く年が改まることしか祈れません」
夏の騎士は女王の手を取って一緒に祈りました。
三日目の朝、広場で焚き火に当たっていたものたちが空を見上げていいました。
「雪がやんだ! 雪がやんだぞ」
「みんな、起きろ! 雪がやんだー!」
「冬が終わったんだ! 冬が終わったんだあああああああ!」
空を覆っていた分厚い雲がきれ、朝の光が空に満ち始めていました。
すっかりと空が青色で満たされると、暖かい風が吹き始めました。
「春が来たんだ」
「春が来たぞぉおおおおおおお」
みな眠いのも忘れて喜び合いました。
ビキィっと氷が割れるような音がしました。
「いかん、みな避難だ! 木から離れろおおおおおおおお」
フシザクラは雷のような音を立て、地震のような揺れを起こしてたおれました。
警戒していた春の博士は全員に避難の仕方は告げていましたので、けが人はだれも出ませんでしたが、あぶないところでした。
一つ目の山の麓まで木の枝が届いたほどでした。
夏の騎士が冬の女王を連れて塔からおりてきました。
誰もが冬の女王を見かけると、地に頭をつけて拝むのでした。
「みな、よくやりましたね。ケティ、将軍に早く休むよう知らせるのです」
秋の工匠は肩を回しながらいいました。
「そう。まだ仕事は終わっちゃいない。この木の枝や根を切ってコロを作り、青の大河まで運ぶんだ。この木には、この国の碇になってもらわなくっちゃな。そのためにも将軍の力は不可欠だ」
しかし、残念なことに、このとき将軍は既に力尽きて亡くなっていたのです。
その事実を知った国民たちは大いに嘆き悲しみました。
将軍の代わりに、国民全員で<命の鎖>を引き、フシザクラを海中にしずめるのに数ヶ月はかかりました。
季節はもう夏にさしかかろうとしていました。
将軍を埋葬したフシザクラの根のあとには、常緑樹が植えられました。
しっかり根を張って、すくすくと育っています。
その木を見上げて、まるで冬の将軍のようだと誰もが思いました。
冬が終わり、再び季節が廻り始めましたが、誰も褒美のことは言い出しませんでした。
誰もの力で冬を終わらせたのですが、将軍以上の働きをしたなどと思えるものは誰ひとりいなかったからです。
王様は十二歳になったのを機に、いくつかのきまりを作りました。
ひとつは、暦法を公開し、女王たちは三ヶ月のうちひと月だけ祈りを捧げに塔に来るよう改めること。
もうひとつは、十一歳以下の子弟が自由に国を見聞し学ぶことが出来るようにすること。そのために、みなに配分するはずだった褒美を基金にあてること。
そして、この長い冬の物語をあえて綴らず、記憶の中にとどめおくこと。
「そうすれば遠い未来に再び危機が訪れても将軍がいないことを嘆かずにすむ。知恵と力と技と信念があれば国が救え四季は廻るということを、千年先の子どもたちに教えていけばよいのだ」
広場で王様の演説を聞いた国民たちは大きく拍手しました。
こうして<四季廻る国>は、千年経った今も海の中を少しずつただよいながら、色とりどりの季節を迎えているのです。
■◇■エピローグ■◇■
塔の街にあるヘイミッシュの診療所は休診日なので、彼はひさびさにシャルロッカの家に遊びに行くことにしました。
手には姪の誕生日のお祝いをもっています。
門番さんは随分と歳をとったにもかかわらず、相変わらず背筋をピンと伸ばして立っています。
「やあ、これはヘイミッシュ先生。口元のヒゲが今日も立派ですな」
「よしてくださいよ。先生なんて。ぼくはそんな柄じゃない」
「お医者さんで、作家さんなんじゃ。先生で間違っておりませぬわい。今日は妹さんのところへ?」
「姪に誕生日プレゼントを、と思ってね」
「あのシャルロッカちゃんに娘がおるというのは、なんとも時の流れの早さを感じさせるのう。して、姪っ子さんは今いくつになりましたかのう」
「えーっと、ああ、もう十一か。たしかに早いもんだね」
門番さんもヘイミッシュも一緒になって笑いました。
「あなたがトラにまたがってこの国をかけめぐっていたのを、つい昨日のように思い出します。あなたがくれるおばあさんのパンは本当においしかった」
「ぼくは医者に、シャルロッカは養蜂なんてはじめたものだから、国一番のパンの味を継ぐものはいなくなってしまいました」
「誰かの舌が覚えていて、それを求める限り、いつかどこかでよみがえるでしょう。きっとそうしたものなのです。さて、年寄りというのは話が長くなってよくない。おひきとめしてすみませんでしたな。どうか良い一日を」
子どもの頃とは違って、すっと手を挙げただけのあいさつでしたが、気持ちは何も変わっていません。お互いの健やかな未来を思いやるささやかな祈りがこめられているのです。
「ヘイミッシュ!」
リンゴの木にかこまれたアトリエからシャルロッカが飛び出して、ヘイミッシュを強く抱きしめました。
「むがっ。いくつになったと思ってるんだ、シャルロッカ。子どもじゃないんだぞ」
「だって、お兄ちゃん。なかなか会いに来てくれないんだもん。とにかく入って! お兄ちゃん」
中では姪のマリエッティが、数学書を読んでいました。
「やあ、マリエッティ。お誕生日おめでとう」
「感謝します。これで私も晴れて<十一歳の旅人>になりました。ですが、母が娘離れしてくれないので困っています。おじさまからも何かおっしゃってください」
「ハハハ、かわいい子には旅させよだぞ、シャルロッカ」
「だってー、マリエちゃんいないとママさびしいじゃん」
マリエッティはため息をついて言いました。
「私が留守の間、母のことをよろしくお願いします」
「マリエッティはしっかりものだなあ」
ヘイミッシュが頭をかくと、シャルロッカもため息をついていいました。
「私はそこが心配なんだけどね」
「おじさま、プレゼントのお礼にサプライズを。みんな、おいで」
マリエッティが声をかけると、ミニサーベルタイガーのサンタンが入ってきました。
「サンタン!」
ヘイミッシュはサンタンの首に抱きつきました。サンタンも懐かしそうにヘイミッシュに耳元をこすりつけます。
「少しやせたね。元気だったかい」
「サンタンは今年で現役を引退して<将軍島>に帰るそうです。サンタンにとって最初の旅人がおじさまで、最後が私。サンタンにとってもよい旅になるよう励みますわ」
「ああ、そうしてやってくれ」
「ケティもいるわよ。こんな大きくなっちゃって」
シャルロッカにおぶわれたケティは、尾を床に引きずるほどの大きさになっていました。
「まだ現役続行だって」
「ハハハ、なつかしいなあ。思い出話に花が咲きそうだ。そうだ、マリエッティ。こんなに美しく、こんなにおだやかな国なのに、行く先々でさまざまな問題に見舞われたお母さんの話をしてやろうか。題して『シャルロッカお母さんの冒険』」
「それは聞きたいですわ、おじさま」
「やだー、わたしはききたくなーい」
外ではリンゴの花が芽ぶきはじめようとしています。
こうして<四季廻る国>に、また新たな季節がやって来るのでした。