↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

第四話 冬の女王が住んでいたところ

「シャルロッカ、いつもの本(ほん)は?」

 シャルロッカはヘイミッシュの質問(しつもん)には答(こた)えず、紙(かみ)に描(か)いた絵(え)をみせました。

「見(み)て見て、お兄(にい)ちゃん。シャルロッカだよ。うまいー?」

「ああ、うん。上手(じょうず)だね」

 シャルロッカは笑顔(えがお)いっぱいになってまた絵をかきはじめました。


「いつもの本は、読(よ)まないの?」

「うん。絵をかくの」

 シャルロッカは額(ひたい)に汗(あせ)を浮(う)かべていっしょうけんめい絵をかいています。


「今度(こんど)はなあに?」

「じゃましちゃだめー!」

「ハイハイ。ぼくも続きを書くから自由(じゆう)におかきよ」


 そこにおばあちゃんがやってきました。


「いつも焼(や)き上(あ)がりの頃(ころ)になったらシャルロッカがやってきてたのに、最近(さいきん)はまったくだねえ。こうして絵ばっかりかいているんだよ」

「どうしてシャルロッカは絵に夢中(むちゅう)なんだろう」

「おや、わからないのかい」


「お兄ちゃんみてみてー! お兄ちゃんかいたよー!」

「え、これ、ぼく? どう見たらいいのかなあ」

「うまいー?」

「あはは、うまいね。あ、もしかしてこの生(い)き物(もの)にのってるのぼく?」

「そう! お兄ちゃん! サンタンにのってるの。ケティもいるよ」

「じゃあ真(ま)ん中(なか)のは塔(とう)の街(まち)で、隣(となり)は大(おお)きな木(き)だね」

「そうだよー」

「でも、なんでみんな大きな亀(かめ)の背中(せなか)の上にいるの」

「えー、わかんないのー?」


 ヘイミッシュは困(こま)っておばあちゃんを見ました。

「シャルロッカはお前の物語(ものがたり)のさし絵を描こうとしているのさ」


「ぼくの――――――物語―――さし絵。・・・ああ!」


 ヘイミッシュは紙をシャルロッカに渡(わた)して、頭(あたま)をたくさんなでました。

「シャルロッカはなんてすごい子だろう。ぼくは<オオトヨアキツ国(くに)><テラドゥヴェラォン領(りょう)><春王朝(しゅんおうちょう)>と廻(めぐ)ってきながらそのことに思(おも)いいたらなかった。でもシャルロッカはぼくの話を聞いただけでその発想(はっそう)にいたるなんて」


「シャルロッカすごい?」


「すごいよ! そうさ、この国は海の上をただよっていたんだ。このウミガメのように」


「えへへへへ」

 シャルロッカは喜(よろこ)んでおばあちゃんのエプロンに顔をうずめました。

「おばあちゃん。この国がシャルロッカの想像通(そうぞうどお)りかどうか、ぼくは<玄(くろ)の山>を越(こ)えてたしかめなければいけません。サンタン! ケティ!」

「パンは焼(や)きあがっているよ。気候(きこう)はよいけど気をつけてお行き」


「ありがとう、おばあちゃん」

「お兄ちゃん、いってらっしゃい!」


 サンタンはヘイミッシュを乗(の)せてかけていきます。ケティも振(ふ)り落(お)とされまいといっしょうけんめい羽(は)ばたいています。


「シャルロッカの仮説(かせつ)が正(ただ)しければ、<玄の山>の向こうにも海があるはずなんだ。<オオトヨアキツ国>には船乗(ふなの)りのおじさんが漂着(ひょうちゃく)した。<テラドゥヴェラォン領>ではキラキラ輝(かがや)く海を見た。<春王朝>の果実(かじつ)は海に面した斜面(しゃめん)で作られるそうだ。この国は海に囲(かこ)まれていたんだ!」


 ヘイミッシュが何人いても手をつなげないほどの幹周(みきまわ)りをもつ大きな常緑樹(じょうりょくじゅ)のすぐ近(ちか)くを走っていきました。

「何故(なぜ)王様(おうさま)はあんなお触(ふ)れを出したのだろう。ずっと塔(とう)に住(す)んでいて、きっと島国(しまぐに)であることも何(なん)のために四季(しき)の女王が祈(いの)っているかも知(し)らなかったんだ。そうか、だから今(いま)はこんな<十一歳(さい)の旅人(たびびと)>という制度(せいど)をもうけたんだな」



 <塔(とう)の街(まち)>にはヘイミッシュと同(おな)い年(どし)の子もわずかですがいます。その子たちのほとんどは家業(かぎょう)の手伝(てつだ)いをして、来年(らいねん)になったら徒弟学校(とていがっこう)に半年(はんとし)通(かよ)うものたちばかりです。

 <十一歳の旅人>はそこに通う前に世界(せかい)を見聞(けんぶん)し、これからの自分(じぶん)に必要(ひつよう)な力をみきわめさせるための教育制度(きょういくせいど)といえるでしょう。


「きっとこれが<十一歳(さい)の旅人(たびびと)>としての最後(さいご)の旅になる。ぼくは千年前のこの国の真実(しんじつ)を紡(つむ)ぎたい」


 あたたかい気候ですので、雪(ゆき)をいただいていない<玄の山>はその名(な)の通(とお)り黒(くろ)くみえます。|高(たか)い山ですのでサンタンはじっくりと半日(はんにち)かけてのぼっていきます。

 頂上(ちょうじょう)からふもとを見下(みお)ろすと、夕日(ゆうひ)に染(そ)まるとてもとても広(ひろ)い平野(へいや)の向(む)こうにキラキラと輝(かがや)く海(うみ)が見えました。

「シャルロッカの考えた通りだ。サンタン、ケティ。あの明(あ)かりのあたりを目指(めざ)そう。山を降(お)りたらきっとすっかり暗(くら)くなるだろうから」


 ふもとまで降りたときはもうすっかりあたりは暗くなっていました。あかあかと燃(も)えているのは地下(ちか)から出(で)るガスに火をつけたもののようです。あたりに人はまるでいません。

 ヘイミッシュはサンタンにつつまれるようにして野宿(のじゅく)することにきめました。ヘイミッシュもサンタンも疲(つか)れからかぐっすり眠(ねむ)りにおちました。

 ケティはなんとか木の枝(えだ)まで飛(と)びあがり、そこで眠りにつきました。




「お、目をさましたよー」

 ヘイミッシュもサンタンもいつの間(ま)にか屋根(やね)のあるところに寝(ね)かされていました。

 鎧(よろい)をきこんだ男の子と、同じく鎧(よろい)をきこんだおじいさんがヘイミッシュをのぞきこんでいました。

「旅(たび)の人だからしかたないとは思うがね。あんなところで寝てはいかんぞ。あれは大地が屁(へ)をしておるところでな。ふぇっふぇっふぇ」


「え?」

 ヘイミッシュがとまどっていると先ほどの男の子が友だちをよんだのでしょう。たくさんの鎧姿(よろいすがた)の子たちが扉(とびら)を開けて入ってきました。

 ガシャガシャと鎧の音をさせながら、ものめずらしそうにヘイミッシュに質問(しつもん)をあびせかけました。

「どこの子?」

「なんであんなところでねてたの?」

「おなかへってたの?」

「けがしたの?」

「あのいきものさわっていい?」

「あのやまをこえてきたの?」


 ヘイミッシュがさらにとまどっていると、おじいさんが大声を出して子どもたちをおいはらいました。

「ばかもーん! おぬしらはこれから遠泳修行(えんえいしゅぎょう)じゃろうが。そんなことで<冬の将軍(しょうぐん)>殿(どの)においつけるものかー! ええい、鎖(くさり)をまかんかー! 将軍殿は氷の海を<命の鎖>をまいてわたり、この国を守ったんじゃぞー」

「わかってらー!」

「おいらたちもくもをつくようなおおおとこになるー!」

「それはむりでしょ」

「きゃははははー」

「わかったらさっさと行かんか!」


 どうやら彼らは修行の最中(さいちゅう)のようです。

「ぼくも修行のようすをみてもよいですか」

「みてもつまらんもんじゃが、かまわぬよ」

「これ、助けていただいたお礼(れい)に、どうぞ」

「おお、これは<塔のパン>というやつかい。若(わか)いころは山をこえて買いに行ったもんじゃわい。パンを焼(や)いている娘(むすめ)さんがそれはそれはかわいくてなあ」


「それ、ひょっとしてうちの祖母(そぼ)ですか?」

「おお、おお、わしがこんな年じゃからそうなるわいなあ。お前さんをどこかで見た顔のように思ったら、パンの娘さんの若い頃(ころ)ににておるんじゃな。ひょっひょっひょ。さあ、外に出よう」



 目の前には雲(くも)の色をうつして銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)く海が広がっていました。

 先ほどの子どもたちが身体に鎖を巻(ま)き付けて、沖(おき)に浮(う)かべた舟(ふね)目指して泳いでいきます。浜では彼らの母親(ははおや)や姉妹(しまい)たちがけんめいに声援(せいえん)を送っています。


「これは、どういういわれがある修行なんですか」

 ヘイミッシュはおじいさんにききました。

「約千年の昔、この<試(ため)される冬の共和国(きょうわこく)>には雲をつくような巨人(きょじん)が住んでおったそうだ。<冬の将軍>殿はその一族(いちぞく)の出で、この国を救った英雄(えいゆう)なのじゃ。ある年のこと、この国の海は氷に閉ざされてしまった。作物(さくもつ)はとれず人々は木の根を食ってくらすような日々だったが、このとき立ち上がったのが将軍殿よ。将軍殿は<命の鎖>を身体に巻いて凍(こお)った海を泳ぎ渡り、国をひいたんじゃ。ほれ、あの通り」



 舟までたどりついた子どもたちが鎖を船に結(むす)びつけ、合図(あいず)を出しました。鎖のはしは、浜に打った杭(くい)に結(ゆ)わえてありましたから、浜の女性たちは力を合わせて鎖を引きます。船がするすると、浜に近付いてきます。


「く、国を引いたんですか!? あの舟のように?」


「そうじゃよ。この国は氷山(ひょうざん)のようなものだと<春の博士>が言っておったわ。引きやすくはあるのじゃろうよ。口で言うほど簡単(かんたん)なことではあるまいがな。きっと<冬の将軍>殿にのみなし得ることだろう。だが我々はこうして英雄の威徳(いとく)をしのび、少しでも近づこうと修行をするのじゃ。どうじゃ<塔のパン>の孫も一緒に」


「いえ、ぼくは」

 ヘイミッシュは笑って断りました。

 そのとき、頭の中にひょっとひらめきがあったヘイミッシュは、かばんの中からある本を取り出しました。<春王朝>で陰陽寮(おんみょうりょう)のお兄さんにもらった<天文地理年表《てんもんちりねんぴょう》>には日の出る時刻(じこく)から足元に転がる石の名前まで様々な情報(じょうほう)がのっています。


「燃える気体(きたい)、氷、燃える氷。あった、水より軽い。メタ―――――ムギュ」


 突然(とつぜん)、ヘイミッシュの顔に何かがおそいかかりました。ケティです。

「うわ、ケティ、ちょっと! わかった、ぼくらを必死にさがしていたんだね。いてててて、ごめん、ごめん」


 ケティはプンプンすねているようで、チュッチュッと鳴き続けています。

「わかった、わかった。ケティもお話に登場(とうじょう)させるから許してよ」

 むぎのつぶをたべさせながら、そんな約束(やくそく)をしているとケティはようやくおとなしくなりました。


「ねえ、おじいさん。ぼくは千年前の話を調べていて、<春の博士><夏の騎士><冬の将軍>が登場することはわかったんです。でも秋の女王国のことがまだよくわかりません。秋の女王国には博士か騎士がいたのですか?」

「秋の、ああ。<オオトヨアキツ国>には行ったかね」

「ええ、行きました」

「行くときに山は越(こ)えたかい」

「ええ。三つほど。どの山を越えても大きな木が見えたのが面白いと思いました」


「そうじゃ、そうじゃ。その切通(きりとお)しじゃ。数年かかるはずの工事を数日で完遂させたのが<秋の工匠(たくみ)>じゃな。その舟も工匠殿の末裔(まつえい)が作ったのじゃよ」


「そうなんですか。ありがとうございます!」

「ワシの知っていることならなんでも教えて進(しん)ぜよう。今日は泊まっていくといい。それじゃあ次の修行にうつるからな。夕方までは色んなところを見てまわってきなさい」


 ヘイミッシュは嬉(うれ)しそうに頭を下げました。

 その夜は星が良く見えました。たくさんの人の話をメモ帳(ちょう)いっぱいになるまできいてからヘイミッシュは布団(ふとん)に入りました。

 でも、なかなか眠りにつけませんでした。ヘイミッシュは、紡(つむ)がれなかった物語の続きが書きたくってしかたがなかったからです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。