14 勲章
十三 勲章
リビア政府は、国家崩壊の危機を回避した功績として、コンドリーザ・ライスへ特別勲章を授与することを決めた。
名称は「リビア国家継続章」。
既存の勲章ではなかった。革命の記念でも軍事的勝利の記念でもない。
国家が一人の指導者より長く続くことを記念する。
説明文を読んだライスは、すぐ隣の男を見た。
「あなたが作ったでしょう」
「議会が決めた」
「議会へ提案したのは?」
「国家だ」
「国家に口はないわ」
「私が代わりに話した」
「やっぱりあなたじゃない」
授与式では、リビア側が彼女の衣装まで用意した。
現役軍人の制服ではない。階級章もない。ただ、防空軍の濃紺を基調にした、軍服に近い儀礼正装だった。襟と袖には銀色の細い刺繍。左胸には国家継続章の台座。肩には階級ではなく、オリーブ枝とリビアの輪郭を組み合わせた徽章が付いていた。
試着室でライスは鏡を見た。
「少し大げさじゃない?」
女性仕立師は首を振った。
「国を救った人の衣装です」
「私は一人で救っていません」
「ですから軍服ではなく儀礼服です」
答えになっているような、なっていないような説明だった。
式典会場へ入ると、カダフィーが待っていた。
白い軍装風の上着。胸に勲章を並べることもなく、本人にしては意外に簡素だった。
彼はライスを見た。
そのまま数秒、何も言わなかった。
ライスが先に口を開いた。
「何かおかしい?」
「いや」
「では何?」
「似合っている」
「それだけ?」
カダフィーはもう一度、頭から足元まで見た。
「非常に似合っている」
ライスは少し笑った。
「国家儀礼でそんな顔をしていいの?」
「どんな顔だ」
「夫の顔」
「私は夫だ」
「今日は国家指導者でしょう」
「両方できる」
式が始まった。
カダフィーは勲章をライスの胸へ着けた。
留め具を扱う指が思ったより慎重で、少し時間がかかった。
「刺さないでね」
「黙っていろ」
「緊張してる?」
「していない」
「手が遅いわ」
「衣装を傷つけないようにしている」
「私じゃなくて?」
カダフィーは手を止めた。
「両方だ」
勲章が留まった。
会場には軍人、技術者、大学関係者、地方代表、外国使節。ロシア人、フランス人、イスラエル人、中国人、日本人が同じ列に座っていた。
カダフィーは演壇へ立った。
「この人物は、リビアを支配しなかった。リビア人へ命令もしなかった。だが、リビアを壊そうとする言葉を止め、リビア人が自分で国を続ける時間を作った」
ライスは静かに聞いた。
「国家は、救った者の所有物にはならない。今日の勲章は、そのことを記念する」
短い演説だった。
席へ戻ってきたカダフィーに、ライスは小声で言った。
「五分以内だったわね」
「結婚式で訓練された」
式の後、防空指揮所と航空整備工場を視察した。
濃紺の儀礼服を着たライスがレーダー画面を見る。MiGの整備棟で説明を聞く。CRH400Liの警備計画を確認する。カダフィーと並んで正面を向く。
公式写真が何枚も撮られた。
夕食は外交晩餐ではなく、小さな部屋で二人だけだった。
羊肉のスープ、パン、オリーブ、ナツメヤシ。
ライスは勲章だけ外し、儀礼服は着たままだった。
「一日中、私を見てたでしょう」
「儀礼が正しく行われるか確認した」
「写真も確認した?」
「国家記録だからな」
「何枚必要なの」
「選ぶためには多い方がよい」
「何に使うの?」
「外交資料だ」
ライスはスプーンを止めた。
「またそれ?」
「必要だ」
「何に」
「外交に」
「あなた、今日の私を何枚保存する気?」
カダフィーは答えなかった。
ライスはじっと見た。
「ムアンマル」
「何だ」
「顔が怪しいわ」
「国家指導者へ怪しいと言うな」
「夫なら?」
「もっと言うな」
ライスは笑った。
その夜は、それ以上追及しなかった。
長く一緒にいると、相手が隠しているものの全部を、その場でこじ開けなくてもよくなる。
いつか出てくる。
出てこなければ、そのとき考えればいい。




