13 東西を結ぶ列車
十二 東西を結ぶ列車
CRH400Liは、予定どおり五年で完成した。
トリポリとベンガジを、沿岸の主要都市を経由して結んだ。
速い列車が二都市を結んだ、というだけではなかった。
大学へ通う学生が乗った。病院へ行く患者が乗った。西部の技術者が東部の工場へ行き、東部の商人がトリポリの港へ向かった。
ベンガジから見たトリポリが、前より近くなった。
トリポリから見た東部も、地図の端ではなくなった。
「東部は見捨てられている」と演説しても、駅には毎日列車が来る。「中央政府は何も与えない」と言っても、鉄道工場では若者が働いている。「西部と東部は別の国だ」と言っても、朝に出れば昼には着く。
鉄道は政治について何も語らなかった。
毎日、時刻表どおり走った。
開業式の日、沿岸には海から湿った風が吹いていた。内陸の砂漠ほど暑くはない。それでも強い日射が駅舎のガラスを白く光らせていた。
カダフィーは深緑の長衣に、金糸の刺繍が入った黒い外套。ライスは白に近い薄灰色のスーツだった。
中国代表は長い演説をした。
友情。技術移転。未来への架け橋。
カダフィーは用意された原稿を持って演壇へ立ったが、読まなかった。
「五年でできた」
会場が静かになった。
「フランスなら、会議に五年かかっただろう」
ライスは目を閉じた。
中国代表は笑った。
フランス大使は笑わなかった。
列車がホームへ入ってきた。
車内へ入ると、外の暑さが嘘のように消えた。川重製の高性能空調は砂塵対策フィルターと冗長系を備えている。
カダフィーは座席に座り、腕を組んだ。
「少し寒い」
ライスは横を見た。
「高性能版を頼んだのでしょう」
「性能には適度というものがある」
「川重へ直接言いなさい」
「日本人は仕様どおり造るから困る」
「仕様を書いたのはリビア側よ」
「現場が止めるべきだった」
「国家指導者が電話してきて『高性能版にしろ』と言ったのに?」
カダフィーは答えなかった。
ライスが笑った。
「寒いの?」
「少しだ」
彼女は自分の薄いストールを外し、彼の膝へ置いた。
カダフィーがそれを見た。
「私は老人ではない」
「返してもいいのよ」
「そこまでは言っていない」
速度表示が三百五十を示した。
カダフィーの注意はすぐそちらへ移った。
「四百ではない」
「営業速度は三百五十」
「名前が嘘になる」
「設計最高速度は四百」
「今日くらい出してもよい」
「駄目」
「私は国家指導者だ」
「ブレーキを操作するのは運転士」
カダフィーは黙った。
窓の外を、海と砂地と町が流れていった。
工事中からGoogle Map carと鉄道保守車両が沿線を記録していた。数年前の画像では未舗装路だった場所に駅前広場ができ、学校が建ち、店が並んでいる。
ライスが窓の外を見たまま言った。
「国が変わるところは、上空からより道路から見る方がよく分かるわね」
「上空から見るのは爆撃する者だ」
「あなたも航空写真が好きでしょう」
「地上写真も好きだ」
「人の写真も?」
カダフィーは窓の外を見たままだった。
「外交資料だ」
「何それ」
「必要な資料だ」
ライスは首を傾げた。
そのときは、まだ意味が分からなかった。
彼の膝には、ライスのストールが載ったままだった。




