↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

11 海が三つの国に来た日

十 海が三つの国へ来た日


二〇一一年三月十一日、日本近海で巨大地震が起きた。


最初の報告で、日本の太平洋沿岸に甚大な被害が出たことは分かった。


米国はトモダチ作戦を開始し、第七艦隊が動いた。


しかし、この世界の津波は、史実として知られていた規模より広く、強かった。


真珠湾では係留設備、倉庫、沿岸住宅が損傷した。燃料施設の一部が止まり、港内には漂流物が入った。太平洋を渡った波は米国西海岸へ届き、サンフランシスコ湾周辺の港湾、船舶、交通にも大きな被害を出した。


日本を助けるはずだった米国自身が被災国になった。


ホワイトハウスの机には二種類の報告が積まれた。


一つは、いま起きている災害。


日本では町が消え、人々が流され、死者数さえ集計できない。ハワイとカリフォルニアにも救助を待つ人がいる。


もう一つは、これからリビアで起きると予測される虐殺だった。


CIAの報告書には、カダフィーがフロリダからリビア軍を遠隔操作している可能性が高い、とあった。


本人は米国の監視下にいる。


軍への直接通信は確認されていない。


それでも分析は疑いを捨てなかった。


軍が動けば秘密命令かもしれない。止まっていても、欺瞞かもしれない。暴動が起きれば弾圧の結果、起きなければ恐怖が効いているからだと説明できる。


スーザン・ライスは介入を強く求めた。


「今行動しなければ、大量虐殺が起きます」


オバマは報告書を見た。


「現在、確認された死者は」


「まだいません。しかし軍が動けば――」


「日本では」


「集計不能です」


「真珠湾は」


「救助活動中です」


「サンフランシスコは」


「港湾被害が拡大しています」


「リビアで、いま助けを求めている町はどこですか」


「起きてからでは遅いのです」


オバマは黙った。


彼にとって一番つらい種類の判断だった。


起きている惨事へ戦力を送れば、これから起きる虐殺を見過ごすかもしれない。予測された虐殺を止めようとすれば、すでに海へ流された人の救助が遅れる。


どちらにも、人がいた。


飛行禁止区域だけなら限定的だという説明もあった。防空施設を破壊するだけ。地上軍は送らない。


一つ一つは小さく見える決断だった。


オバマは、その先まで見ようとした。


フロリダでは、カダフィーとコンドリーザ・ライスが同じ報告書を読んでいた。


「彼らは、私が何をしても命令したことにする」


「あなたが過去に、記録を残さず命令したからよ」


「今回はしていない」


「だから証明するの」


「証明しても信じない」


ライスはしばらく黙った。


「なら、信じない人を説得するのはやめる」


カダフィーが顔を上げた。


「どうする」


「決める人に、逃げ道のない材料を渡す」


彼女はオバマへ直接連絡を取った。


公開された軍命令記録。各基地の映像。Google Map carが撮った道路。地方行政との通信。油田の操業状況。


「リビアで起きるかもしれないこと」と、「日本、ハワイ、カリフォルニアで今起きていること」を同じ机へ置いた。


オバマは署名寸前で手を止めた。


そのとき第七艦隊から報告が入った。


能力が足りない。


輸送、医療、給油、救難、港湾復旧。


太平洋全体が支援を求めていた。


オバマは命令した。


「第六艦隊指揮下から、救難と揚陸の任務群を回す」


米国のリビア攻撃は、そこで止まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。