幕間 サモナーの系譜
『サモナー』。
それは『ウィザード』から派生する上位職業の一つである。
四属性の魔法を操り、強大な魔力によって敵を撃ち滅ぼすウィザード。
それに対してサモナーが目指すのは、魔力そのものへの理解をさらに深めること。
そして、世界に存在する精霊たちと交感することにある。
自らの魔力を精霊へと分け与え、契約を結び、共に戦う。
それこそがサモナーという職業だった。
サモナーが契約できる精霊は、大きく分けて四種類。
火の精霊『サラマンダー』。
大きな尻尾を持ち、炎を自在に操る精霊。
水の精霊『ウンディーネ』。
人間の物語に登場する人魚を思わせる姿をした、水を司る精霊。
風の精霊『シルフ』。
紫色の羽を持ち、風と共に空を舞う小さな精霊。
そして、土の精霊『ドライアド』。
頭から生えた双葉が特徴的な、植物と大地に深く結びついた精霊。
同じ精霊であっても、その性質は大きく異なる。
得意とする戦い方も、契約者に与えてくれる恩恵も違う。
どの精霊と契約し、どのように共に戦うのか。
それを考えるのもサモナーの醍醐味の一つである。
サモナーが最初に習得するスキル。
それが『サモンエレメンタルマスタリー』である。
精霊への理解を深め、その存在を感じ取り、契約を結ぶための基礎となるスキル。
そしてゲームでは、召喚した精霊の強さにも直結する重要なスキルだった。
召喚された精霊は、契約者の能力によって強さが変化する。
『サモンエレメンタルマスタリー』のスキルレベル。
術者自身の知力。
そして、保有するMP。それらの数値が高ければ高いほど、呼び出された精霊も強くなっていく。
だからといって、無尽蔵に強くなるわけではない。
精霊にはそれぞれ成長限界が設定されており、一定以上になると能力は頭打ちになる。
どれほど強力なサモナーが呼び出したとしても、子供の精霊が際限なく強くなっていくわけではなかった。
そしてもう一つ。サモナーという職業を語る上で欠かせない、大きな特徴がある。
召喚された精霊は、プレイヤーの命令を受け付けないというものだ。
スキル使用の指示くらいは出せるが、攻撃する敵、使う能力、移動する場所。
それら全てを精霊自身が判断し、完全な自動戦闘を行う。
精霊と共に戦う職業でありながら、精霊そのものを自由に操作することはできないのだ。
その性質上、他のプレイヤーとの連携は非常に難しい。
攻撃してほしくない敵を勝手に攻撃する。
前衛が敵を纏めている途中で戦闘を始める。
狙っていた戦術を精霊一体に台無しにされる。
そんな事故も決して珍しくはなかった。
故にサモナーは、数ある職業の中でも特にソロプレイへ適した職業として扱われていた。
サモナーの間は、一度に召喚できる精霊は一種のみ。
サラマンダーを召喚している間は、ウンディーネを呼び出すことはできない。
別の精霊の力が必要なら、一度召喚を解除してから新たな精霊を呼び出す。
状況に応じて契約した精霊を切り替えながら戦うことが、サモナーには求められていた。
では、複数の精霊を同時に召喚することはできないのか。
その答えは、できる。
ただし、それが可能になるのはさらに先の話。
サモナーの上位職業『ハイサモナー』へ転職してからである。
ハイサモナーになれば、二種の精霊を同時に召喚できるようになる。
そして、この頃になると契約者の魔力を受け続けて成長した精霊たちも、幼い姿から成体へと成長している。
サモナーと共に、精霊もまた成長する。
それがこの職業の大きな特徴だった。
そして、その先。
サモナーの系譜を極めた者だけが辿り着く職業『エレメンタルマスター』。
ここまで到達すれば、もはや二種という制限すら存在しない。
サラマンダー。
ウンディーネ。
シルフ。
ドライアド。
四属性全ての精霊を同時に召喚することが可能となる。
契約者本人を含めれば、戦場にいるのは五人。
その姿は、さながら一人で一つのパーティを作り上げているようなものだった。
もっとも、ここまで来ると人間とパーティを組むことはさらに難しくなる。
四体もの精霊が、それぞれの判断で自由に戦場を駆け回るのだ。
人間同士で綿密な連携を取ろうにも、その中を四体の精霊が好き勝手に動き回る。
もはや普通のパーティ戦闘へ組み込む方が難しい。
ゲームのエレメンタルマスターが不遇職と呼ばれていた所以はここにあった。
そしてエレメンタルマスターへ至った頃には、契約した精霊たちも更なる進化を遂げている。
長い時間を契約者と共に過ごし、その魔力を受け、戦い、成長し続けた精霊。
その力は、『精霊王』へと至る。
火を司るサラマンダー。
水を司るウンディーネ。
風を司るシルフ。
土を司るドライアド。
それぞれが精霊王に相応しい力を宿し、契約者と共に戦う。
サラマンダーは圧倒的な攻撃能力と探知能力。
ウンディーネは敵の攻撃を引き受け、契約者を守る盾。
シルフは素早い攻撃と、仲間の能力を引き上げる補助。
ドライアドは傷ついた者を癒やし、その身を守る力を与える。
四体全てが揃った時、攻撃、防御、回復、補助の全てが精霊だけで成立する。
それこそが『エレメンタルマスター』。
精霊と共に歩み続けたサモナーが、最後に辿り着く姿だった。
本来ならば精霊は、契約者と共に長い時間を過ごすことで成長する。
幼い精霊から始まり、成体へ。
そして最後には、精霊王に相応しい力を宿す存在へ。
それが『サモナー』という職業に設定された、一つの成長の系譜だった。
少なくとも『ネームレスオンライン』というゲームの中では。
「サモナーになったら、精霊と仲良くなれるかな。」
まだサモナーになる前。
そんなことを考えていた少女がいた。
強い精霊が欲しいわけではない。
最強のサモナーになりたいわけでもない。
ただ精霊と話してみたい。
一緒に旅をしてみたい。
仲良くなれたら嬉しい。
アイラが望んでいたのは、その程度のことだった。
もちろん、この時の彼女はまだ知らない。
普通なら長い時間を共に過ごし、育て、遥か先でようやく辿り着くはずの存在。
その『次代の精霊王』たちが何故か最初から、自分の周りに集まり始めていることなど知る由もなかった。




