一人前の冒険者⑦
「明日はまた冒険に出るからね。」
晩ご飯を食べながら、私は二人にはっきりと宣言した。
「もう行くのか……。」
「昨日帰ってきたばかりじゃない。」
パパとママは揃って残念そうな顔をする。
その反応を見ると、もう一日くらいいても良いかなって思っちゃうけど駄目。
このままズルズルいたら、いつまで経っても出発できなくなりそう。
「もし明日も起こしてくれなかったら、今度は挨拶しないで出ていっちゃうから。」
それはもちろん嘘だけど。
「えっ。」
だけど、パパの顔が固まった。
本気でそんなことをするつもりはない。
でも明日も起こしてもらえなかったら、パパは森の中だろうし。
見つからなかったら最悪、ママにだけ挨拶して出発することになっちゃうかも。
それはちょっと寂しい。
「分かった。ちゃんと起こすから。」
「うん。」
パパ、悲しい顔しすぎ。
ちょっと可哀想だけど、今朝起こしてくれなかった罰とします。
「それで、次はどこに行くの?」
ママに聞かれて少し考える。
「そうだね。次は――」
そんな話をしながら、今日も家族三人の夜は更けていった。
「アイラー。」
誰かが私を呼んでいる。
「アイラ、朝だぞー。」
「んぁ……。」
眠い。まだ目を開けたくない。
「あと五分……。」
「パパの見送り、してくれないのか?」
パパの……見送り。
「する!」
一気に意識が覚醒した。
布団を跳ね除け、無理やり上半身を起こす。
「おはよう、パパ……。」
「うん、おはよう。」
まだ頭は全然起きていない。
ふらふらしながら靴を履いて、台所へ向かう。
「ママもおはよう……。」
「おはよう、アイラ。」
ママが朝食の準備をしながら笑った。
「ふふ、お寝坊さんなのは変わらないのね。」
「そんなことない。」
私は一人旅でもちゃんと自力で起きてきた。
これは二人が早起きすぎるだけ。
「顔洗ってくる~。」
眠気を飛ばすため、そのまま井戸へ向かった。
井戸から水を汲み上げる。
「さむっ。」
秋の早朝。
冷たい水なんて顔につけたくない。
「これくらいかな。」
汲んだ井戸水に魔力を流し、温めることにした。
湯気が立ち始めたところで、一部を小さな桶へ移した。
見るからに温かそうで、ちょっとテンションが上がる。
そのまま両手で掬って顔を洗った。
「はぁ~……気持ちいい。」
温かい。魔法って素晴らしい。
顔を洗い終えて、ふと横を見る。
「……。」
近所の子供たちがこっちを見ていた。
正確には、私ではなく湯気の立っている桶を見ている。
「使いたい?」
「うん!」
即答だった。
「残ったお湯、使っていいよ。」
私だけ良い思いをするのも何だか悪い気がする。
幸い、多めに水を汲んでいたのでまだ十分残っている。
「本当!?」
「ただし。」
人差し指を立てる。
「喧嘩しないで仲良く使うこと。」
「うん!」
「僕にもちょうだい!」
「順番ね。」
子供たちが桶の周りに集まる。
うんうん、ちゃんと仲良く分けてて偉いね。
「それじゃあ私は――」
自分の周りに魔力を集める。
ふわっと温かい風が体を包んだ。
「ぬくぬくで帰ろう。」
「ずるーい!」
背後から声が飛んできた。
「これはお姉ちゃんの特権です。」
ちょっとだけ得意げに言い返して、そのまま家へ向かう。
子供たちにも温風を出してあげてもいいんだけど。
「誰かにやったら、みんな次々とお願いしてくるだろうしね。」
そうなったら朝から大変なことになる。
それに家ではパパとママが朝ご飯を用意して待っている。
これ以上待たせるわけにはいかない。
「ただいま~。」
家に戻ると、すでに二人とも席についていた。
「ごめん。井戸で近所の子たちに捕まっちゃった。」
「そんなことだと思った。」
ママが呆れたように笑う。
「ほら、アイラ。座りなさい。」
「はーい。」
いつもの席に座る。
目の前には三人分の朝食。
昨日は一人で食べた朝ご飯。
今日はパパとママがいる。
それだけなのに、何だかすごく嬉しい。
「それじゃあ。」
三人で手を合わせる。
「いただきます。」
今日も一日が始まる。




