一人前の冒険者③
時刻は夕方、十五時頃。
久しぶりの故郷、サジタリウスに帰ってきた。
今は町の外にある広場へ『ポータル』で転送してきたところだ。
辺りは早めに冒険を切り上げてきた冒険者たちでごった返している。
「あら、アイラちゃん。お久しぶり。」
「ウィザードになったのね。」
「よかったら、うちのパーティに来ない?」
早速、顔見知りの冒険者たちに声をかけられた。
冒険に出る前、色々と冒険者について話を聞かせてもらった人たちだ。
「お久しぶりです~。」
「はい、ウィザードになりました。」
「あはは、しばらくソロでやるつもりなんです。」
そんなことを話しながら、ゆっくり町の中へ歩いていく。
――私、冒険者たちと普通に話せてる。
知り合いと話したことで、自分が冒険者になったんだという実感が急に湧いてきた。
魔導都市レオでは昔からの知り合いと会うことなんてなかったから、余計にそう感じるのかもしれない。
「アイラちゃん、久しぶりだなぁ。」
「門番さん、こんにちは。」
南西の門を潜って、門番さんともご挨拶。
たった一か月しか経っていないのに、すごく懐かしい気がする。
「喉乾いちゃったから、お水飲もう。」
家の近くにある井戸へ向かい、水を汲む。
手を綺麗に洗ってから、両手で水を掬って飲んだ。
「ん~、冷たい。」
こうやって手で水を飲むのも久しぶりだ。
「アイラお姉ちゃん!?」
「その格好どうしたのー?」
聞き覚えのある声に振り返る。
近所に住んでいる兄妹だ。
今日も二人一緒にいるみたいで感心感心。
「うん、お久しぶり。ウィザードになったんだよ。」
「えぇー、可愛い!」
「魔法とかできるの!?」
うんうん。女の子と男の子って感じがする。
「褒めてくれてありがとう。魔法も使えるよ。」
「見たい!」
「見せてー!」
きゃっきゃと喜ぶ子供たち。
でも、危ないからまた今度ね。
そう伝えると、二人揃って残念そうな顔をした。
「それじゃあ私、ママのお店まで行くから。またね。」
「うん、またねー!」
その足で、美人な看板娘さんのいる露店へ向かう。
……と言っても、行く先々で声をかけられるので、どうしても歩みはゆっくりになってしまう。
あまり大きな町じゃないから、住民のほとんどが顔見知りだ。
歩みが遅くなるのも仕方なかった。
そんな風に何度目かの立ち話をしていると、荷台を引いたママが向こうから歩いてくるのが見えた。
「ママ!」
思わず笑顔になって駆け出す。
ママも私に気付いたのか、驚いた顔で立ち止まった。
そのまま勢いよく胸に飛び込む。
「お帰りなさい、アイラ。無事でよかった。」
「うん、ただいま。ママ。」
ぎゅっと抱きしめられる。
一か月ぶりに感じるママの匂いに、ようやく本当に家へ帰ってきたんだと思えた。
「まさか私の娘がウィザードになるなんてねぇ……。」
ママは本当に驚いていた。
魔力量も多くないと思っていた娘が、ウィザードになって帰ってくるなんて想像もしていなかったらしい。
私も、話したら絶対に反対されると思ったから言ってなかった。
もし魔法が使えないのにウィザードになろうとしていたら、正気じゃないもんね。
「ちゃんと使えるよ。ほら。」
カイロ代わりに使っている『ライト』を作って、ママにくっつけてみる。
「あら、温かい。」
ママは嬉しそうに両手で光を包み込んだ。
温かいのも嬉しいんだろうけど、それ以上に娘がちゃんと魔法を使えていることが嬉しいみたい。
「でもねぇ……。」
「?」
何が気掛かりなのか、ママは私の足を一度見る。
もう一度見る。
そして三度見た。
「……ケンが気絶しないと良いけど。」
ぽそっと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。
家に帰って、ご飯の準備を手伝う。
相変わらず調味料なんてほとんどないので、作る物も簡単な料理ばかりだ。
いつも苦労していた火起こしも、今なら魔法ですぐに終わる。
「ママ、火つけるね。」
「お願い。」
ちょっと魔力を調整して――。
ぼっ。
「あらぁ……。」
薪に火がついた。
ママが感動したように炎を眺めている。
「アイラ。」
「なに?」
「いつ帰ってきてもいいからね。」
「……。」
この顔は本気だ。
どうやら我が家において、ウィザードの娘は想像以上に需要が高いらしい。
「アイラー!!」
突然、家の外から大声が聞こえてきた。
しかもかなり遠い。
だけど、声の主はすぐに分かった。
「……本当に、恥ずかしい。」
「……近所迷惑。」
ママは怒り、私は恥ずかしい。
ご近所さんの笑い声と一緒に、パパがものすごい勢いで走って帰ってきた。
「アイラ!」
身体中に葉っぱをつけている。
どれだけ急いで帰ってきたんだろう。
「ただいま! アイラ、お帰り!」
「……ただいま。」
私が恥ずかしがっていることなんて、まるで気付いていない。
目なんてキラッキラしてる。
でも、こんなに歓迎されたら仕方ないか。
私は呆れながらも小さく笑った。
「ケン。」
「ん?」
「先に顔と手、洗ってきて。」
だけど、ママは許さなかったみたいです。
「……はい。」
パパは大人しく井戸へ向かった。
「アイラ、ウィザードになっ――」
井戸で手と顔を綺麗にして戻ってきたパパが、私を見たまま固まった。
「?」
どうしたんだろう。
近づいて、パパの顔を下から覗き込む。
「パパ?」
「アイラ……。」
「どうしたの?」
突然動き出したパパが、近くにあった足掛けを手に取った。
そして私に差し出す。
「その足を隠しなさい!」
珍しく強い語気だった。
「あ。」
そっちか。この過激なスリットの入ったスカートが気になったらしい。
腰回りにはちゃんと布を巻いているから、下着が見えるようなことはない。
だけど太ももから下はほとんど隠れていない。
「大袈裟だなぁ。」
一か月も着ていたから、私はすっかり慣れてしまった。
でも、ここはパパの言う通りにしておこう。
足掛けを受け取って腰に巻くにかける。
「そんな格好してたら悪い男がだな!」
「うん、よくパーティ組もうって声かけられるよ。」
「なっ――」
「全部お断りしてるけど。」
バターン!
今度こそパパが倒れた。
「パパ、大丈夫!?」
慌てて顔を覗き込む私。
「あぁ……。」
頭に片手を当てて、大きなため息を吐くママ。
「認めんぞ~~~……。」
半泣きになりながら地面に転がるパパ。
「何を!?」
何を認めないのか分からない。
久しぶりの家族団欒は、カオスから始まった。




