GM権限、使えちゃいました②
「考えてたら喉乾いてきちゃった。」
そういえば、朝食を食べてから一度も水を飲んでいなかった。
私はベンチから飛び降り、家のそばにある井戸まで戻る。
井戸水を汲んでまずは手をよく洗い、それから両手ですくって水を飲んだ。
コップなんて使わない。
井戸水は、こうして手ですくって飲むのが当たり前だった。
飲み終わると、そのまま自然に手が乾くのを待つ。
……ワイルドすぎると思うけど、これがこの世界の平民の暮らし。
手が十分に乾いたことを確認すると、私は家へ戻った。
「ただいま~」
誰もいないことは分かっている。
それでも、挨拶は欠かさない。
そのまま寝室へ向かい、靴を脱ぐと自分のベッドへぽふっと飛び込んだ。
「安全に強くなる方法はないかなぁ」
うつ伏せのまま呟く。
私が冒険者になりたいのは、この世界のいろいろなものを自分の目で見たいからだ。
命懸けの冒険がしたいわけじゃない。
危険なんて、できる限り避けたい。
それに、できることなら少しでも稼いで、パパとママを楽にしてあげたいとも思っている。
そのためにも、レベルアップは絶対に必要だ。
「デバッグマップにいたレベルアップNPCがいたら、一気に解決するのに」
前世の仕事で何度も世話になったNPCの姿を思い浮かべる。
運営しか立ち入れないデバッグマップ。
そこにはレベル調整やアイテム検証など、様々な用途のNPCが並んでいた。
もちろん、その中にはレベルを上げられるNPCも存在する。
他にもGM専用装備やGM権限でのみ使用できる特殊コマンド。
運営だけが使える、いわば公式チートがたくさんあった。
……記憶を取り戻したのはほんの数日前。
だからこそ、その内容はまだたくさん覚えている。
GMコマンド《HidePC》なんかは敵からほとんどの攻撃を受けなくなるGMコマンドだ。
あれが使えれば、私の望みはほとんど叶うのに。
そう思いながら、ごろんと仰向けになる。
「あれ?」
ふと違和感を覚えた。
……今、何かおかしかった。
そっと自分の体へ視線を落とす。
「えっ、私の体が無い!?」
体を動かす感覚はちゃんとある。
それなのに、手も足も見えない。
驚きのあまり慌ててベッドから飛び降りる。
「っと、いけない。」
地面を素足で歩かないよう、急いで靴を履く。
――靴まで消えた。
「え、えええええ!?」
履いている感触は確かにある。
試しに足をトントンと床へ打ちつけると、靴底が床を叩く音だけが部屋に響いた。




