一人前の冒険者①
一人の冒険に戻ってから、すでに二週間。
魔導都市レオに来てからは、一カ月近くが経過している。
この一カ月で私の稼ぎも随分と増えた。
今では、この街に来たばかりの頃とは比べものにならないくらい稼げるようになっている。
とはいえ、生活水準を上げるのはまだ自重中。
宿も食事も、これまで通りだ。
「さて、と。」
この一カ月で稼いだお金をテーブルの上に広げて確認する。
「GMコマンドでスタートダッシュをズルしたとはいえ……パパとママより稼いでるよね。」
改めて数えてみても、やっぱり多い。
これをそのまま報告したら、パパが落ち込みそうな気がする。
家に帰っても、あんまり稼いでる空気は出さないでおこう。
でも逆に、稼げていないなんて言ったら心配させてしまう。
「生活には困ってません。仕事も順調です……くらいかな。」
うん。せいぜい、仕事が上手くいっていることを説明するくらいに留めておこう。
これなら余計な心配もさせないはず。
「帰省のシミュレートは完璧だね。」
一人で満足して頷いた。
ちなみに、冒険者ギルドの依頼を受けて名声を上げる計画については、最初から上手くいったわけではない。
理由は単純。
実績のない新米冒険者に、大事な依頼なんて回してもらえなかったからだ。
簡単な採取や討伐依頼なら受けられる。
でも、それだけでは名声を得るには時間がかかる。
そんな私を見かねて協力してくれたのが、ネネさんやルカさんたちだった。
「まさか『指名依頼』を使うことになるとは思わなかったなぁ。」
方法は単純。
希少な素材の納品を、私個人に『指名依頼』として出してもらう。
それを私が達成する。
依頼という形で冒険者ギルドを通す以上、私の実績として正式に記録される。
ただし、依頼金額は非公開。
これにはちゃんと理由がある。
私は協力してもらっているお礼も兼ねて、素材を相場より安く納品しているからだ。
もしその金額が他の冒険者に知られたら、あまり良い顔はされないだろう。
それだけならまだいい。
問題は、依頼する側がその金額を適正価格だと勘違いすること。
「あの冒険者はこの値段でやってくれた。」
なんて言われて、他の冒険者まで同じ金額で依頼されたら困る。
安く仕事を引き受け続けるということは、冒険者全体の仕事の価値を下げることにも繋がる。
だから、この辺りは上手く立ち回らないといけない。
ちなみに私の収支はというと。
「それでも大黒字です。」
ソロで活動しているおかげで、分け前を考える必要がない。
多少安く素材を売っても十分すぎるくらい稼げている。
ソロと言えば。
私がセリーちゃんとパーティを解消したという話は、あっという間に広まった。
その結果、何度もパーティに誘われるようになった。
全部断っているわけじゃない。
相手を見て、一日限りのパーティを組んで冒険に出た日もある。
「やっぱりパーティ戦も面白いんだよね。」
前世では暇さえあれば野良パーティもよく組んでいた。
その日限りの一期一会。
知らない人と協力して、少しずつ息が合っていく感覚。
あれはあれで楽しい。
ただし男性だけのパーティや、少し怪しい雰囲気の人がいるパーティは申し訳ないけど断るようにしている。
この世界は命が安いからなのか、性に対して大らかな人も結構多い。
一緒にパーティを組んでいるうちに恋仲になって、そのまま子供ができました。
なんて話も珍しくない。
中には婚活目的でパーティを組んでいる冒険者までいた。
それどころか、冒険のストレスを発散するためにパーティメンバー同士で体を重ねることもあるらしい。
初めて聞いた時はさすがに驚いた。
「う~ん……。」
前世では家庭環境なんかもあって、四十歳を過ぎても結婚することはなかった。
だから恋愛観については、かなり偏っている自覚がある。
それでも。
「好きな人と結婚したいでしょ。」
これは譲れない。
理想はもちろん、パパとママみたいなラブラブ夫婦!
好きな人と出会って、好きになってもらって、いつか結婚する。
そういうのが良い。
だから恋愛とか、肉体関係を最初から目的にしているようなパーティは、今後もお断りします。
「よし。」
広げていたお金を片付ける。
荷物もまとめ終わった。
私は椅子から立ち上がった。
今日で、しばらく魔導都市レオとはお別れだ。
一カ月近く過ごした街。
「ちゃんと挨拶していかないとね。」
ネネさん、ルカさん、セリーちゃん。
全員この街で会った大切な人たちだ。
余分な荷物を《Storage》へ入れて、最後に忘れ物がないか部屋の中を確認する。
何度も寝起きしたベッド。
荷物を置いていた机。
毎日開け閉めした窓。
最初にこの部屋へ入った時は、こんなに名残惜しくなるなんて思っていなかった。
私は入口まで歩いて、もう一度だけ部屋を見渡した。
「一カ月間、お世話になりました。」
誰もいない部屋に向かって、ぺこりと頭を下げる。
そして扉を閉めた。
今日で、この街での生活も一区切り。
私はお世話になった人たちへ挨拶をするため、一階へと降りていった。




