それぞれの道へ④
「ぷぁ~。」
「ほぇ~。」
二人仲良く並んで湯船に浸かる。
いきなり肩まで浸かると体に負担がかかるので、まずは半身浴から。
それでも体の芯までじんわり温まっていく感覚に、思わず二人揃って呆けた声が出てしまった。
「気持ちいいねぇ……。」
「ねぇ……。」
これだけでも高いお金を払った価値があると思う。
ぼんやりしながら周りを眺めてみると、利用客は冒険者らしき人が多かった。
綺麗な曲線を描く体の女性もいれば、筋骨隆々な女性もいる。
中にはモンスターとの戦闘で大きな傷を負った人もいて。
腕がない人の姿もあった。
「……。」
長く冒険をしてきたであろうベテランほど、大なり小なり体のどこかに傷を負っている。
傷跡、火傷、欠損。
どれもゲームだった頃なら、回復すれば元通りになったものだ。
でも、この世界ではそうじゃない。
回復が遅れてしまえば傷が元に戻せないことだってある。
私も長く冒険を続けていたら、いつかああいう怪我をすることがあるのだろうか。
「……それはちょっと怖いなぁ。」
思わず自分の腕を擦った。
いくら強くなっても油断はしないようにしよう。
やっぱり『いのちだいじに』は大切だ。
「アイラちゃんはこれからどうするの?」
そんな風にまじまじと周りを眺めていたことに気付いたのか、セリーちゃんが話しかけてきた。
「うーん、とりあえずあと二週間くらい冒険を続けたら、一度サジタリウスに帰らないと。」
「そうなんだ?」
「一カ月に一回は顔を見せろって、パパとママが。」
「へぇ~。でも往復で結構な金額するよ?」
「そうなんだよねぇ。」
言われてみればそうだ。
よくよく考えたら、新米冒険者に一カ月ごとの帰省って結構無茶苦茶なことを言ってる?
私はできそうだと思ったから普通に快諾してたけど。
もしかしてパパも、本気で毎月帰ってこられるとは思ってなかったのかもしれない。
「でも、心配させてるのは分かってるから。それくらいの親孝行はしないとね。」
「ふふ、アイラちゃん家族のこと大好きだもんね。」
「うん、大好き!」
そこは即答できる。
パパもママも、私が冒険者になるって話をした時は本当に渋い顔をしていた。
むしろ月に一回顔を見せるだけで許してもらえるなら、安いと思わないと。
「セリーちゃんは事情聴取が終わったらどうするの?」
この前話した時は、そこから先のことまでは聞いていなかった。
もしかしたら港町アクエリアスへ帰るつもりなのかもしれない。
「しばらくは冒険者を続けるかな。」
「じゃあ、この街にずっといるの?」
「ずっとはないかも。」
セリーちゃんは少し考えてから続けた。
「私、世界中の希少な素材を集めに行きたいから。」
「そっか……。」
それがセリーちゃんの夢だったね。
自分で良いものを集めて、それを必要としている人に届ける。
そのために冒険者になったんだから、魔導都市レオにずっといるわけにはいかない。
そうなると私もいろんな街を回る。セリーちゃんもいろんな場所へ行く。
今よりずっと、会う機会は減っちゃうのかな。
そう思ったら、少しだけ寂しくなった。
「じゃあ、私が集めた素材を買い取ってくれる?」
気付けばそんな質問をしていた。
どうにか、この先も接点を残しておきたかったのかもしれない。
「うん。アイラちゃんが持ってきてくれたものなら歓迎だよ。」
「本当?」
「もちろん。」
「じゃあ欲しいものがあったら教えてね。見つけたら持ってくるから。」
「うんっ。」
「約束ね。」
「約束!」
また一つ。
セリーちゃんとの約束が増えた。
それだけで少し嬉しくなった。
「ふぅ……。」
もう十分に体は温まった気がする。
頬も熱い。
これ以上入っていたら、さすがにのぼせてしまいそうだ。
「そろそろ上がるね。」
「私も。」
二人揃って湯船から出て、もう一度洗い場に座る。
ここのお湯は天然の温泉じゃない。
入浴剤のようなものも入っていない。
最後にお湯で流しちゃっても特別な効能などは無いので大丈夫。
「さっぱりしたね~。」
「体も綺麗になったね。」
ぴかぴかになった体に満足しながら、持ってきたタオルで水気を拭いていく。
「アイラちゃん、タオル貸して。」
「ん?」
言われた通り渡すと、セリーちゃんが私の後ろへ回った。
「背中拭くね。」
「ありがとう。」
自分では少し拭きづらかった背中を丁寧に拭いてくれる。
「じゃあ次、私がやる。」
「お願い。」
今度は私がセリーちゃんの背中を拭いた。
こういうのもお泊まりっぽい。
なんだか少しくすぐったくて、二人で笑ってしまった。
体を拭き終わったら寝間着に着替える。
まだ外を歩くには少しはしたない格好だけど。
「上からローブを羽織れば分からないよね。」
これでいこう。
セリーちゃんも同じことを考えていたようで、少し頬を赤くしながら寝間着の上からローブを纏った。
「これなら大丈夫。」
「うん、多分。」
多分だけど。
出口に置かれている井戸水を一杯いただく。
ごくごく。
「ぷはぁ。」
冷たすぎず、火照った体にはちょうどいい。
風呂上がりのお水ってどうしてこんなに美味しいんだろう。
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
番頭さんに二人でお礼を言って、大浴場を出た。
外はもう完全に夜だった。
空には星が浮かび、街灯も点いている。
それでも前世の街灯ほど明るくはないので、足元はよく見えない。
それに十一月の夜風は肌寒い。
せっかくお風呂で温まったのに、このままだと宿に着く頃には冷えちゃいそう。
「そうだ。」
私は『ライト』を使う時のように魔力を練る。
ただし光は弱め。
代わりに、いつも部屋を暖めている時のように熱を強くする。
「よし。」
小さな光の球を二つ作った。
一つを自分の近くに。
もう一つをセリーちゃんのお腹の近くに浮かべる。
「わぁ、温かい。」
「これなら湯冷めしないでしょ?」
魔力で作った電灯兼、湯たんぽみたいなものだ。
足元もほんのり照らしてくれるので転びにくい。
「アイラちゃん、本当に魔法の使い方変わってるよね。」
「便利なのに。」
「褒めてるんだよ?」
「そうなんだ。」
昼間の果実水といい、こういう使い方がそんなに珍しいのだろうか。
私は便利だからやってるだけなんだけど。
「……でね。」
「うんうん。」
「……だったんだよ。」
「そうなんだ~。」
二人で小さな声を出しながら歩く。
もう街の子供なら寝ていてもおかしくない時間だ。
大きな声で騒いだら、寝ている人に迷惑をかけてしまう。
下手をしたら窓から怒鳴られるかもしれない。
だから自然と声も小さくなる。
「ふふ。」
「どうしたの?」
「なんか、悪いことしてるみたい。」
「分かる。」
別に悪いことなんて何もしていない。
それでも夜の街を寝間着姿で、友達とこそこそ話しながら歩いているだけで少し特別なことをしている気分になる。
それがおかしくて。
また二人で声を抑えて笑った。
私たちはそんな風に小さな会話を交わしながら、楽しく宿までの夜道を歩いていった。




