それぞれの道へ③
その後もいっぱい遊んだ。
今日一日で、魔導都市レオの主要な場所を全部回ったんじゃないかと思うくらいには。
気付けば空も茜色に染まり始めている。
「もうこんな時間かぁ。」
楽しい時間は過ぎるのが早い。
ここでお別れしたら、また明日から一人で冒険することになる。
それは、やっぱり少し寂しい。
「ねぇ、アイラちゃん。」
「ん?」
「今日は私の借りてる部屋でお泊まりしない?」
「え、何それ! したい!」
思いがけない提案に、私はすぐに飛びついた。
転生してから、友達のところにお泊まりなんて一度もしたことがない。
一緒にご飯を食べて、いっぱいお話して、同じベッドで寝る。
絶対楽しい!
「私、ネネさんにお話ししてくる!」
「あ、うん。待ってるね。」
着替えを取りに行くついでに、急いで宿へ戻ることにした。
早く伝えないと、ネネさんが私の晩ご飯を用意してしまうかもしれない。
この世界で食べ物を無駄にするなんて許されないのだ。
「今日、セリーちゃんのところに泊まってきても大丈夫ですか?」
宿に戻って事情を話すと、ネネさんは快く送り出してくれた。
宿泊料金についてはちゃんと払っているし、部屋だけ取って帰ってこない冒険者も珍しくないらしい。
「行ってきまーす!」
「ああ、気を付けてね。あんまり夜更かしするんじゃないよ。」
「はーい!」
着替えとタオルを風呂敷に包んで、セリーちゃんの泊まる宿へ向かう。
外はすっかり夕方の景色に変わっていた。
冒険から帰ってきた人たちが街の至るところに溢れ、昼間とはまた違った活気に包まれている。
こういう景色はサジタリウスと同じだ。
前世で毎日夜中まで働いていた頃を、少しだけ懐かしく思う。
宿に着くと、すでに話は通っていた。
女将さんにセリーちゃんの部屋を教えてもらう。
昨日と同じ部屋に、そのまま泊まっているらしい。
「料金はこちらで――」
「ああ、それならもう貰ってるよ。」
「え?」
セリーちゃんが先に払っていた。
それは認めてない。
後でしっかり私の分は払わせてもらおう。
受け取ってくれなかったら、部屋に置いて逃げればいい。
私は扉の前まで行くと軽くノックした。
コンコン。
「セリーちゃん、来たよ。」
「アイラちゃん!」
嬉しそうな声と一緒に扉が開く。
「入って!」
「お邪魔しまーす。」
部屋に入ると、隅には籠が用意されていた。
「荷物はここに入れて。」
「ありがとう。」
持ってきた風呂敷を籠の中に入れる。
そのままテーブルの方へ向かおうとすると、セリーちゃんに止められた。
「アイラちゃんはベッドに座ってね。」
「はーい。」
言われた通りにベッドへ腰掛ける。
セリーちゃんは椅子を持ってきて、私の前にちょこんと座った。
「あ、セリーちゃん。」
「なに?」
「お金、宿の人に払ったでしょ?」
「うん。しかもね、二人で一部屋だから半分の料金でいいって言ってくれたの。」
「そうなんだ! じゃあ私の分は払うからね。」
「えぇー?」
「えぇー、じゃないの。」
「昨日のクッキーのお礼。」
「果実水でお礼してもらいましたー。」
「今日いっぱい遊んでくれたお礼。」
「私も楽しかったからお互い様ですー。」
「むぅ。」
「ふふん。」
そんなくだらない攻防まで楽しい。
結局、どちらも譲らないまま晩ご飯の時間までおしゃべりを続けた。
転生してから初めてのお泊まりに浮かれているせいか、どうにもテンションが高くなってしまう。
「ふふ、アイラちゃん楽しそう。」
セリーちゃんが目を細めて笑った。
その言い方が、なんだか子供を見守っているみたいで悔しい。
人生経験なら私の方がずっと豊富なはずなのに。
「じゃあ、セリーちゃんは楽しくないの?」
ちょっと意地悪な質問を返してやる。
「すっごく楽しい!」
即答だった。
しかも満面の笑み。
「……その顔は反則だって。」
そんな顔をされたら、何も言い返せないじゃん。
晩ご飯はサラダとリゾット、それにスープだった。
「わぁ……。」
宿の女将さんが私たちだけ特別に、と言っていたのは嘘ではなかったらしい。
リゾットにもスープにも具がたっぷり入っている。
「私、ここに泊まってからこんな豪華なの初めてかも。」
「本当に? じゃあ私が来たおかげだね。」
「ふふ、そうかも。」
二人で美味しくいただいた後、食器を片付けるついでに女将さんへお礼を伝える。
「ごちそうさまでした。」
「美味しかったです!」
何かをしてもらったなら、感謝はいくら伝えたっていい。
ここの女将さんもネネさんみたいに優しい人のようで安心した。
部屋に戻って着替えを取り出した後、二人で魔導都市レオの大浴場へ向かった。
久しぶりのちゃんとしたお風呂!
前世から考えれば信じられない話だけど、この世界では毎日湯船に浸かれるような生活の方が珍しい。
だからこそ、入れる時にはしっかり堪能したい。
ちなみに大浴場の利用料は結構高い。
一回入るだけで宿五日分くらいの料金を取られる。
その代わり、シャンプーや石鹸なんかの高級品も使い切りで貰えるからありがたい。
それに高い料金を払っている場所だから、利用する人たちも比較的身綺麗にしている。
でも、たま~に男風呂ではろくに体を洗わず湯船に入る人もいるとパパから聞いた。
「そんなの、絶対入りたくない……。」
想像するだけで震えるけど前世の感覚で「そういう人、いるかも」と思えてしまうのが悲しいところである。
料金を支払うと、水濡れ防止用の衣装箱を渡された。
更衣室に鍵付きのロッカーなんて便利なものはない。
貴重品から目を離せば盗まれる可能性があるので、基本的に自分で管理することになる。
私たちは服を脱ぎ、衣装箱に着替えや貴重品をまとめて大浴場へ向かった。
「わぁ、人いっぱい。」
中にはすでにたくさんの人がいる。
アイラになったばかりの頃は、女湯に入ることに少しだけ申し訳なさを感じていた。
でも、あれから七年。
今では心も体もすっかり女性として生きている。
もう女湯に入ることは気にならない。
裸を見られるのは普通に恥ずかしいけどね。
あぁ、でも恋愛は男性でも女性でも大丈夫な気がする。
好きになった人なら、性別はどっちでも大丈夫そう。
……まぁ、今のところ好きな人なんていないけど。
そんなことを考えながら、二人分空いている洗い場を見つけてセリーちゃんと並んで座る。
まずは体中をお湯で流す。
それからシャンプーで髪を洗って。
終わったらトリートメントで髪を整える。
次は石鹸で顔を洗う。
洗顔料なんて便利なものはもちろんない。
最後に体中を石鹸で綺麗に洗ったら完了。
「ごめん、お待たせ。」
髪が長い分、どうしても私の方が時間がかかってしまった。
先に洗い終わっていたセリーちゃんが、こちらを見る。
「……。」
「セリーちゃん?」
「アイラちゃんって、本当に可愛いよね。」
まじまじと見ながら言われてしまった。
「えへへ、ありがとう。」
ママ似の顔を褒められるのは嬉しい。
私だって、ママが世界で一番美人だと思ってるもん。
「セリーちゃんも可愛いよ。」
「え、そう?」
「うん。」
セリーちゃんも可愛い顔立ちをしている。
きっと男の子にも人気があるだろう。
それに――。
「……。」
「アイラちゃん?」
「あ、ううん。なんでもない。」
思わず視線を逸らした。
マーチャントの服は体のラインが分かりにくかったから気付かなかった。
セリーちゃんって、着痩せするタイプだったんだね……。
年頃の女の子にしては、かなり発育がいい。
自分の体をちらっと見る。
それからセリーちゃんを見る。
もう一度、自分を見る。
「……。」
「どうしたの?」
「なんでもないです。」
思わぬところで、友達との格差を知ってしまった。




