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幕間 銀色の髪、赤い瞳

私は王国からの調査依頼を受けて、魔導都市レオに来ていた。

依頼の内容は、行方不明になった女性の探索と原因調査。

これまでの調査で、行方不明者と特徴が一致する人物が闇市で取引されているという噂を掴んでいるため、人身売買を目的とした誘拐であろうというところまでは来ていた。

しかし、そこからが長かった。


犯行グループの尻尾がいつまで経っても掴めない。

特に困難を極めたのは、その潜伏場所の特定だ。

魔導都市レオ近郊からルインダンジョンの深層まで、怪しいと思われる場所は片っ端から調べた。

街の人間や冒険者にも聞き込みを行い、失踪者が最後に目撃された場所も何度となく洗い直している。

それでも、怪しい場所はおろか犯人に繋がる目撃情報すら得られなかった。

まるで最初から、誰にも見つからない場所を知っているかのようだった。

そして、それを嘲笑うかのように失踪事件は続いた。


事態が急変したのは、大人数のパーティがルインダンジョン深層で行方不明になったことだ。

当初は事件の内容から別件であると考えられていた。

これまでの事件の失踪者は一人。

対して今回は八人も失踪していたからだ。

冒険者がダンジョンで命を落とすこと自体は珍しい話ではない。

ましてやルインダンジョンの深層ともなれば、少しの油断がパーティの全滅に繋がる。

今回もそうした事故の一つだと考えられていた。


しかし、意外なところで二つの事件は繋がることになった。

別の事件で捕らえた犯罪者が囲っていた奴隷の中に、パーティの行方不明者がいたからだ。

女性から話を聞くと、こういうことだった。

ルインダンジョンの深層、大墓地付近で狩りをしていたところ、突然『ハイド』からの強襲を受けて男たちが殺された。

自分たちも拘束され、目隠しをされた状態で誘拐されたらしい。


しかし、そこからそう離れていないどこかの地下洞窟に連れていかれたのだと言う。

目隠しをされていたため正確な場所は分からない。

それでも、長時間移動したわけではなかったという証言だけでも大きな前進だった。

その後、被害者がそこでどんな扱いを受けていたかについては、人に話すようなことではないので省く。

ともかく闇市で売られ、知らない男の館に監禁されていたところを騎士団に助け出されたというわけだ。

ようやく、犯行グループに繋がる手掛かりを掴んだ。


まずはこの情報の裏取りをするはずだった。

冒険者に扮した騎士団員が噂の場所まで調査に赴き、様子を窺ってくる計画。

敵の規模も、正確な潜伏場所も分かっていない。

情報が正しいとも限らない以上、いきなり大人数で踏み込むわけにもいかなかったのだ。


しかし、その計画はすぐに破綻することとなる。

明朝、二人の女性冒険者の失踪報告があった。

一人は十二歳の『セリー』という名のマーチャントの女性。

もう一人は、行方不明の友達を探しに行った『アイラ』という名のウィザードの女性だった。

二人の特徴をよく確認する。

特にアイラには心当たりがあった。

銀色の髪に、赤い瞳。

最近、この街に来たばかりの小柄な女性だ。

どちらも誘拐されたという確証はないが、いなくなる際の状況が不自然だった。


セリーは友達と会うために宿を出た後、突然消息を絶っている。

アイラはその友達を探しに行った後、誰も姿を見ていないらしい。

もちろん、勘違いや偶然という可能性もある。

しかし、もし誘拐されているなら、誘拐した女性をすぐに闇市へ流すような連中だ。

きっと今回も、あまり時間はないだろう。

悠長に情報を集めている間に取り返しのつかないことになっては遅い。


この情報を得てからの動きは迅速だった。

犯罪者たちを一網打尽にするため、冒険者がまだ動かない時間を狙う。

一個小隊を結成し、ルインダンジョンの大墓地まで一気に突入した。

相手はこちらの捜査を何度も掻い潜ってきた犯罪者たちだ。

当然、戦闘が発生するものと予想していた。

私も剣の柄に手を掛け、いつ襲撃されても対応できるよう周囲を警戒する。

しかし、何も起こらない。

不自然なほど静かだった。

そのまま調査を進めると、大きな墓の下に空洞を見つける。


「……こんなところに。」

なるほど。

これなら確かに、情報無しの騎士団では捕まえることは難しいだろう。

まさかダンジョン内の墓の下に、このような場所があるとは考えようがない。

墓石を大きくずらすと、指名手配となっていたローグの男が倒れていた。

一瞬、死んでいるのかと思った。

しかし呼吸はしている。

寝ているのかとも思ったが、どうも意識を失っているらしい。

「拘束しろ。」

部下の一人に指示を出す。

謎は残るが、それで奇襲を受けずに済んだのかと納得した。


そのまま深部まで突入する。

中は不気味なほど静かだった。

騎士団が突入してきたのだから、もう少し慌ててもいいものだ。

もしかしたら、既にもぬけの殻なのではないか。

せっかく掴んだ手掛かりを、また失うのではないか。

そんな焦りが出る。

しかし、実際の状況は想像を超えたものだった。


目の前には被害者とおぼしき女性。

その顔には見覚えがあった。

魔導都市レオに在留する十二歳の女性。

本件の被害者像と一致するため、密かにマークしていた人物。

それは間違いなく、探していたセリーだった。

そして、気絶して転がる男たち。

一人ではない。

見える範囲だけでも複数人が地面に倒れている。

どれも頭や腹に殴打痕が見られた。


「……何があった?」

誰かが我々より先にこの女性を助けたことは明白だった。

ひょっとしたらこれは罠かとも思ったが、襲ってくる様子はない。

周囲を警戒していた部下たちからも、異常を知らせる声は上がらなかった。

「犯罪者を拘束しろ。彼女の保護を最優先に。」

私は各騎士たちに、犯罪者の拘束と被害者の保護を指示した。

そのまま男たちは呆気なく捕縛され、事件は収束へ向けて急激に動き出す。


だが、一つ気になることがあった。

もう一人の行方不明者、アイラの姿が無い。

先に捕まったはずのセリーがここにいて、アイラがここにいないということは、捕まったのはセリーだけだったのかもしれない。

少なくとも、ここに誘拐はされるようなことは無かったと見ていいだろう。

この先は一度、騎士館に戻ってセリーから事情を聞くべきだ。

事情聴取のため、魔導都市レオの騎士館へ『ポータル』での帰還を指示する。

ふと、セリーが転送寸前、誰かに向かってお礼を言った気がした。

「……?」

辺りを見渡すが、誰もいない。


まさか、セリーを助けた人物はまだここに?

そんな考えが頭をよぎる。

いや、不可能だ。

ここはもう、しらみ潰しに探した後だ。

牢の奥や天井を見渡しても誰もいない。

物陰に隠れている者がいないことも確認している。

荒唐無稽な考えだ。まさか人が突然消えたりするはずがない。


それよりも、今は気になっていた銀の髪の女性が被害に遭っていないようで何よりだ。

私は安堵から思わずため息を吐く。

「……。」

その理由は分からなかった。

なぜ私は、会話をしたことすらほとんどない女性の無事に、これほど安堵しているのだろう。

少しだけ疑問に思ったが、今は考えている場合ではない。

私も乗り遅れないよう、『ポータル』の中に飛び込んだ。


ふと、二年前のことを思い出していた。

何者かから放たれた魔法により焼け落ちたゴブリン。

そこで出会った謎の少女。

どうしてあんな場所にいたのか。

誰があのゴブリンを倒したのか。

結局、何一つ分からないまま、目を離した隙に逃げられて、忽然と姿を消したあの子。

最近、それによく似たウィザードの女性を見た。

男たちに追いかけられ、逃げてるところを助けようと追いかけたら、消えてしまった彼女。

そして、今回、行方不明になっている女性。

その全てが銀色の髪に赤い瞳をしていた。

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