それぞれの道へ②
やっぱり昨日のことでトラウマが?
冒険者を続けるのが怖くなった?
それとも、私と一緒にいるのが嫌になった?
頭の中にいろんな可能性が浮かんでくる。
何て言葉をかけるのが正解なんだろう。
セリーちゃんの気持ちを一番に考えないといけない。
分かってる。
分かってるんだけど。
パーティを解消したいと言われて私は凄く嫌だと思った。
「なんで!?」
思わず口から出た。
「あっ……。」
やってしまった。
『アイラ』の部分が止められなかった。
今はセリーちゃんの気持ちを慮るべきなのに、つい自分の感情を優先してしまった。
「ご、ごめん。今のは……。」
「あのね。」
慌てて謝ろうとした私を、セリーちゃんの声が遮った。
困ったように眉を下げながら、それでも真剣な顔で言葉を紡ぐ。
「アイラちゃん、私に隠してることあるでしょう?」
「……え?」
ドキッとした。
GM権限、前世の記憶、本当の実力。
話せないことなんて、いくらでもある。
どれ?セリーちゃんは、どこまで気付いてるの?
私が混乱していると、セリーちゃんはふっと小さく息を吐いた。
「本当は、そこら辺の冒険者よりずっと強いのに隠そうとしてるよね。」
「……。」
思い浮かべていたものの中では、一番軽い。
そのことに思わず少しだけホッとした。
「最初から何となく変だと思ってたの。」
「最初から?」
「うん。」
セリーちゃんは頷く。
「だってアイラちゃんが使ってる魔法の威力、おかしかったもん。」
「……そうかな?」
私は中身の無い応答しかできなかった。
「……なんでアイラちゃんが実力を隠そうとしているのかは分からないの。でも何か理由があるんだろうなって思ってた。」
私は黙って話を聞いた。
「だから、聞かない方がいいのかなって。」
その言葉に胸が少し痛んだ。
私が隠していることに気付いて。
それでも聞かずに、一緒にいてくれたんだ。
「でも昨日、いっぱい考えた。」
セリーちゃんが顔を上げる。
「多分……ううん、きっと。」
その目には迷いがなかった。
「アイラちゃんのその力は、誰かのために使った方が良いと思ったの。」
「……。」
それは奇しくも昨日、私自身が考えていたことと重なった。
自分の力を隠すことばかり考えない。
必要なら使う。
手を伸ばせる人を助けるために。
「私と一緒にいたら、アイラちゃんは自由に動けないから。」
「そんなことない。」とは言えなかった。
セリーちゃんの言っていることは、間違っていない。
だけど、それでも、その先は言わないでほしかった。
「だから。」
セリーちゃんはまっすぐ私を見る。
「私とパーティを解消してください。」
もう一度。
今度は、はっきりと告げられた。
「……。」
ぐるぐると思考が回る。
言葉がちゃんと出てこない。
言い訳を並べ立てようにも説得できるだけの材料がない。
むしろ彼女の決意の固さを、その目が雄弁に物語っている。
「嫌だ。」って言いたい。
子供みたいに駄々を捏ねたい。
せっかく初めてできた冒険仲間なのに。
でも、そんなことを言ったらセリーちゃんはもっと困るだろう。
だから必死に考えて何とか言葉を絞り出した。
「……パーティ解消しても、友達?」
「……。」
言ってから気付いた。
何とか絞り出した言葉がそれ?
途端に恥ずかしくなって、セリーちゃんから視線を逸らす。
ぷっと吹き出す声が聞こえた。
「あはは!」
「えっ。」
ギョッとしてセリーちゃんを見る。
笑っていた。
それも、本当に愉快そうに。
「アイラちゃんって同い年なのに。」
ひーひー言いながらお腹まで抱えている。
「時々、私より年下に見える時があるよね。」
「ひどーい!」
こっちはこんなに悩んでるのに!
私は半べそをかきながら、セリーちゃんを指差した。
「は、はは……。ごめん、ごめん。」
ひとしきり笑いきったのか、セリーちゃんは大きく息を吐く。
そして、私が向けていた手を両手でそっと包んだ。
「アイラちゃん。」
「……なに?」
もう一度。
まっすぐ私を見つめ返す。
「うん。ずっと友達。」
そう言って、今まで見た中で一番の笑顔を見せてくれた。
胸の奥に引っ掛かっていたものが、一気にほどけていく。
「……そっか。」
パーティじゃなくなっても、一緒に冒険しなくなっても友達ではいられる。
「うん。」
それなら、寂しいけど。
少しくらいなら、我慢できるかもしれない。
その後、もう少し詳しく話をした。
セリーちゃんは気付いたうえで今日まで黙っていたみたい。
「それなら言ってくれれば良かったのに。」
「言ったらアイラちゃん、私とパーティ組んでくれた?」
「……。」
多分、組んでない。
自分の実力を見抜かれていると知った時点で警戒していたと思う。
「ほら。」
「うぅ……。」
何も言い返せなかった。
最初に友達へ内緒を作ったのは私。
でもセリーちゃんも、私に気付いていることを内緒にしていた。
だから、お互い様ということにした。
うん。こうしてちゃんと話してみると、パーティ解消のことも少しずつ納得できてきた。
多分、『アイラ』が一番引っ掛かっていたのは、お友達が減ってしまうと思ったことなんだ。
でもセリーちゃんは、『ずっと友達。』そう言ってくれた。
その言葉を信じられると思った。
「セリーちゃんはこれからどうするの?」
「まだしばらくは、この街で冒険者を続けるつもりだよ。」
「そうなんだ。」
てっきり港町アクエリアスへ帰ると思っていたから少し意外だった。
昨日あんな目に遭ったばかりなのに。
それでも冒険者を続けるつもりなんだ。
やっぱり強い子だと思う。
「しばらく騎士団の事情聴取とかもあるんだって。」
「あぁ……。」
確かに。あのペドラーたちの裁判が終わるまでは、しばらく事件に付き合うことになりそうだ。
被害者なのに自由に動けないのは少し腹が立つ。
でも、まだ見つかっていない行方不明者もいる。
セリーちゃんの証言で助かる人がいるかもしれないなら、捜査への協力は仕方ないことなのかもしれない。
「アイラちゃんは?」
「私はサモナーになるために、いろんな街に行ってみるつもり。」
「ふふっ。」
「何?」
「『目指す』じゃなくて、『なるために』なんだなって。」
「あ。」
セリーちゃんは愉快そうに笑った。
確かに。
私みたいな新米冒険者なら普通は、『いつかサモナーになりたい。』くらいに言うところなのかもしれない。
でも、なることを前提に話している。これは常識的に考えたら、ちょっと変だったかも。
「アイラちゃんならなれるよ。」
「ありがとう。」
「というか……。」
セリーちゃんが少し考え込む。
「正直、普通の二次職の人より強い気がするもん。」
「そんなはずないよ。」
あまりにも突拍子もない発言に、思わず笑ってしまった。
それはさすがに買い被りすぎというものだ。
この間見たクレスの強さなんて、とてもじゃないけど太刀打ちできそうになかった。
「そうかなぁ?」
セリーちゃんは納得していない様子で首を傾げている。
私の見立てでは、セリーちゃんはレベル三十前後といったところ。
多分、私との差がありすぎて実力を正確に測れていないだけだろう。
「もう、セリーちゃんは私を買い被りすぎ。」
「絶対強いと思うんだけどなぁ。」
「はいはい。」
笑いながら果実水をもう一口飲む。
……まさか本当に、この世界の冒険者の平均レベルが私の想像よりずっと低いなんてこと、ないよね?




