力の方向⑩
『ライト』も消した部屋で、ベッドに寝転がりながら窓の外の星を眺めていた。
今日はいろんなことがありすぎた。
だけど、そのおかげで今後どうするべきかも少し見えてきた気がする。
「今後の具体的な目標を決めよう。」
まずは『サモナー』を最短で目指す。
実力は十分に備わっている。
今の私に足りないのは名声だ。
二次職になるためには、ただ強いだけじゃ駄目。
冒険者として実績を積んで、いろんな人から認められる必要がある。
そのためには魔導都市レオだけじゃなくて、いろんな街で活躍しないといけない。
「そうなったら、この街ともしばらくお別れかぁ。」
少し寂しくなった。
新しく知り合った、大好きな人たちがいる街。
できればもっと長く滞在していたい。
だけど、誰かを守れるくらい強くなるためには、ここにずっといるわけにもいかない。
「ネネさんと、ルカさん。それにセリーちゃん。」
初めて仲良くなった宿屋の女将さん。
娘のように可愛がってくれる強面の商人さん。
サジタリウスの外で初めてできた友達。
分かってる。
冒険者になった以上、ずっと一緒にはいられない。
それでも、やっぱり寂しい。
「まだ出会ってから一週間ちょっとしか経ってないのにね。」
思わず小さく笑ってしまう。
本当に良い人ばかりだ。
もちろん、ペドラーたちのような悪い人もいる。
だけど、それはごく一部の話。
こんなに命が安い世界でも、人々は毎日を懸命に生きている。
笑って、ご飯を食べて、誰かを好きになって。
誰かのことを心配して。
そんな当たり前の生活をしている。
「私の手が届くところにいる人くらい、守れるようになりたいもんね。」
改めて、この世界の正史を思い返す。
魔王の出現。
国家間の摩擦。
世界各地に散らばるネームドたち。
これから先、世界は何度も脅威に曝されて、そのたびにたくさんの人が苦しむことになる。
ゲームだった頃は、画面の向こう側で起きていた出来事だった。
被害者が何人出ても、それは設定上の数字でしかない。
「ゲームでは淡泊な内容だったとしても……。」
今は違う。
そこには今日みたいに泣く人がいる。
誰かがいなくなれば心配する人がいて。
助かれば喜ぶ人がいる。
「そこで生きてる人がいるから……。」
《Storage》
GM専用倉庫からレーヴァテインを取り出す。
赤い刀身を見つめながら、その柄をギュッと握った。
私には力がある。
普通ならできないことができる力。
だからといって、何でもできるなんて思わない。
今日だって、あと少し遅ければ取り返しのつかないことになっていた。それでも、
「私はこの力を、自分が正しいと思えることに使いたい。」
世界を救いたいなんて大それたことは言わない。
英雄になりたいわけでもない。
ただ目の前で大切な人が困っていたら助けたい。
手を伸ばせば届く命なら、できるだけ取りこぼしたくない。
あ、でもちゃんと『いのちだいじに』は崩さないように。
万が一のことがあって、大切な人たちを悲しませたくないからね。
ちゃんと考えて。
できるだけ安全に。
それでも必要な時には、この力を使う。
「うん。それでいこう。」
少しだけ気持ちが軽くなった。
レーヴァテインをGM専用倉庫に戻して、もう一度《Storage》と唱える。
「くぁ……。」
大きな欠伸が出た。
今日は疲れた。
本当にいろんなことがありすぎた一日だったと思う。
セリーちゃんが攫われて、助けに行って。
人を殺しそうになって。
クレスたちが現れて。
ネネさんにも心配をかけて。
それでも最後には、セリーちゃんと一緒にクッキーを食べて笑うことができた。
「……。」
今日はもう寝よう。
明日からまた頑張ればいい。
まずはサモナーを目指す。
そして、もっと強くなる。
今度こそ、大切な人をちゃんと守れるように。
体中の力を抜いて瞼を閉じる。
いろんな人の顔を思い浮かべながら、私はそのまま夢の中へと誘われていった。




