力の方向⑦
街中に着くと、そのまま騎士館の方へ向かう。
《HidePC》はまだ解除しない。
「ちょっと様子を見てから、ね。」
魔導都市レオの騎士館は街の北東にある。
保護されたセリーちゃんが連れていかれるなら、そこだろう。
騎士館に着くと、建物の前でさっきの騎士団員たちが何か相談をしていた。
クレスと数名の騎士。
それからセリーちゃんと、彼女の肩を抱いていた女性騎士の姿は見えない。
少し離れたところから話を聞いていると、クレスたちは捕らえた犯罪者を地下牢へ連れていったらしい。
セリーちゃんは女性騎士に付き添われ、建物の中で着替えているようだ。
捕まった犯罪者たちに用はない。
セリーちゃんの様子を確認するため、『レヴィテーション』で体を浮かせる。
閉まっている扉を勝手に開けるわけにはいかないからね。
二階は宿舎になっているらしい。
いくつか並んだ窓の中。
カーテンが半開きになっている部屋にセリーちゃんを見つけた。
ちなみに、半開きになったカーテンの隙間から覗き込んで、ようやく見える程度なので安心するように。
部屋の中では『カート』を出して、着替えを取り出している。
女性騎士も部屋の入り口で外の様子を窺いながら、セリーちゃんと何か話しているようだ。
外からでは何を話しているのかまでは聞こえない。
だけど、セリーちゃんの顔には笑顔が浮かんでいた。
「大丈夫そうで、良かった。」
ようやく心の底から安心できた気がする。
私はホッと胸を撫で下ろすと、これ以上覗くのはさすがに良くないと思い、地面へ降りた。
入り口の方まで戻ると、ちょうどクレスも帰ってきていた。
集まった騎士団員たちに向かって何か話している。
「皆、お疲れ様。今回、ようやく追い続けてきた犯罪組織を捕らえることができた。」
なるほど。
クレスはこれが目的で魔導都市レオまで来ていたってことか。
確かに侯爵家の長男ともなれば、次代の騎士団を担う存在だ。
実力もあるし、重要な任務を与えられていても不思議じゃない。
「今日はゆっくり休んでくれ。それと、第一調査隊は引き続き私とともに行動を続ける。以上、解散!」
クレスの言葉を受けて、数名を残した騎士団員たちが解散していく。
「う~ん……。」
十二歳の指揮官にしては、凄い統率が取れている。
血筋だけじゃない。
クレス自身が騎士団員たちから信頼されている証なんだろうな。
それにしても。
第一調査隊を残して、まだ何かあるのかな?
「保護した女性を無事に宿まで送り届けたら、もう一人の行方不明になっている女性を探しに行くぞ。」
え、行方不明の子がまだいるの?
「特徴は銀髪に赤い瞳。背が低いウィザードで、名前は『アイラ』というらしい。」
「は?」
思考が止まった。
誰が行方不明になってるって?
私?
「どうしてそんなことに……?」
私の疑問に答えるように、クレスは続ける。
「その女性が泊まっていた宿の女将からの証言だ。セリーさんを探しに行った後、行方が分からないらしい。」
「あ。」
そうだった。
宿を飛び出してから、ネネさんに何も言ってない。
セリーちゃんを探すことしか頭になくて、そのまま《HidePC》を使って街を飛び出してしまった。
帰ってこない私を心配して捜索を頼んだとしても、何もおかしくない。
「何事もなければそれでよし。事件に巻き込まれているなら助けなくては。」
「……。」
私は頭を抱えて、その場に縮こまる。
ややこしいことになってしまった。
これまで散々クレスとの接触を避けてきたのに、全部台無しだ。
こうなった以上、クレスは私を見つけるまで探し続けるだろう。
いっそのこと、このまま別の街に――。
――いや、ダメだ。
そんなことをしたらセリーちゃんも、ネネさんも、ルカさんもすごく心配する。
私一人が逃げれば済む話じゃない。
早めに見つかって、無事だと知らせる必要がありそうだ。
まずは宿に戻ろう。
ネネさんにちゃんと無事な姿を見せないと。
クレスたちが動き出すまで、おそらくそんなに時間はない。
「急がなきゃ!」
私は走ってその場を離れ、人通りのない路地裏へ潜り込む。
《Storage》を開いてレーヴァテインとギャラルホルンを仕舞い、《HidePC》を解除した。
「まずいことになった!」
急いでネネさんの宿まで走った。
宿に着くまでに作戦は決めた。
セリーちゃんが見つかったと聞いて、急いで帰ってきたことにする。
今どこにいるのかネネさんに聞く。
あとは自分に捜索依頼が出されていることを聞いて、さも驚いたように振る舞えばいい。
嘘は苦手だけど、これくらいならできるだろう。
「ネネさん!」
勢いよく宿に飛び込む。
私の姿を見た瞬間、ネネさんが持っていた箒を落とした。
「アイラ!」
そのまま凄い勢いで駆け寄ってくる。
「あんた何処に行ってたんだい! 心配したんだよ!!」
「わぷっ。」
言い訳をする暇もなかった。
凄い力で抱きしめられる。
「セリーちゃんを探しに行って、それで……。」
驚きながらも、何とかそれだけ答える。
「……無事で良かった。」
ネネさんは全然離してくれない。
考えていた言い訳も。
この後どう誤魔化すかも。
今はどうでもよくなった。
本当に心配してくれていたんだ。
それが、抱きしめる腕の強さだけで伝わってくる。
「うん。大丈夫、だよ。」
心配させてしまったことが申し訳なくて。
私もネネさんの服をギュッと掴んだ。
これ以上、誰かを心配させないためにも、いつまでも弱いふりをし続けることはできないと考え始めていた。




