力の方向⑤
EP72~74に誤りがあったので編集しております。
もし話の前後がおかしいと思ったら、一度ご確認くださいませ。
叩きつけるような殴り方ではなく、殴りつけるような叩き方。
これでも当たり所が悪ければ死ぬこともあるだろうが、これが『私』と『アイラ』の妥協点だった。
部下の男は勢いよくセリーちゃんの前に倒れ込む。
「……んん?」
「おい、どうした……?」
セリーちゃんも男たちも、何が起こったのか分からずに固まる。
この間は正直、私にとってもありがたい。
今は少しでも落ち着きたい状況だ。
私の中の『アイラ』が理性を失わないよう、必死に宥める。
ほんの少しの刺激で爆発しかねないだけに、こちらも気が気ではない。
でも、男の頭がセリーちゃんの足の上に乗っているのが許せないのは共通見解だった。
部下の男の首根っこを掴み、反対側へ放り投げる。
「おい、気を付けろ。何かいるぞ! 『ライト』しろ!!」
ペドラーが異常に気付き、すぐにウィザードへ『ライト』の使用を指示した。
慌ててウィザードが『ライト』を使用する。
だけど、何も引っかからない。
当然だ。
《HidePC》を発見できるはずがない。
――検証したのは初めてだけど。
男たちは困惑しながら周囲を警戒している。
突然倒れた仲間が、見えない何かに首根っこを掴まれて放り投げられた。
誰かがいるのは間違いない。
それなのに『ライト』には何も引っかからない。
その不気味さに、空気がより一層重くなった。
とは言っても、無駄なんだけどね。
この状況の圧倒的な優位性のおかげか、『アイラ』の部分も少しずつ落ち着きを取り戻し始めている。
多分、ここにいる全員が誘拐事件に関わっている犯罪組織の人間。
若い女の子を攫い、売り捌き、セリーちゃんに乱暴しようとした最低のクズたち。
だから、こいつらは絶対に許さない。
逃がさない。
ローグみたいに『スリープ』で眠らせることもできた。
だけど、それだけで済ませる気にはなれなかった。
「こいつらは一発ずつ殴らないと気が済まないよね?」
誰にも聞こえていない。
小さな声で呟いた。
「出て来いよ、臆病者が!」
「ここから逃げられると思ってるのか!?」
何かを喚き散らしているが、ゴブリンの威嚇行為くらいにしか感じられなかった。
まだギリギリ人間として認識しているけど、もうワンランク下がったらモンスター扱いしてしまうかもしれない。
余計なことをされる前に、さっさとどついていった方がいい。
近くにいた男へレーヴァテインをスイングした。
「がっ!」
刃ではなく、レーヴァテインの腹を鈍器代わりにして殴りつける。
殴られた男は三回転半して、地面とキスをした。
突然のことにギョッとする男たちを無視して、近くにいる人間を次々と殴りつけていく。
「ぐえ!」
「ぎゃあ!」
「うあっ!」
全員仲良く地面とキスさせてやった。
その時、突然ペドラーとプリーストの間にある地面が青白く輝いた。
どうやら『ポータル』を使って逃げるつもりらしい。
「馬鹿だなぁ、逃がすわけないでしょ。」
許さないし、逃がさない。
そう決めた相手だ。
「『アンチマジックフィールド』。」
洞穴全体が黄色い光に包まれる。
サモナースキル『アンチマジックフィールド』。
地面に効果を及ぼす魔法を全て無効化するスキル。
その効果で打ち消された『ポータル』が消滅した。
悪いけど、こっちは前世で対人戦も散々やってるんだよね。
「なんだよ、これ……。」
「てめぇ、サモナーか!?」
ペドラーは意外にも冷静だった。
これがサモナーのスキルであることを、すぐに察したようだ。
『ポータル』を消されても慌てず、ウェストポーチから何かを取り出した。
どこまでも往生際が悪い。
スキル『リターン』を使用できる消耗アイテム『帰還の羽』。
その効果は、近くの街への転送。
魔導都市レオに逃げるつもりだ。
「ボス、俺たちを置いて逃げるんですか!?」
「すまんな!」
あまつさえ部下まで見捨てようとしていたのか。
本当に救いようのない人間だ。
「『マジックブレイカー』!」
――逃がすわけがない。
『マジックブレイカー』は、魔法スキルが発動するまでのわずかな時間に使用することで、その発動を妨害するスキル。
『リターン』が発動する直前に効果を打ち消され、『帰還の羽』はそのまま崩れ落ちた。
ペドラーが驚愕の表情を浮かべて固まる。
もう十分、絶望は与えられただろう。
何をしても通じない。
逃げることすらできない。
こいつらには、この先の人生を絶望と後悔の中で過ごしてほしい。
また逃げようとされても面倒なので、そのまま残っている全員を一気に気絶させた。
今はセリーちゃん以外の全員が足元に転がっている。
私は《HidePC》状態のまま、セリーちゃんの拘束と猿轡を外してあげた。
「いったい、何が……?」
事態を飲み込めず困惑するセリーちゃんをよそに、私は彼女の格好を見る。
ズタズタに引き裂かれた可愛いマーチャント服。
懸命に隠してはいるものの、隙間から下着が覗いてしまっている。
「っ。」
心の傷も、服のダメージも、治してくれるスキルなんて存在しない。
私がもっと早くここに来ていたら。
そんな後悔ばかりが募る。
《CreateItem Novice_Cape》
せめて肌を隠せるように、GMコマンドで初心者用のケープを生み出した。
それをセリーちゃんの後ろからそっと掛け、前をキュッと結ぶ。
「あ、ありがとうございます……?」
まだ震えている。
安心させたくて、私はセリーちゃんをギュッと抱きしめた。
「あっ……。」
もう大丈夫だよ。
助けるのが遅くなって、ごめんね。
声には出せない。
私は唇を噛みしめながら、友達を抱きしめ続けた。




