力の方向④
こちらも併せて編集しました。
読んでくださった方、大変申し訳ございません。
「あの貴族の銀髪チビのほうが高く売れそうだったが、こっちも悪くないな。」
貴族の銀髪チビ……?
空間の奥にある牢屋の前で、誰かが話しているのが聞こえた。
声の主を見る。
横顔しか見えないが、間違いない。
街で私に話しかけてきた、あのペドラーだった。
「やっぱり、犯罪者だったんだ……っ。」
見ず知らずの人間に突然触れてくる不躾さ。
あのどこか不審な視線。
あの時感じた違和感は間違っていなかったんだ。
「あぁ、ボスの言う通りだぜ。」
その言葉に呼応するように、周りの男たちがいやらしい笑い声を上げる。
どいつもこいつも、まともじゃない。
前世を含めても犯罪組織の人間なんて初めて見たけど、漂っている空気が明らかに異質だった。
「この間のパーティの女も悪くなかったけど、俺はこういう子の方が好みだなぁ。」
この間のパーティ……?
「……お前の趣味嗜好はどうでもいいが、確かに最近は頑張っているしな。壊さない程度になら遊んでもいい。」
タバコに火を付けながら、ペドラーが何でもないことのように返す。
「さすがボス~! 話が分かるっス!」
何の、話をしているの?
凄く嫌な予感がする。
私は様子を見るため、もう少しだけ身を乗り出して奥を覗き込んだ。
「というわけで、お嬢ちゃん。運が悪かったと思って諦めてくれ。」
「んん! んんん~!!」
女の子の絶叫が聞こえた。
口に何かを付けられているのか、上手く喋れていない。
くぐもった声が洞穴一帯に響き渡った。
ビリビリビリッ!
何かを破く音が聞こえる。
「できるだけ泣き叫んでくれると嬉しいな♪」
さも愉快そうに、男は笑っていた。
何の、話をしてるの?
思考が上手く回らない。
こいつらは何をしているの?
「おら、暴れんなって。」
男たちは笑っている。
地面に転がされている女の子を見ながら、楽しそうに笑っている。
何が起きているのか理解したくなくて。
それでも確かめなければならなくて。
私はさらに近付き、その女の子の顔を確認する。
茶色のボブカット。
見慣れた顔。
「――っ。」
セリーちゃんだった。
友達が服を破かれ、地面に組み伏せられている。
それを見て笑う男たち。
必死に抵抗するセリーちゃん。
泣き叫ぶ声だけが、妙に耳の奥で木霊する。
頭の中が真っ白になった。
次の瞬間、カーッと全身が熱くなる。
「んんん!! ん~~~っ!」
「ははは、どうした? 逃げなくていいのか?」
――殺してやる。
こいつら、全員殺してやる!!
レーヴァテインを握る手に、今までで一番強く力が入った。
今まさにセリーちゃんを襲おうとしている男を殺す。
ただそれだけを考えて、レーヴァテインを振り上げた。
――落ち着け、『アイラ』!!
『私』が何度も何度も語り掛ける。
記憶を取り戻したあの日から、『私』と『アイラ』は一つだった。
同じ魂。
同じ思考。
同じ感情。
二人とも同一人物なのだと、ずっとそう思っていた。
だけど今だけは違う。
完全に二つの感情が反発し合っていた。
大切な友達を傷つける目の前の男を、今すぐ殺したい『アイラ』。
それを必死に止めようとする『私』。
分かってる。
許せない。
大切な友達をこんな目に遭わせた。
殺しても殺し足りないほど憎い。
こんな奴ら、生かしておく必要なんてあるのか。
『私』だって、そう思う。
だけど――。
一度殺せば、きっと次からは違う。
大事な場面で、人を殺すことが選択肢に入る。
今回だって仕方なかった。
次も仕方なかった。
その次だって――。
そうやって人を殺すことに慣れてしまったら、きっともう戻れない。
大好きなパパとママに。
人を殺したこの手で抱き着くの?
「……っ!」
振り上げたレーヴァテインを、寸前で止める。
刃を返した。
ゴン!
「がっ――!?」
柄の部分で、セリーちゃんを押さえつけていた男の頭を思い切り殴りつけた。




