アイラが見る夢⑥
◇
お昼過ぎ。
ママは市場へ露店を出しに出かけていった。
私は町のベンチに腰掛け、昨日の続きを考えていた。
「私が冒険者になるには、いくつか乗り越えなきゃいけないことがあるよね。」
まずは、パパとママの説得だ。
なりたい職業に就くことを親が止める権利はない。
だけど、どうせなら二人にも納得して送り出してほしい。
「心配しないで、なんて無理だよね……。」
この世界の人間は、魔力や生活環境の影響なのか寿命が長い。
老衰で亡くなるのは二百歳前後。
賢者クラスともなれば、千歳近くまで生きる者もいるらしい。
二百歳まで生きる人でも、百六十歳くらいまでは冒険者として全盛期を維持できるという。
それほど寿命が長いにもかかわらず人口が爆発的に増えないのは、モンスターや賊によって命を落とす人があまりにも多いからだ。
この世界では、モンスターや賊に殺されることは決して珍しくない。
人間の死因第一位は、病気でも飢餓でもない。
――殺害。
「そんな世界で、一番危険な職業に就きたいなんて言ったら、パパは気絶するかもね……」
冒険はしたい。
だけど、痛い思いや苦しい思いは、できるだけしたくない。
「うーん……。」
私は自分の小さな手のひらを見つめた。
……昨日も思ったけど、本当に小さい。
魔力量も少なく、体格にも恵まれていない。
冒険者としては、不利な条件ばかりだ。
何の準備もなく冒険者になれば、あっという間に命を落とすだろう。
少しでも安全に冒険する方法はないだろうか。
そう考えながら町を眺めていると、不意にベンチの前を歩く冒険者たちが目に入った。
まだ昼過ぎ。
大半の冒険者は町の外へ出ている時間だから、人影はまばらだ。
私は一人ひとりを注意深く観察していく。
一人、二人、三人、四人……十人。
見える範囲の冒険者を見終えた私は、一つの共通点に気付いた。
「やっぱり……一次職しかいない。」
そういえば、パパはハンター、ママはマーチャント。
二人とも一次職だ。
思い返してみても、この世界で二次職を見た記憶はほとんどない。
昨日、私を助けてくれたハイプリースト様。
あの人は二次職だった。
つまり、この町では二次職そのものが珍しい存在なのかもしれない。
……だとしたら。
「もしかして、私の前世の知識って役に立つ?」
前世の私は『ネームレスオンライン』の運営だった。
ゲームの仕様も、効率的な育成方法も、安全な立ち回りも知っている。
他の人より効率よく、そして少しでも安全に強くなれるかもしれない。
――これは、一筋の希望が見えてきたかもしれない。
「それで、どうやったら強くなれるんだろう?」
もしゲームと同じようにレベルアップできるなら――。
「私、パワーレベリングいっぱい知ってるもんね!」
ゲームバランス的には少々問題があるものの、運営としてぎりぎり黙認していた数々の『ライフハック』。
もしこの知識が本当に使えるなら――。
「……っと、いけないいけない。」
私は頭を軽く振った。
理性のある大人なんだから、少し落ち着こう。
「だけど、これは……ふ、ふふ……。」
それでも、にやける顔を抑えられない。
レベルアップだけじゃない。
効率的なアイテム収集。
攻略に必要な装備。
未来に起こる事件への先回り。
前世の知識が本物なら、あらゆる場面で有利に立ち回れる。
そうなれば、この世界を思い切り冒険したいという夢も――。
「アイラちゃん、ずいぶんご機嫌だねぇ。」
突然、聞き慣れた声を掛けられ、私はビクッと肩を震わせた。
「あ、おじさん。こんにちはぁ……。」
近所のおじさんに、一人でにやにやしているところを見られてしまった。
……かなり恥ずかしい。
これから妄想に浸る時は、せめて人のいない場所でやろう。
紅潮する頬を両手で隠してベンチから立ちあがり、そそくさとその場から逃げた。




