アイラが見る夢⑥
お昼過ぎにママは市場へ露店を出しに出かけていった。
私は町のベンチに腰掛け、昨日の続きを考えていた。
「私が冒険者になるには、いくつか乗り越えなきゃいけないことがあるよね。」
まずは、パパとママの説得だ。
なりたい冒険者になることを親が止める権利はない。
だけど、どうせなら二人にも納得して送り出してほしい。
「心配しないで、なんて無理だよね……。」
この世界の人間は、魔力や生活環境の影響なのか寿命が長い。
一般的な人間でも老衰で亡くなるのは二百歳前後。
魔力量の多い賢者クラスともなれば、千歳近くまで生きる者もいるらしい。
そして二百歳まで生きる人なら、百二十歳前後でも冒険者として全盛期にあるという。
前世の感覚からすれば、とんでもない長寿だ。
それほど寿命が長いにもかかわらず、人口が爆発的に増えないのには理由がある。
モンスターや賊によって命を落とす人が、あまりにも多いからだ。
この世界では、モンスターや賊に殺されることさえ決して珍しくない。
死因なんて殺害に病気に飢餓と無数に存在した。
「そんな世界で、一番危険な職業に就きたいなんて言ったら、パパは気絶するかもね……。」
今朝だって、仕事へ行く時間になっても私のそばに残ろうとしていたくらいだ。
十二歳になった私が冒険者になると言い出したら、どんな顔をするのだろう。
冒険はしたいけど、痛い思いや苦しい思いは、できるだけしたくない。
「うーん……。」
私は自分の小さな手のひらを見つめた。
……昨日も思ったけど、本当に小さい。
一般的な同世代と比較して魔力量も少なく、体格にも恵まれていない。
冒険者としては、不利な条件ばかりだ。
何の準備もなく冒険者になれば、あっという間に命を落とすだろう。
そんな私が少しでも安全に冒険する方法はないだろうか。
そう考えながら町を眺めていると、不意にベンチの前を歩く冒険者たちが目に入った。
まだ昼過ぎなので大半の冒険者は町の外へ出ている時間で人影はまばらだ。
私はベンチへ座ったまま冒険者を一人ずつ注意深く観察していく。
一人、二人、三人、四人……十人。
見える範囲の冒険者を見終えた私は一つの共通点に気付いた。
「やっぱり……一次職しかいない。」
そういえばパパはハンター、ママはマーチャント。二人とも一次職だ。
思い返してみても、この世界で二次職を見た記憶はほとんどない。
昨日、私を助けてくれたハイプリースト様。あの人は二次職だった。
つまり、この町では二次職そのものが珍しい存在なのかもしれない。
……だとしたら、もしかして私の前世の知識って役に立つ?
前世の私は『ネームレスオンライン』の運営だった。
ゲームの仕様も、効率的な育成方法も、安全な立ち回りも知っている。
この世界がゲームと同じ仕組みで動いているなら、他の人より効率よく、そして少しでも安全に強くなれるかもしれない。
一筋の希望が見えてきた気がする。
「それで、どうやったら強くなれるんだろう?」
もしゲームと同じようにレベルアップできるなら――。
「私、パワーレベリングいっぱい知ってるもんね!」
ゲームバランス的には少々問題があるものの、運営としてぎりぎり黙認していた数々の『ライフハック』。
普通に遊んでいるだけでは気付きにくい効率的な経験値の稼ぎ方も、運営側にいた私はいくつも知っている。
もしこの知識が本当に使えるなら――。
「……っと、いけないいけない。」
私は頭を軽く振った。
理性のある大人なんだから、少し落ち着こう。
まだこの世界がゲームと全く同じ仕組みで動いていると確認できたわけじゃない。
「だけど、これは……ふ、ふふ……。」
それでも、にやける顔を抑えられない。
レベルアップだけじゃなく効率的なアイテム収集と攻略に必要な装備。
未来に起こる事件への先回り。
前世の知識が本物なら、あらゆる場面で有利に立ち回れる。
そうなれば、この世界を思い切り冒険したいという夢も――。
「アイラちゃん、ずいぶんご機嫌だねぇ。」
突然、聞き慣れた声を掛けられ、私はビクッと肩を震わせた。
「あ、おじさん。こんにちはぁ……。」
近所のおじさんに、一人でにやにやしているところを見られてしまった。
……かなり恥ずかしい。
さっきまで頭の中で壮大な冒険を思い描いていたのに、一瞬で現実へ引き戻された。
これから妄想に浸る時は、せめて人のいない場所でやろう。
紅潮する頬を両手で隠してベンチから立ち上がり、私はそそくさとその場から逃げた。




