アイラが見る夢⑤
「アイラ、朝だよ。」
パパの優しい声が聞こえてくる。
まだ空が朝焼けに染まり始めた頃、私はゆっくりと目を覚ました。
すでにママは朝食の支度を始めていて、パパも髭を剃り終えている。
「……んぅ~。」
私は昔から朝が弱く、いつもパパに起こされていた。
昨日あれだけのことがあったというのに、一晩ぐっすり眠ったせいか体に変なところはないけど眠いものは眠い。
もぞもぞとベッドから降りると靴を履いた。
そのままふらふらした足取りで家を出て十メートルほど離れた井戸へ向かう。
「アイラちゃん、おはよう。」
朝の井戸端には近所の人たちが集まり、水を汲みながら世間話をしていた。
「おはよぉございまふ。」
寝起きで目も半分しか開いておらず、舌足らずな私を見て、みんながくすりと笑う。
笑われたけど今の私の姿を考えれば仕方ないか。
汲みたての井戸水を少し分けてもらい、顔と手を洗う。
「ひゃっ。」
春先の井戸水は驚くほど冷たい。
一気に眠気が吹き飛び、半分しか開いていなかった目もようやく覚めてきた。
「ありがとうございます。」
井戸水を分けてくれた人へお礼を言い、家へ戻るとテーブルには、すでに朝食が並んでいた。
サラダに目玉焼き、干し肉、それにポテトのスープ。
いつもの朝食よりずっと豪華なのにパパとママは何も言わない。
だけど昨日のことを心配して、少しでも栄養のあるものを食べさせようとしてくれたのが丸わかりだ。
その気持ちが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
「いただきます。」
「まだ熱いから気をつけてね。」
「足りなかったら言うんだぞ。」
二人とも、昨日からずっと私のことを凄く心配してくれている。
――愛されてるなぁ。
そう思ったら自然と笑顔になった。
前世の記憶を取り戻したおかげか、温かい朝食を食べながら、こうして三人で同じ時間を過ごせることが本当に幸せに感じる。
昨日の事故で命を落としかけたから余計にそう思うのかもしれない。
「もう頭は痛くないか?」
朝食を食べ終えると、パパとママが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「うん。もう大丈夫。」
そう言って小さく笑ってみせると、二人はようやく肩の力を抜いた。
「よかった。……傷も残ってないみたいね。」
ママが私の頭を確認した後、胸に手を当てて小さく呟く。
その表情を見ていると、昨日どれだけ心配をかけてしまったのか改めて分かった。
しばらく三人で話していると、ママが窓の外へ目を向ける。
「あなた、そろそろ仕事へ行かないと。」
「……もう少しだけ。」
「駄目です。」
ぴしゃりと言われ、パパは目に見えて肩を落とした。
本当は、まだ私のそばにいたいのが丸わかり。
その様子が何だか可愛くて、私は思わず笑ってしまう。
椅子から降りるとパパのところへ駆け寄り、そのままぎゅっと抱きついた。
「おっと、どうしたんだ?」
パパは私の頭を優しく撫でながら、穏やかに微笑む。
「パパ、行ってらっしゃい!」
「……っ!」
一瞬目を丸くしたパパは、すぐに照れくさそうに笑った。
「ああ! 行ってくる!」
狩り道具一式を抱えてそそくさと出て行ったパパを家の前まで見送ると手を振った。
パパも何度か振り返って私たちへ手を振ると、いつもより少し足取りを軽くして仕事へ向かっていった。
その後ろ姿が見えなくなると、私は家の中へ戻る。
「ママ!」
今度はママのところへ駆け寄って抱きついた。
「あらあら、私も?」
ママはくしゃっと笑って私を見つめる。
「いつも美味しいご飯、ありがとう。」
えへへ、と笑う。
するとママは顔を真っ赤にして、私をぎゅっと抱き締めた。
「もう、この子ったら……。」
照れ隠しのようにそう呟くママの腕は、とても温かかった。
その温もりに包まれながら、私も小さな腕をママの背中へ回す。
今日もきっと、素敵な一日になる。




