新しい街、新しい出会い⑦
その点では、今日はかなり収穫があったと思う。
私のことが一部の冒険者に噂になっていたことも分かった。
モンスターの素材以上の収穫があったことに満足する。
もう十分ほど歩けば出口かというところまで来ていた。
「きゃあ!」
自分のいる場所からそう遠くない横道の先で、その悲鳴は聞こえた。
「このっ!」
叫び声とともに武器を振る音と激しく動く音、それに「ポィ!」という鳴き声が聞こえてくる。
無視することもできたけど、その余裕の無さそうな戦闘音がどうしても気になった。
近くには残念なことに私しかいない。
「仕方ないよね。」
私は意を決して、音がする方へ走り出した。
明かりを頼りに進むと、すぐに戦闘している場所までたどり着いた。
手斧を持った若いマーチャントの女性が、ポイズンマルムと一人で戦っている。
ポイズンマルムは戦闘力で言えばゴブリンよりも下だけど、毒を持っている危険なモンスターだ。
もし先ほどの悲鳴を上げた時に攻撃を受けていたなら、一刻を争う。
でも、すぐには助けない。
「助太刀は必要!?」
私はマーチャントに向かって叫んだ。
こういった場面でも、勝手に手を貸せばトラブルになる可能性がある。
交戦中の冒険者に横やりを入れて、素材の分け前だけ要求するような人もいるからだ。
「お願いします!」
彼女は息を切らしながらそう返した。
本当に助けを求めている。
それを聞いて素早く魔力を溜める。
「『アースニードル』!」
地面から飛び出した鋭い岩が、ポイズンマルムの体を貫く。
体に大穴が空いたポイズンマルムはそのまま活動を停止した。
「……っ。」
「大丈夫ですか!?」
緊張が解けたのか、その場に倒れ込むマーチャントへ走って近づく。
抱き起こすと顔色が悪く、息も荒い。
明らかに毒を受けている。
――ここに来る冒険者なら多分、持っているはず。
申し訳ないとは思いつつ、一刻を争う。
私はマーチャントの大きなリュックを開いて中を探した。
比較的荷物の上の方に、目的の物はあった。
「これだ。」
緑色の液体が入った瓶。
取り出して封を開けると、マーチャントの口に少しずつ流し込んだ。
液体は体に吸収され、マーチャントの全身が緑色の光に包まれる。
光が収束するとともに、悪かった顔色も徐々に戻っていった。
「よかった……。」
ホッと胸を撫で下ろす。
かなりの毒に全身を蝕まれていたのだろう。
しばらくは意識が戻らないかもしれない。
このまま放置すれば、またモンスターに襲われてしまう可能性もある。
「仕方ない。起きるまで待ってようかな。」
ちょうどお腹も空いてきたところだ。
私はお昼ご飯を食べながら、彼女が目を覚ますのを待つことにした。
サンドイッチを食べ終わる頃。
「うぅん……。」
マーチャントの意識が戻ったようだ。
倒れてから十五分くらい。
幸い、その間にモンスターには見つからずに済んだ。
「あ、気が付いた?」
今はマーチャントの女の子に膝枕をしている状態なので、顔が近い。
ごつごつした地面の上に頭を置くのも嫌だろうし、急場の対応だった。
「……ほぇ?」
気の抜けた返事をされて、目と目が合う。
そのまま数秒、固まった状態でこちらを見つめ返してくる。
「?」
どこか具合が悪いのだろうか。
私は疑問に思い、そっと額に手を当てた。
うん、熱はない。
「ひぇぇぇぇぇぇ!? な、なんで?」
マーチャントは飛び起きると、おかしなポーズを取ったまま周りをキョロキョロし始める。
確かにさっきは危険な状態だった。
もしかしたら倒れる前の記憶が無いのかもしれない。
「どうして『天使様』がここに!?」
前言撤回。
倒れる前に頭がおかしくなったのかもしれない。
私はさっきまでの状況を全部説明した。
いきなり天使様扱いされたから頭がおかしくなったのかと思ったけど、話はちゃんとできた。
「いえ……天使様というのは、そういう意味じゃなくて、その、街中で見かけて……綺麗な子だなって……。」
何かゴニョゴニョ言っていたけど、私には聞こえないくらいの声だったし、話がややこしくなりそうだったので流した。
「いやー、本当に危ないところを助けてくださってありがとうございました。」
「いえいえ、助けられてよかったです。」
話を聞くと、どうやら暗がりから出てきたポイズンマルムに気付かず体当たりを受けてしまい、その際に毒を受けたらしい。
そのまま意識が朦朧とした状態で戦っていたところを、私が通りかかったということだった。
話を聞けば聞くほど、本当に危なかった。
ゲームならただの状態異常でも、現実で毒を受ければ正常な判断が難しくなるし、動きだって鈍るよね。
「あ、命の恩人に申し遅れました。私、『セリー』って言います!」
「私はアイラ。よろしくお願いします。」
笑いかけると「ふぉぉ」とか不審な声を上げている。
うん、面白いし危険は感じないけど、何か変な人なのかもしれない。
「あと、手荷物の『キュアポーション』、勝手に使っちゃった。ごめんなさい。」
「ああ、いえいえ。こういう時のために持ってきたものなので、使ってくださって助かりました。」
そう言ってもらえると助かる。
「私はもうレオに帰るけど、セリーさんはどうします?」
「私も一度、戻ります。今日はいろいろありましたので。」
「じゃあ荷物をまとめて、一緒に帰りましょう。」
先ほど倒したポイズンマルムの素材を包んで渡してあげる。
するとセリーさんは壊れたおもちゃのように震え始めた。
「こ、このポイズンマルムの素材は一生売りません……!」
とか意味不明なことを言っている。
自分への戒めか何かなのかもしれない。
私もいっぱいやらかしているから、少しだけセリーさんを応援したくなった。
その後は特に問題なく、魔導都市レオまでたどり着いた。
道中で話を聞くと、セリーさんも私と同じ十二歳。
三カ月前に故郷から出てきたばかりらしい。
そして別れ際。
せっかく仲良くなれたので、私は彼女に少し不躾なお願いをしてみた。
「あの、私と友達になってくれませんか?」
無言でバターンと大きな音を立てて、セリーさんは倒れた。
「えっ!?」
まだ毒の影響が残っていたのかもしれない。
大きなリュックのおかげで頭は打ってないと思うけど、かなり心配だった。
慌てて近づこうとすると、彼女は両目をクワッと開く。
「えぇ、えぇ、ぜひお友達になりましょう!」
「わっ!?」
かなり大きな声だったのでビックリしたけど、元気そうなのでよかった。
「じゃあ敬語は無しね。」
サジタリウスを出てから初めてできた友達。
それが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
「――。」
「セリーちゃん? あれ? おーい?」
意識が無かった。




