新しい街、新しい出会い⑥
現在は朝八時ほど。
私は魔導都市レオに来て初めてルインダンジョンに向かっている。
「そろそろダンジョンに行ってみたいもんね。」
自分に言い聞かせるように呟く。
もちろん、それが全てじゃない。
昨日聞いた失踪事件が気になることもある。
「今まで人目につかないようにしてきたけど。」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
今回はわざと人目に付く場所を歩いている。
新米の女性冒険者が一人でルインダンジョンへ向かっている。
もし本当に冒険者を誘拐している人間がいるなら、絶対に食いつくはず。
今回ばかりは本当に安全の確保ができていないため、念のためギャラルホルンを腰に付けてある。
あまり褒められた行動ではないけど、背に腹は代えられない。
……それに何事もなければ、それが一番良い。
初めて歩くルインダンジョンまでの道のりを進み続けた。
「おぉ~。」
一時間ほど歩くと、ルインダンジョンの入り口が見えた。
これが魔王誕生の地。
入り口こそ厳重に固められているけど、内部構造は大地に開いた大穴。
アリの巣みたいに枝分かれした構造で、正しい道は一つだけ。
他は全て行き止まりとなっていて、侵入者を拒んでいる。
「……だけど。」
『ようこそ冒険者~ルインダンジョン入り口』
派手に飾り付けられた入り口は、まるで遊園地のアトラクションだ。
ゲームだともっと厳格な感じだったはずなんだけど。
「命がけにしては軽すぎると思うけどね。」
私はため息をついて中に入った。
ルインダンジョンの中は一定間隔でランプが置かれていて明るかった。
所々に黄色く光る苔も植えられていて、足元まで見える。
深部へ続く正しい道には赤く光る苔が植えられている。
これも冒険者ギルド主導で行われていることで、少しでも死傷者を減らすためのものだった。
私は赤い苔を避けて、黄色い苔の道を探す。
「今日の目的は浅層探索だからね。」
ルインダンジョンは全部で三層からなるダンジョンだ。
私が今いるのは一層。
二層以降は敵が格段に強くなり、一次職がパーティも組まずに倒せるような敵じゃない。
だから今日は一層で狩りをするつもり。
私は案内に従って探索を開始した。
道中でハーブや小さな魔力石を採集しながら進んでいく。
その途中でポイムなどにも出会った。
ダンジョン内でいつもとやや勝手が違うものの、たくさん戦ってきた相手。
苦戦することなく『ウィンドカッター』で討伐していった。
探索開始から一時間ほど経った頃、進行方向に何かが見えた。
もぞもぞと動く頭?
一生懸命動かす短い手足。
毒々しい紫色の大きなきのこ。
「『ポイズンマルム』だ。……可愛い~。」
この子も植物型モンスターで、私のストライクゾーンだ。
あちらはまだ私に気付いていない。
こちらに気付かれないように、その様子を観察する。
ダンジョン内の湧水が流れている場所で、体を湿らせて喜んでいた。
「ポィ。」
ゲームの鳴き声と同じだ。
気の抜けた鳴き声に癒される。
他にも腰?をくねらせて踊ったり伸びたり欠伸したりしている。
しばらく眺めて可愛い姿は十分に堪能できた。
名残惜しいけど、あの子とはお別れしないといけない。
「ごめんね。」
私は魔力を集める。
それに気付いたポイズンマルムが、私めがけて突進してきた。
「ポイッ!」
ポイズンマルムはアクティブモンスターである。
人間を見つければ積極的に襲ってくる性質のモンスターだ。
出会ってしまえば、どちらかが倒れるしかない。
そして私は倒れるわけにはいかないので、迷わず魔力を込めた。
「『ウィンドカッター』!」
風の刃がポイズンマルムを切り裂く。
茸の傘と胴体が真っ二つになり、そのまま絶命した。
私はその姿を前に両手を合わせて嘆く。
「うぅ、ごめんねぇ。」
ポイズンマルムの胞子は薬の材料などになる。
無駄にならないように、茸の傘部分を丁寧に袋に包む。
これも命を無駄にしないために必要なことなのだ。
手荷物がそろそろいっぱいになりそうなので、私は魔導都市レオに帰ることにした。
ここまで集めた素材をまとめてギュッと縛り、背中に背負う。
出口に向かって来た道を戻り始めた。
途中、遅起きでこれから探索に向かう冒険者たちとすれ違う。
「おい、あの子。」
「ウィザードが一人で?」
「あれが噂の。」
すれ違いざまに聞き耳を立てると、私についての噂話が聞こえてくる。
やはり新米のウィザードが一人で行動していることは噂になっているようだった。
連日、一人で朝早く出掛けていって、荷物いっぱいで街に帰ってくれば仕方のないことだった。
私は少し前から方針を変えていた。
予定よりも早く、自分の実力を示す方針に転換したのだ。
そうすれば、駆け出し冒険者だと思って話しかけてくる手合いは確実に減らせる。
最悪、どうやって稼いでいるのか問われても『冒険者が人の稼ぎ方について詮索するのか?』と言ってしまえば、その先までは踏み込まれない。
ましてや狩り場への付きまといや尾行などは、冒険者にとってご法度である。
最悪、犯罪者扱いされてもおかしくないほどの禁忌だった。
「それでも関わってくるなら、別の街に逃げちゃう手もあるし。」
でもせっかくネネさんやルカさんのような人に出会えたから、できればそれはしたくない。
本当の緊急事態になれば『冒険者のお守り』や《HidePC》を使う手もある。
思い描いていた冒険者ライフとは違うけど、仕方ない。
これまで何度も計画を修正してきたのだから、この程度は今さらだ。




