新しい街、新しい出会い①
鳥の鳴き声と街の喧騒。
瞼の向こうに日光を感じる。
「んぅ……。」
いつもより眠ってしまった気がする。
軽く寝返りを打つと、伸ばした手が壁に触れた。
「……?」
何かおかしい。
眠い目を擦りながらゆっくりと瞼を開くと、見覚えのない部屋が目に入った。
「……ぁ。」
そうだった。
私は独り立ちをして、昨日から魔導都市レオの宿に泊まってるんだ。
思ったよりも寝てしまっていたらしい。
窓から差し込む光を見て、太陽の位置を確認する。
おそらく時刻は朝の七時くらい。
いつも起きる時間より一時間ほど遅い。
初めてパパに起こしてもらえなかった朝は、早速寝坊から始まった。
「女将さん、おはようございます。」
「おはよう、お嬢ちゃん。早起きだねぇ。」
どうやら冒険者の中では、これでも私が一番早起きだったらしい。
女将さんと軽く雑談を交わし、桶と布を借りて井戸へ向かう。
井戸から水を汲み上げ、桶いっぱいに水を入れる。
そのまま桶を持って宿へ戻った。
「お嬢ちゃん、朝ごはんは部屋に持っていくかい?」
「あ、はい。お願いします。」
そう返事をして、私は先に部屋へ戻った。
桶を床に置くと、備え付けの木のコップで水を掬う。
「んっ。」
こくっ、こくっと喉を鳴らして水を飲む。
冷たい水が喉を通って、寝起きの体に染みわたっていく。
「ふぅ。」
残った桶の水は、昨日と同じ要領で少しだけ温める。
今日は体を拭くわけじゃないので、昨日よりもぬるめでいい。
手を入れて温度を確かめる。
「うん、これくらい。」
少しだけコップに移して脇へ置いた。
「これは後で歯を磨く時に使う分。残りは顔を洗う分っと。」
両手でお湯を掬う。
パシャ、パシャ。
顔全体を洗い、最後に布で水気を拭き取る。
「よし、目も覚めた。」
コンコン。
ちょうど準備が終わったところで扉がノックされた。
「お嬢ちゃん、朝ごはんだよ。」
「はーい。」
女将さんの声に返事をして、扉を開ける。
「はい、これ。朝食のトーストとスープだよ。」
「ありがとうございます。」
お盆を受け取る。
そのまま扉を閉めようとして――ふと、女将さんの顔をじっと見た。
「ん? どうしたんだい?」
そういえば、昨日から何度も話しているのに。
私はこの人の名前を知らない。
「私、アイラって言います。」
「ああ。」
「女将さんの名前も教えてください。」
「あやまぁ。」
女将さんは少し驚いた顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。
「あたしの名前はネネだよ。よろしくね、アイラ。」
「はい!」
名前を教えてもらえたのがなんだか嬉しくて、自然と笑顔になる。
「よろしくお願いします、ネネさん!」
私は満面の笑みを返した。
固いパンをスープに浸して、柔らかくしてから食べていく。
スープには具がなく、調味料だけで味付けされた簡単なものだ。
朝はこれくらいの軽さがちょうどいいかもしれない。
「んー。」
パンを咀嚼しながら今日の予定を考える。
そろそろ冒険に出かける準備をしないと。
できれば、まだあまり冒険者が活動していないうちに西門を抜けたい。
昨日みたいに大勢から声をかけられるのは避けたいからね。
残っていたパンを食べ終え、最後にスープを飲み干す。
「ごちそうさまでした。」
お盆と食器を持って一階へ降り、ネネさんに返す。
その足で宿の外にある排水溝へ向かった。
「さて、歯磨き歯磨き。」
この世界の平民の歯磨きは、布などにハーブの粉末を付けて歯を拭くのが一般的だ。
持ってきた布に粉末を付け、一本一本丁寧に磨いていく。
奥歯まで隅々と綺麗にしたら、最後に持ってきたコップの水で口を濯ぐ。
口の中に残ったハーブの粉末を綺麗に流したら完了。
「口がスースーする。」
当たり前だけど、かなりハーブ感が強い。
独特の苦みもあるので、子供は嫌がって塩で歯磨きをしている子も多いのだ。
「まぁ私はお姉さんだから、ハーブでも大丈夫だけどね!」
十二歳の成人女性ですから!
……だけど少しだけ、前世の歯磨き粉が恋しいと思った。
新しい街で、新しい物語が始まりました。
最初に知り合ったのは、宿の女将『ネネ』。
これからアイラは魔導都市レオで、どんな人たちと出会い、どんな関係を築いていくのでしょうか。
そして、出会いがあれば別れもあります。
アイラを待っているのは、楽しい出会いか、それとも。
この先もお楽しみください。




