新米冒険者⑪
姿を隠したまま東門から外へ出る。
すると、西門側とはまるで違う光景が広がっていた。
「うわぁ、凄い。」
こちら側には商人が大勢いる。
その誰もが大きな荷台を引き、食料や衣服、武器など、様々な商品を運んでいた。
「そっか。こっちは王都に続く道だもんね。」
東門から伸びる道は王都リーブラへと続いている。
道幅も広く、しっかりと整備されていて歩きやすい。
さらに、王都までの街道周辺では定期的に大討伐が行われているため、西門側と比べて生息しているモンスターも比較的穏やかだ。
大量の商品を運ぶ商人たちが利用するには、うってつけの道なのだろう。
ちなみに、この世界ではマーチャントと商人は明確に区別されている。
マーチャントは冒険者登録をしてマーチャントという職業に就いている人。
商人は冒険者登録をせず、普通に商売をしている人のことだ。
マーチャントにはマーチャントギルドから支給される専用の服があるので、見た目でも簡単に区別できる。
ママも冒険者として活動しているわけではないけど、冒険者登録を抹消していないので分類上はマーチャントだ。
ここにいる人たちは誰もマーチャントの服を着ていない。
つまり、ほとんどが普通の商人ということになる。
「ここは人が多すぎるから、もう少し離れないとね。」
これだけ人がいたら、とても魔法の検証なんてできない。
私は王都へ続く東の街道から外れ、街の北東方向へ向うことにした。
しばらく歩くと、少し高くなった見晴らしの良い丘へたどり着く。
辺りを見回す。
「うん、誰もいない。」
人の姿は見当たらなかった。
それにはちゃんと理由がある。
丘の向こうには森が広がっていて、その中には毒を持つ虫型や植物型のモンスターが数多く生息している。
わざわざそんな危険な場所へ近づこうとする冒険者はほとんどいない。
森そのものへ入らなければ問題ないし、人目を避けてスキルを試すだけなら、この辺りはちょうど良さそうだ。
もっとも、あまり長居して誰かに見つかったら意味がない。
「さっさと済ませよう。」
まずは《HidePC》を解除する。
姿が元に戻ったことを確認してから、丘の周囲をもう一度見回した。
《HidePC》を使ったままだと、私の姿だけではなく、身に着けている物や放ったスキルまで見えなくなってしまう。
それではスキルが正常に発動しているのか、自分の目で確認できない。
それに――。
「GMコマンドに頼り切るのも良くないよね。」
いざという時、《HidePC》を使う余裕があるとは限らない。
GMコマンドが使えるから安全。
そんな考え方はしないと決めている。
必要に迫られた時以外は、できるだけ自分の力で行動する。
今のところは、その方針でいきたい。
「それじゃあ、さっきの続き。」
スキル習得を再開する。
まずは『ファイアアロー』。
次に『アイスランス』。
そして『アースニードル』。
先ほど習得した『ウィンドカッター』と合わせて、四属性の基礎攻撃魔法が揃った。
一見すると、四属性すべてにスキルポイントを使うのは無駄にも思える。
普通なら得意な属性へ絞り、その先にある強力な魔法を習得した方が効率は良い。
だけど、私の場合はこれでいい。
『サモナー』系列を極めるためには、四属性の基礎魔法を習得しておくことが必要不可欠だからだ。
そこへ『基礎魔力増幅』と『ライト』を加える。
「これで完成。」
ウィザードらしい派手な中級攻撃魔法へ続くスキルツリーには、一切手を付けない。
その理由については、実際に『サモナー』になった時に説明できると思う。
ともあれ。
私が一次職で欲しかったスキルは、これですべて習得できた。
まず『基礎魔力増幅』。
これはパッシブスキルなので、発動して試すことはできない。
名前の通り、MPと魔力そのものを上昇させてくれるスキルだ。
効果を数値で確認できないのが残念だけど、ちゃんと習得できている感覚はある。
次は攻撃魔法。
周囲に誰もいないことを改めて確認し、空へ手を向けた。
「『ファイアアロー』!」
炎の矢が生まれ、真っすぐ空へ飛んでいく。
「『アイスランス』!」
今度は氷の槍が空へ向かって発射された。
「『アースニードル』!」
地属性の鋭い針が生まれ、同じように天へ飛んでいく。
「うん。全部上手くいってる。」
どれも問題なく発動した。
レーヴァテインを使った時とは比べものにならない程度の威力だけど、むしろこれくらいの方が安心できる。
最後に『ライト』。
「『ライト』。」
私を中心に淡い光が広がった。
昼間の屋外なので分かりづらいけど、周囲が少しだけ明るくなっている。
『ライト』は暗い洞窟などを照らすだけのスキルではない。
シーフスキル『ハイド』のような、姿を隠すスキルを看破する効果も持っている。
これがあれば暗いダンジョンを探索できるし、姿を隠した相手から奇襲を受ける危険も減らせる。
安全を重視する私とは、とても相性が良い。
「よしよし。」
ここまでは満足のいく結果だった。
欲しかったスキルは全部覚えられた。
ちゃんと自分の魔力だけでも使える。
問題なし。
――一つだけ。
本当に一つだけ問題があるとすれば。
「このまま二次職になれるくらい成長しちゃってるね、私……。」
一次職で獲得できるスキルポイントが、すでに上限まで貯まっていた。
つまりゲームの仕様で考えれば、もう二次職への転職条件を満たしている。
「調子に乗ってレベル上げすぎたかも。」
十二歳になる前から、安全第一で少しずつ経験値を稼いできた。
その積み重ねが、思っていた以上に大きかったらしい。
「本当なら、このまま二次職になりたいくらいだけど……。」
それはさすがにまずい。
今日、田舎町から出てきたばかりの新米冒険者。
午前中にウィザードへ転職。
そして同じ日のうちに二次職への転職試験を受ける。
「普通に考えて怪しすぎるよね。」
ただでさえ初日から悪目立ちしているのだ。
「しばらくは普通の新米冒険者らしく活動しよう。」
モンスターの素材を納品する。
街の人から依頼を受ける。
冒険者として実績を積み、少しずつ名声を上げていく。
そうやって周囲から見ても不自然じゃない程度の下積みをしてから、二次職を目指した方がいい。
「目立たない裏口転職とかあれば最高なんだけどなぁ。」
少し考えてみる。
「……思いつかない。」
そんな都合の良い方法はなかった。
なら仕方ない。
「まずは普通に冒険者をやって、それから考えよう。」
急ぐ必要はない。
私は今日、冒険者になったばかりなのだから。
まずは目立たず、堅実に。
そう自分へ言い聞かせながら、私は覚えたばかりのスキルを振り返った。
日が傾き始めている。
そろそろ空が茜色へ変わり始める頃合いだ。
早い冒険者なら街へ戻り、宿を取り始める時間でもある。
「早めに帰って、良い宿を取らないと。」
宿については、サジタリウスにいた冒険者たちから色々な話を聞いていた。
寝ているところを知らない男に突然襲われたとか。
宿で出された食事に薬が盛られていて、そのまま人買いに売られたとか。
治安の悪い安宿へ一人で泊まった女性冒険者が酷い目に遭ったとか。
聞いているだけで嫌になるような話ばかりだった。
前世の感覚はもちろん、十二年間この世界で生きてきた今の私から見ても最低だと思う。
だけど、それと同時に――。
「ありそうなんだよねぇ……。」
そう思えてしまうことが悲しい。
冒険者になった初日から、実際に変な人たちにも絡まれたばかりだ。
宿代を惜しんで危険な場所へ泊まるなんて絶対にしない。
自分の安全には代えられない。
高級宿に泊まる必要はないけど、お値段が手頃で、なおかつ治安の良い宿を探そう。
もう少しスキルを試していたい気持ちはあったけど、少し名残惜しいくらいで切り上げることにした。




