新米冒険者⑨
「私のことを、覚えてる?」
忘れてくれていたら助かるんだけどなぁ。
クレスが立ち去り、その姿が完全に見えなくなるまで待つ。
しばらくしてから周囲を見渡し、誰もいないことを確認して《HidePC》を解除した。
「街中にいると、またクレスと会っちゃうかも。」
もし本当に私のことを覚えているなら、あまり顔を合わせたくない。
二年前に一度会っただけとはいえ、あの時は目の前から突然消えてしまった。
今回も同じことをしてしまったし、これ以上会えばさすがに怪しまれそうだ。
「さっさとお昼ご飯を買って、街の外に出なきゃ!」
《Warp》で別の街へ移動することも一瞬考えた。
だけど、それはちょっと怪しすぎる。
転職したばかりの新米冒険者が、高いお金を払ってすぐ王都へ戻るなんて不自然だもんね。
少なくとも、しばらくは魔導都市レオを拠点に活動するしかない。
となれば、まずは街の外へ出よう。
私はすぐ近くにあった屋台へ向かい、串焼きを一本買った。
持ち歩けるよう大きな葉っぱに包んでもらい、そのまま街の西門へ向かう。
門を抜けて郊外へ出ると、街の周辺にはまだたくさんの人がいた。
冒険へ向かう人。
街へ戻ってくる人。
道端で仲間と話し込んでいる冒険者。
その邪魔にならないよう、防壁付近にある木陰まで移動して腰を下ろした。
「やっとご飯だぁ。」
葉っぱを開き、まだ温かい串焼きへかぶりつく。
「……美味しい!」
肉厚で、とてもジューシー。
噛むたびに肉汁が口の中へ広がる。
表面に塗られたタレは、前世で食べた焼肉のタレを少し辛くしたような味。
「ん~、でもちょっと辛すぎるかも……。」
私は辛いものが苦手なので、もう少し辛さを抑えてくれたら完璧だった。
ちなみに串焼き一本でもこの世界では貴重なお肉を使っているので結構値が張る。
「急いで街を出るために、目の前のお店にしたからだけど、ちょっと勿体なかったかも。」
これからは自分で稼いだお金で生活していくことになる。
パパとママにもらった路銀を無駄にするわけにもいかない。
次からは値段もちゃんと確認してから買おう。
そう反省しながら食べ進める。
串焼きが大きかったこともあり、一本食べ終わる頃にはお腹いっぱいだった。
普通の冒険者なら、これだけでは物足りないくらいの量だと思う。
「こういう時は、コスパの良い体に感謝だね。」
小柄なのも悪いことばかりじゃない。
……でも身長は伸びてほしい。
それはそれ、これはこれである。
ちなみに、串焼きを食べている間にも何度か声を掛けられた。
考えてみれば当然なのかもしれない。
転職したばかりなのが一目で分かる新米ウィザードが一人で食事をしている。
パーティを探しているように見えても不思議ではなかった。
「良かったらうちのパーティに来ない?」
「一人なら一緒にどうだい?」
声を掛けてくる人は次から次へと現れた。
内容も様々。
純粋に新米を心配して声を掛けてくれたような人もいれば、さっきの三人組ほど露骨ではないものの、何となく下心を感じる人もいる。
せっかくのお誘いだけど。
「信用できるのか分かんないんだよねぇ。」
今の私には、相手が本当に親切なのか、それとも何か悪意があるのかまで見抜くことはできない。
さっきみたいなことがあった直後でもある。
申し訳ないけど、全員断らせてもらった。
「う~ん、ママに似た顔で生まれたことは嬉しかったけど。」
これはさすがに予想していなかった。
ママも若い頃は随分モテていたとパパから聞いたことがある。
もしかして、こういうものなのかな。
「パパが心配してた理由、ちょっと分かったかも。」
誘拐されないか心配だと言われた時は、さすがに心配しすぎだと思っていた。
だけど、冒険者になった初日からこれだ。
私も今まで以上に気を付けないといけない。
「ソロのウィザードってだけでも目立ちそうだしね。」
ましてや、私は十二歳になったばかり。
これからはできるだけ目立たず、余計な問題には関わらないようにしよう。
「よし。」
私は小さく頷いた。
――これからは、できるだけ目立たないように息を殺して過ごします。
冒険者初日。
早くも予定になかった目標が一つ増えてしまった。




