新米冒険者⑧
「待て!」
後ろから怒鳴り声が聞こえた。
三人組は追いかけてくる。
「ええ、まさか追いかけてくるなんて!」
ただパーティに誘いたかっただけなら、断られた相手をここまで追いかける必要なんてない。
もしかしたら、本当に人さらいかもしれない。
捕まったら面倒なことになりそうだ。
このまま大通りを走り続けるより、一度姿を消した方がいい。
私は三人組から逃げながら、近くにあった路地裏へ飛び込んだ。
さらに奥まで走り、周囲に誰もいないことを素早く確認する。
《HidePC》
頭の中で念じた瞬間、私の姿が消えた。
その直後、三人組が路地裏へ駆け込んでくる。
「どこだ!?」
「いないぞ、探せ!」
「くそ、どこに隠れやがった!」
いや、普通に物騒なんですけど。
サジタリウスではこんなこと一度もなかったけど、やっぱり都会は治安が悪いのかな?
まさか本当に追いかけてくるとは思わなかったけど、捕まる前に《HidePC》を使えて良かった。
三人組は周囲の物陰や建物の隙間を探し回っている。
私は少し離れた場所から、その様子を呆れながら眺めていた。
――その時だった。
「お前たち、何をしている。」
「え……?」
路地裏に低い声が響く。
三人組の前に現れた人物を見て、私は目を見開いた。
金色の髪。
青い瞳。
ナイトの装備に、背負った大剣。
見間違えるはずがない。
「クレス……?」
最初、声変りしていて気付かなかった。
二年前、ゴブリンに襲われていたグローザ侯爵家を助けた時に出会った少年。
『クレス・グローザ』だった。
以前より背も伸びて、すっかり青年らしくなっている。
「なんだ、お前?」
シーフの男が強い語気でクレスへ詰め寄った。
一気に空気が張り詰める。
「集団で女性を追い回しているように見えたのでな。」
だけど、クレスはまるで動じない。
相手を恐れていないどころか、三人まとめて脅威だとすら思っていないような態度だった。
それが逆に男たちの怒りに火をつけたらしい。
「てめぇ、舐めてんのか!!」
ナイトの男が剣を抜き、そのままクレスへ斬りかかった。
シーフとプリーストも、それに続いて臨戦態勢へ入る。
「っ!」
良くない状況だった。
路地裏まで逃げ込んでしまったせいで、周囲には人の姿がない。
このままじゃ、私のせいでクレスが――。
――ヒュン。
そう思った次の瞬間。
クレスの大剣が一閃した。
「え?」
ナイトの右腕が宙を舞うのが見えた。
剣を握ったままの腕が地面へ落ちる。
「お、俺の腕がああああああ!」
ナイトが傷口を押さえ、絶叫しながらその場へ崩れ落ちた。
「く、くそぉ!」
今度はシーフが短剣を構えて飛び掛かる。
――ヒュン。
再び大剣が閃いた。
「があっ!?」
今度はシーフの左足が宙を舞う。
片足を失ったシーフは勢いよく地面へ倒れ、そのまま動けなくなった。
「なっ……。」
最後に残ったプリーストが青ざめる。
ここでようやく目の前にいるクレスとの実力差に気付いたらしい。
慌てて倒れた仲間を回復しようと杖を構えた。
だけど、もう遅い。
クレスは一気に間合いを詰める。
「ぐあっ!」
大剣の柄がプリーストの腹へ叩き込まれた。
男は体をくの字に折り曲げ、そのまま地面へ倒れて気を失う。
「…………。」
一瞬だった。
三人がかりで襲い掛かったはずなのに、クレスには傷一つ付いていない。
それどころか、息すら乱れていなかった。
「いくらなんでも強すぎるって……。」
これが本当にナイトになったばかりの人間の強さなのだろうか。
クレスは倒れた三人組から武器を取り上げると、手際よく拘束していく。
やがて騒ぎを聞きつけたのか、近くを巡回していた衛兵が路地裏へやって来た。
事情を説明すると、三人組はそのまま引き取られていく。
「まったく。」
やれやれといった様子で、クレスは大剣を収めた。
「まぁ、あの程度の怪我なら『ヒール』で治してもらえるだろう。」
腕と足を斬り落としておいて、冷静にそんなことまで考えている。
手加減した結果があれだったらしい。
「これがクレス・グローザ……。」
つくづく、前世で開発スタッフが語っていた言葉が現実味を増してくる。
――生きていれば英雄になっただろう。
まだ十二歳なのに、すでにこれだけ強い。
このまま成長したら、いったいどこまで強くなるんだろう。
そんなことを考えていた私とは対照的に、当のクレスはどこか上の空だった。
「さっき追われていた少女……。」
クレスが私の消えた辺りを見つめながら、小さく呟く。
「あの時の子に、間違いないと思うのだが……。」
「え?」
思わず体が固まった。
「ウィザードの格好をしていたということは、最低でも十二歳……? いや、そんな……。」
何かぶつぶつと呟いている。
距離があるうえに声も小さく、私にはほとんど聞き取れなかった。
ただ一つ。
なぜか、とても嫌な予感がした。




