新米冒険者⑦
「はい、これ。ウィザードの正装よ。」
転職を終えたあと、体中を採寸され、私専用のウィザード服を用意してもらった。
一着目は無料で支給されるけど、二着目からは自分でお金を出して買わないといけない。
十二歳といえば、まだまだ成長期。
一年もしないうちに買い替えることになるかもしれない。
いや、むしろ私は素敵な長身の女性になるのが目標なんだから――。
買い替える必要あれ!
「着替えは奥の扉の向こうでできるわ。女性用はあっちね。」
「ありがとうございます。」
女性用の更衣室を案内してもらい、私はそちらで着替えることにした。
突然だけど、転職する職業を選ぶうえで一番大事なことがある。
え?さっきはソロ向きだから選んだって言ってたって?
もちろん、それも大事。
だけど、それは二番目に大事なこと。
一番大事なことは、いつだってシンプルだ。
「それは可愛さ!!」
そう、可愛い服が着られる職業を選ぶこと!
この日を何度夢見てきたことか。
さっそく支給された服へ袖を通していく。
金の刺繍が入ったローブに黒い袖。
腰から下は、前掛けがそのままスカート状に広がったようなデザインになっている。
そこへベルトを巻き、ウエストポーチを付ければ完成。
「可愛い……!」
思わず頬が緩む。
ゲーム画面では何度も見てきた衣装だけど、自分で着てみると喜びもひとしおだ。
ただし――。
「唯一の問題は、両側にすごいスリットが入ってて恥ずかしいこと……。」
下着が見えないようには配慮されているものの、左右とも太ももまで大きく露出するデザインになっていた。
ファンタジーの服って、どうしてこう露出が多いんだろう。
全然大事なところ守れてないじゃん!
見る分には可愛い。
むしろ前世では大好きだった。
だけど、いざ自分が着るとなると話は別だ。
少しどころか、かなり恥ずかしい。
「多少のアレンジは許されてるから、こうして……。」
スリットの開き始める部分へ布を巻き、露出する範囲を狭くしていく。
鏡の前で何度か体を動かして確認する。
「うん、これなら大丈夫そう。激しい動きにだけは気を付けよう。」
少なくとも、さっきよりは安心して歩ける。
しばらくは、この格好で過ごすことに慣れていこう。
これも『サモナー』になるまでの辛抱だ。
着替えを終えると、改めてウィザードギルドの人たちへ感謝を伝え、街へ戻った。
空を見上げる。
今日はここまで随分と時間がかかった。
ゲームなら数分も経たずに終わる転職も、現実では受付に契約、採寸、着替えまである。
気付けば、もう昼時だった。
「お腹も空いてきた。」
まずは昼食にしよう。
私はウエストポーチの中から、パパとママにもらった路銀を取り出した。
改めて確認してみると、一か月は宿に泊まれそうなほどの大金が入っている。
「……ありがとう。」
胸の奥がじんと温かくなる。
きっと私が困らないように、二人で一生懸命用意してくれたんだろう。
絶対に無駄遣いはしない。
大切に使おう。
とはいえ、節約するために食事を抜くのも違う。
体を壊してパパとママを心配させないためにも、ご飯はちゃんと食べなくちゃ。
「何か美味しいものあるかなぁ。」
魔導都市レオの屋台を探して歩き始める。
「ねぇねぇ、君。」
少し歩いたところで、不意に後ろから声を掛けられた。
振り返る。
そこにはナイト、シーフ、プリーストの格好をした三人の男が立っていた。
「はい、何でしょうか?」
返事をしながら、三人の顔を順番に確認する。
知らない人たちだ。
「俺たちとパーティを組まないか?」
ナイトの男が笑いながら言った。
「パーティ?」
一瞬、普通の勧誘かと思った。
だけど、すぐに違和感を覚える。
三人とも、さっきから私の顔や足をじろじろ見ている。
――何か、嫌だ。
「ごめんなさい。まだ新米なので――」
「いやいや、それならちょうどいいって! 俺たちがいろいろ教えてあげるよ!」
断ろうとした言葉を遮り、ナイトが一気に距離を詰めてきた。
他の二人も笑いながら同調している。
押しが強すぎる。
それに、私の返事を聞く気がまるでない。
ここまでくれば、目的が単なる冒険仲間の勧誘ではないことくらい分かる。
ぞわりと全身に悪寒が走った。
――無理。
かなり本気で生理的に受け付けない。
もしかして、さっき魔王の封印前で感じた寒気ってこの人たちだったのかな。
……いや、それはさすがに違うか。
それはともかく。
女性の冒険者には、モンスター以外にもこういう危険があるらしい。
知識としては分かっていたけど、実際に自分が遭遇すると全然違う。
はっきり言って、まったく嬉しくない経験だった。
「ごめんなさい!」
今度は返事を待たず、私は勢いよく走り出した。
こうして私はウィザードになった初日から、早速一つの教訓を得ることになった。
――知らない人には気を付けよう。
ちなみに。
残念ながら、ご飯にはまだありつけていない。




