↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/127

新米冒険者⑥

景色が変わり、屋内から野外へと放り出された。

ここは『魔導都市レオ』。

街の南側に位置する大庭園の中に、転送所は設けられている。

「っと。」

私は王都リーブラの時と同じように、後から転送されてくる人の邪魔にならないよう素早くその場を離れた。


改めて周囲を見渡す。

魔導都市レオは街全体が六芒星を描くように造られている。

そして街の中央には、左右に対になるように建てられた二つの巨大な建物。

その中心には、さらに目を引く真っ白な柱がそびえ立っていた。

左側にある建物が『ウィザードギルド』の本部。

ウィザードへの転職は、あそこで受け付けている。

右側にあるのがウィザードの育成学校。

主に貴族の子供たちなどが通い、魔法について専門的に学ぶための場所だ。


そして、二つの建物の中心にある異質な白い柱。

高さは約二十メートル。

柱の下には巨大な魔法陣が浮かび上がっており、遠くから眺めているだけでも、どこか神聖な空気を感じる。

街そのものを覆う六芒星の魔法陣で力を蓄え、その魔力を中心にある魔法陣へと注ぎ続ける。

気が遠くなるほど長い間、休むことなく。

「あの柱の下に、魔王が封印されてるんだよね。」

今では、おとぎ話として語られている話。

あの柱の下には、かつて女神ガイアが魔王を封印したとされている。

だけど、それはおとぎ話なんかじゃない。

本当にあそこには魔王が封印されている。

そして長すぎる年月を経たことで、その封印は少しずつ劣化してきている。

もう一押し。

何か切っ掛けさえあれば、その時は――。


「……。」

そこまで考えて、やめた。

この国の人々は、まだそんなことを知らない。

そして私も、今のところ誰かに話すつもりはない。

巨大な柱を目印に、街の中心へ向かう。

数分ほど歩くと、中央広場に到着した。

巨大な柱の周囲は観光客でごった返している。

そのすぐ近くには、堂々と『魔王封印』と書かれた看板まで立てられていた。


「商魂逞しいなぁ……。」

思わず苦笑する。

だけど、それと同時に少しだけ複雑な気持ちにもなった。

魔王がなぜ魔王になったのか。

きっと、この国の人たちは誰も知らない。

今ではただ、女神ガイアに倒された恐ろしい存在として語られているだけだ。

「まぁ、事件が起きるのは六年も先のことだからね。今は一旦忘れておこうっと。」

今日ここへ来た目的は、魔王の封印を調べることじゃない。

ウィザードへの転職だ。

私は気持ちを切り替えて、左側にあるウィザードギルドへ体を向けた。


その瞬間だった。

ぞわっ。

背筋に冷たいものが走る。

「……?」

反射的に足が止まった。

――何かに見られてる?

それも、ただ視線を向けられたという感覚じゃない。

もっと危険な何か。

首元を手で押さえながら、ゆっくりと周囲を見渡す。


観光客。

街を歩く住人。

ウィザードの格好をした人たち。

特に変わったものは見当たらない。

「……気のせい?」

もう一度周囲を見回してみるけど、やっぱり何もない。

強い違和感は残っている。

だけど、正体も分からなければ確証もない。

少しだけ気にしながらも、私は再びウィザードギルドに向かって歩き出した。


ウィザードギルドの扉を開ける。

中は魔力灯によって明るく照らされ、美しい刺繍の入った赤い絨毯が奥まで真っすぐに敷かれていた。

壁紙も明るい色で統一されていて、全体的に華やかな印象を受ける。

だけど、驚くのは見た目だけじゃない。

魔力灯はもちろん、壁や床、天井に至るまで、建物の至るところに魔法が使われている。


「わぁ……。」

ゲームでは何度も訪れた場所だけど、実際に自分の目で見ると全然違う。

画面越しでは気づけなかった細かな装飾や、魔道具が発する微かな光。

本物のウィザードギルドに来たんだと思うと、自然と胸が躍った。

私は赤い絨毯の上を真っすぐ進み、受付までたどり着く。

「ウィザードへの転職に来ました。」

中央の受付にいた赤い髪の綺麗な女性に話しかけた。


「あら、可愛い子ね。歓迎するわ。」

女性は笑顔で応えてくれたものの、すぐに私の姿を上から下まで確認する。

やがて、少し困ったように眉を下げた。

「……気を悪くしたらごめんなさい。貴女、本当にウィザードになるのよね?」

「はい、間違いありません。」

この質問は予想していた。

おそらく私の格好を見て、平民だと気づいたのだろう。

この世界では、貴族の方が魔力量の多い子供が生まれやすい。

対して、平民は魔力量が少ないことが多い。

そのうえ、私はウィザードの育成学校にも通っていない。

彼女が心配して確認するのも無理はなかった。


「う~ん。一度ウィザードギルドに登録したら、二度と他の職業には転職できないのよ。本当にいいのね?」

念を押すように、もう一度確認される。

きっとこれまでにも、ウィザードに憧れて適性も考えず転職し、後悔した新米冒険者を何人も見てきたのだろう。

本当に私のことを心配して言ってくれているのが伝わってくる。

だからこそ、曖昧な返事をするつもりはなかった。

「ええ。私は学校にも通っていませんし、平民の出身です。それでもウィザードへの転職を希望します。」

はっきりと答える。


「……そう。」

女性は私の顔をじっと見つめた。

「貴女はしっかり考えてここに来ているみたいね。」

どうやら、私の意思は伝わったらしい。

前世の世界では、相手の気持ちを考えて遠慮することは美徳だった。

だけど、冒険者の世界では自分の意思をはっきり伝えなくちゃいけない時もある。

特に、自分の人生を決めるこんな場面ならなおさらだ。


それに、実際のところ魔力量に関しては問題ない。

私には生まれつき特別な魔法の才能があったわけじゃない。

だけど今日まで、こっそりレベルを上げ続けてきた。

そのおかげで、今では一般的なウィザードと同程度の魔力量になっている。

まさか無職の私がそんな魔力量を持っているとは思わないだろう。

もし測定でもされたら、とんでもない才能の持ち主だと勘違いされるかもしれない。

「どうしても不安でしたら、スクロールを一ついただければ証明しますよ。」


ここでトドメの一撃。

スクロールとは、スキルを封じ込めた消耗品のこと。

一度限りではあるものの、中に込められたスキルを使用することができる。

例えば、ウィザードスキル『ファイアアロー』の込められたスクロール。

それを使わせてもらえば、私にウィザードとして活動できるだけの魔力があるかなんて、議論するよりずっと早く証明できる。

もちろん、本当に使うことになっても問題はない。


「……そこまで言うなら大丈夫そうね。」

女性は小さくため息をつくと、ようやく表情を緩めた。

「分かったわ。貴女の転職を認めます。」

「ありがとうございます!」

いやー、今日までちゃんと準備してきて本当によかった。

「それじゃあ、この契約書にサインをしてちょうだい。文字は書けるかしら?」

「はい、書けます。」

差し出された契約書を受け取る。

――やっぱり、冒険者ギルドのものとは全然違う。


紙そのものから微かな魔力を感じる。

この契約書には特殊な魔法が施されていて、一度契約すると、二度と別系統の職業へ転職することはできなくなる。

これはウィザードだけに限った話ではない。

ナイトでも、プリーストでも、ハンターでも。

どの職業を選んでも同じだ。

だからこそ、最初の職業選びは人生を左右するほど重要なものになる。

私は念のため契約内容に目を通す。


「……うん、問題なし。」

内容に問題がないことを確認すると、そのままサラサラと自分の名前を書き込んだ。

『アイラ』。

これでもう後戻りはできない。

「文字の読み書きもできるなんて、優秀な子が仲間になってくれて嬉しいわ。」

先ほどまでとは違う、明らかに歓迎の色を含んだ声。

それが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。

女性は私が署名した契約書を両手で持つ。

そして、静かに目を閉じた。


「女神ガイアの名に誓う。この者を我らが一員に迎え入れる。」

その言葉と同時に、契約書が淡く輝き始めた。

「わっ……。」

溢れ出した光が私の周囲を包み込む。

暖かい。

そして、何かが体の中へ流れ込んでくる。

ウィザードとして必要な知識。

魔力の扱い方。

今まで知らなかったはずのものが、まるで最初から知っていたかのように頭の中へ馴染んでいく。

同時に、体の奥から新しい力が湧き上がってくるのを感じた。


――これが、転職。

やがて私を包んでいた光が頭上へ集まっていく。

小さな光の玉になったかと思えば――。

パァンッ。

花火のように弾けて、光の粒となって消えていった。

「おめでとう。これで貴女もウィザードの仲間入りよ。」

その言葉を合図にしたかのように、周囲から声が上がった。

「おめでとう、お嬢さん!」

「新たな門出に祝福あれ!」

「頑張りなさいよ!」

気づけば、ギルドにいた人たちが一斉に私を祝福してくれていた。


「あ、ありがとうございます!」

嬉しくなって、右へ左へ何度も頭を下げる。

ずっと憧れていた冒険者。

そのために七年間、準備を続けてきた。

そして今日。

私は冒険者になり、最初の職業にも就いた。

――私の冒険者ライフが、ようやく始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。