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幕間 愛らしい子

「行ってきます!」の後に入れる予定だった幕間を入れ忘れていました。

アイラの両親の過去の話になります。

「アイラ。前に、どうして俺と母さんが結婚したのか知りたいって言ってたよな。」

ある日の夕食後。

食器を片付け、三人でのんびりと過ごしていた時だった。

パパが椅子に腰掛けたまま、どこか懐かしそうな顔をする。

「うん。聞きたい。」

「そうだなぁ……。」

少しだけ考えるように天井を見上げる。

「もう二十年以上も前の話になる。」

そうしてパパは、昔のことを話し始めた。


当時の俺はまだ子供だった。

毎日弓の練習ばかりしていた、ごく普通の町の少年だ。

そんなある日。

サジタリウスへ一組の商人一家が引っ越してきた。

港町アクエリアスから来た一家らしい。

その家族の中に、一人の女の子がいた。

銀色の髪。

赤い瞳。

誰にでも優しく笑いかける、とても可愛らしい子だった。

その子の名前が――サラ。


毎日店番をしていたから、お店へ行けばいつでも会えた。

町のみんなと楽しそうに話して。

小さな子供にも優しく接して。

困っている人がいれば、すぐに手を貸す。

本当に明るい子だった。

今思えば。

俺は初めて会ったあの日から、あいつに恋をしていたんだと思う。


それから何年も経ち、サラが十二歳になる頃には町中の男どもが大騒ぎだった。

「将来は俺が嫁にもらう。」

そんな話ばかりしていた。

もちろん俺もその一人だ。

少しでも振り向いてほしくて、プレゼントを贈ったり。

用もないのに店へ通ったり。

今思い返せば、恥ずかしいことばかりしていた。

だけど結果は全員玉砕。

誰一人として特別扱いなんてされなかった。


後で本人から聞いた話なんだが――。

「一人を選んだら、他のみんなを傷つけちゃう気がした。」

そう思っていたらしい。

本当にサラらしい理由だ。

そんな日々がしばらく続いた。


そして、ある日のことだった。

サラのお父さんがアクエリアスへ仕入れに向かう途中、モンスターに襲われて行方不明になった。

その頃の俺は駆け出しのハンターだった。

一年ほど修行を積んでいたこともあって、捜索隊へ加わることになった。

必死に探した。

街道を歩き回った。

森の中も探した。

崖の下まで降りた。

そして――見つけた。

街道から外れた崖の下で。


……もう、瀕死だった。

できる限りの応急処置をした。

プリーストも呼んだ。

だけど間に合わなかった。

最後に静かに息を引き取って、そのまま動かなくなった。

俺は、その亡骸を背負って町へ帰った。

このまま誰にも見つからず、スライムに食べられてしまうなんて、どうしても嫌だった。

せめて家族と最後の別れだけはしてほしかった。


その日。

サラは、今まで見たことがないくらい泣いていた。

俺には何もできなかった。

だから話しかけなかった。

見舞いにも行かなかった。

何を言っても慰めにはならないと思ったからだ。

数日後。

サラは家から出なくなったと聞いた。

町のみんなも心配して、代わる代わる様子を見に行っていたらしい。

俺は行かなかった。

きっと今は、一人にしてあげるべきだと思った。


それから一週間ほど経った頃。

突然、サラが俺の家を訪ねてきた。

父親が最期にどんな様子だったのか。

苦しんでいなかったか。

何か言い残していなかったか。

震える声で、一つ一つ尋ねてきた。

俺は見たままを話した。

嘘はつかなかった。

誤魔化しもしなかった。


話し終えると、サラは深く頭を下げた。

「ありがとう。」

そう言って帰っていった。

その背中は、ほんの少しだけ前を向いているように見えた。

それからだった。


店へ行くたびに少しずつ話すようになった。

最初はほんの一言、二言。

それが少しずつ長くなって。

気が付けば、昔のように一緒に笑うことが増えていた。

もちろん、父親を亡くした悲しみが消えたわけじゃない。

それでもサラは少しずつ前を向いて、また町の看板娘として笑顔を見せるようになった。

そんな姿を見るたびに。

俺は、あいつのことをもっと好きになっていった。


そして十八歳になったある日。

俺は意を決してサラを呼び出した。

何度も頭の中で練習した。

それでも、いざ本人を目の前にすると頭が真っ白になった。

「もし良かったら……。」

心臓が飛び出しそうだった。

「俺と、ずっと一緒にいてほしい。」

言った。

言ってしまった。


返事はゆっくりでいい。

そう続けようとした、その時だった。

「はい。」

「……え?」

二つ返事だった。

俺の方が驚いてしまったくらいだ。

後から理由を聞いた。

父さんが亡くなったあの日。

俺が無理に話しかけてこなかったこと。

見舞いにも来なかったこと。

それが、とてもありがたかったらしい。


もちろん、他の人たちの優しさも嬉しかった。

でも、あの頃のサラには、それを受け止める余裕がなかった。

誰かと話すことも。

励まされることも。

心配されることさえ、辛かった。

だから、一人にしてくれた俺に救われたと言った。

そして父親の最期を誤魔化さず、誠実に伝えてくれたあの日から。

少しずつ俺に惹かれていったのだと笑った。


正直、複雑だった。

俺はあの日、何もできなかった。

むしろ。

父親を救えなかった人間だ。

そんな俺を好きになってくれたことが、不思議だった。

だけど、サラは首を振った。

「ケンのおかげで、ちゃんと前を向けたの。」

そう言って笑った。

その笑顔を見た時。

この人を一生幸せにしたいと思った。


それから三年後。

サラのお腹に、新しい命が宿った。

その知らせを聞いた日は、人生で一番嬉しかった。

「絶対に守る。」

「絶対に幸せにする。」

そう心に誓った。

だから危険な仕事からは離れることにした。


有名なハンターになれなくてもいい。

大きな功績なんて残せなくてもいい。

家族が笑って暮らせる人生の方が、俺にとってはずっと大切だった。

そして約八か月後。

予定より少しだけ早く。

小さな女の子が生まれた。


本当に小さくて。

とても愛らしくて。

銀色の髪も。

赤い瞳も。

まるでサラがそのまま小さくなったみたいだった。

俺は、その子に名前を贈った。

『アイラ』

愛らしい子になりますように。

そんな願いを込めて。

その日から。

娘の成長を見守ることが、俺の何よりの生きがいになった。


「――っていうのが、俺と母さんの昔話だ。」

パパは少し照れ臭そうに笑った。

「あなた、そんなこと考えてたのね。」

「お、おい。サラも聞いてたのか?」

「最初から聞いてたわよ?」

ママが楽しそうに笑っている。

パパの顔がみるみる赤くなっていった。

「はぁ……。」

「ふふっ。」


私は二人の顔を交互に見る。

ずっと仲の良いパパとママ。

その二人にも、私が知らない時間がたくさんあった。

そして。

その先に私がいる。

なんだか、それが無性に嬉しかった。

「ねぇ、パパ。」

「ん?」

「ママを幸せにできた?」

パパは一瞬だけ目を丸くした。


そして、ママを見る。

ママもパパを見つめ返した。

「それは俺が答えることじゃないな。」

「そうなの?」

「ああ。」

パパは少し恥ずかしそうに笑った。

「母さんに聞いてみな。」

私はママを見る。

「ママ、幸せ?」

「ええ。」

迷う様子なんて少しもなく。

ママはいつもの優しい笑顔で答えた。

「とっても幸せよ。」

「……そっか。」

なんだか私まで嬉しくなってしまった。

「えへへ。」

私もいつか。

パパとママみたいな家族を作れたらいいな。

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