新米冒険者④
「確認お願いします。」
「はい、ちょっと待ってね~。」
アインスは受け取った書類に目を落とし、上から順番に確認していく。
時折、職員用と思われる欄に何かを書き込みながら読み進めていく。
「ところで貴女……。」
一通り確認を終えると、アインスは神妙な顔つきで私を見た。
「はい?」
何か不備でもあったのだろうか?
少し不安になりながら返事をする。
「本当に十二歳、よね……?」
「は? ……んん、ごほん! 十二歳です!」
思わず気の抜けた返事が出てしまった。
サジタリウスでも実年齢より下に見られることはあったけど!
突然の失礼な質問に、思わず語気が強くなってしまう。
「ごめん、ごめん。小さくて可愛かったから。」
悪びれる様子もなく、アインスは笑った。
「小さいって……気にしてるのに……。」
「あはは、大丈夫。これからきっと伸びるわ。」
慰めてはいるけど、本当に悪いとは思っていないらしい。
むぅ……。
とはいえ、年齢を偽って冒険者登録をしようとする子供もいるらしい。
念のための確認だと言われてしまえば仕方がない。
私は不満を飲み込むことにした。
その後もいくつか質問を受けた。
書類に書いた内容に間違いはないか。
家族には冒険者になることを伝えているか。
読み書きや計算は本当にできるのか。
一つずつ答えていき、最終的に問題は見つからなかった。
「名前はアイラ。十二歳。出身はサジタリウス。それから――」
アインスは確認した内容を書き込んでいく。
そして最後に私の顔をじっと見つめた。
「容姿は、とても可愛い、っと。」
そう言って、職員記入欄に文字を書き込んだ。
――ゲームで聞いたことあるセリフ!
新しいキャラクターを作成するたびに聞いていた、あのセリフだ。
何度も聞いたことがある言葉なのに、実際に目の前で言われると妙に感動する。
――本物だぁ……!
表情に出さないようにしながら、心の中で勝手に盛り上がる。
ちなみに男の子の場合は『とてもカッコいい』に変わる。
「はい、これで確認はお終い。それでは、あちらの部屋にどうぞ~。」
アインスは手のひらを上に向けて、私から見て左側にある個室を示した。
「ありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げて受付を離れ、案内された部屋へ向かう。
部屋の前まで来ると、一度立ち止まって扉をノックした。
「どうぞ。」
中から返事が聞こえた。
「失礼します。」
ドアノブに手をかけて扉を開く。
部屋の中には大きなデスクが置かれていて、その向こうに金髪の女性が腰掛けていた。
「ようこそ、新米冒険者さん。」
――やっぱり、この人もいる。
彼女の名前は『ツヴァイ』。
希望する職業についての相談や斡旋を行うギルド職員だ。
それぞれの職業の特徴や適性などを説明し、新米冒険者が自分に合った職業を選ぶ手助けをしている。
ゲームでは初心者に職業について説明する、チュートリアルNPCだった。
アインスの次はツヴァイ。
ゲームと同じ流れで進んでいることに、また少しだけ胸が高鳴る。
「ここでは職業の相談や斡旋を行っているけれど、転職する職業はもう決めているかい?」
「はい、決まっています。」
迷わず答える。
「そうかい。それは感心だ。」
ツヴァイは満足そうに頷いた。
「最近は自分の将来や適性も考えず、カッコいいからなどの理由で職業を決める輩も多くてね。」
君はそうじゃないと思うのだが――。
そう続けて、そのままツヴァイのお小言が始まった。
はい、はい、とツヴァイの話に相槌を打つ。
でも、言っていることは正しい。
『カッコいいからナイトになりたい』だとか、『可愛いからウィザードになりたい』だとか。
そんな理由だけで人生を左右する職業を決めてしまう若者がいるというのだから、お小言の一つも言いたくなるのだろう。
――ゲームでは、こんなセリフなかったなぁ。
決められたセリフを繰り返すNPCだったツヴァイが、目の前で自分の経験から愚痴をこぼしている。
それだけのことなのに、何だか嬉しかった。
この人はNPCじゃない。
この世界で毎日働いて、色々な人と出会って、時には頭を抱えたりしながら生きている一人の人間なんだ。
そんな当たり前のことを改めて実感して、私はこの世界に生まれてきたことをより強く感じていた。
「っと、すまない。君が悪いわけではないのに……。」
五分ほど話し続けたところで、ツヴァイはようやく我に返った。
「いえ、心配してくださってありがとうございます。」
「君は本当にしっかりしているようだね。うん、この分なら大丈夫そうだ。」
うんうん、と満足そうに頷いている。
普通に受け答えしていただけのつもりなんだけど、随分と気に入られてしまったらしい。
――逆に普段はどんな冒険者が来てるんだろう?
ちょっと気になったけど、聞かないでおいた。
何となく、またお小言が始まりそうな気がする。
「それでは、この部屋を出て左側に各ギルドへの転送部屋がある。そこで希望する職業ギルドに転送してもらいなさい。」
「はい、ありがとうございました。……失礼します。」
私が一礼して部屋を出ると、ツヴァイは笑顔で手を振って見送ってくれた。




