新米冒険者①
景色が大好きな故郷から、王都リーブラへ切り替わる。
こっそり何度も訪れていたので、その風景には今さら感動しない。
ただ、今日はいつもより少しだけ胸が熱かった。
今までは誰にも知られず、こっそり訪れていただけ。
だけど今日からは違う。
私は冒険者になるために、自分の意思でこの王都へやって来たのだ。
「っと、ここに立ってたら邪魔だよね。」
感慨に浸っている場合じゃなかった。
ここは王都リーブラの転送広場。
左側が転移してきた人たちの到着場所で、右側がこれから転移する人たちの出発場所になっている。
この場所にはひっきりなしに人が転送されてくるので、いつまでも立ち止まっていたら後から来た人とぶつかってしまう。
怒られる前に、私はそそくさと到着場所から離れた。
時刻は朝九時頃。
ちょうど早起きな冒険者たちが冒険へ出かけ始める時間だ。
冒険者は夜中まで飲み明かし、朝が遅い人も多い。
だから、この時間から活動しているだけでも十分に早起きなのである。
まだ比較的人が少ないうちに広場を出ることにした。
広場の入り口まで来ると、ふとある物が目に留まった。
『昨日の死亡者五名、重傷十二名、行方不明一名。』
冒険者ギルドが毎日更新している、冒険者の被害状況を知らせる掲示板だ。
もちろん、これは冒険者だけの数字。
それも冒険者ギルドへ届け出があったものしか記載されていない。
パーティの誰か一人でも帰還して報告すれば記録には残る。
だけど、もしパーティが全滅したなら……。
掲示板にも記録されず、人知れず命を落とした冒険者もたくさんいるのだろう。
私もそのうちの一人にならないように、注意して生きなければならない。
そんな危険な職業が人気なのには、もちろん理由がある。
こんなことを言うと元も子もないけど、稼ぎが良い。
命を懸けているだけあって、危険な仕事ほど大きなお金が動く。
そして、教養がなくても就くことができる。
この世界で学校に通えるのは、基本的に貴族の子供くらい。
官職のような給料の良い仕事に就くためには高い教養が必要で、そういった仕事は貴族がなるものだ。
商人や職人として働く道もある。
だけど平民には大きな商売を始める元手なんてないし、職人として働いても生活していくので精一杯。
大きく商売をして儲けているような人なら、大抵は貴族との繋がりを持っている。
だから、夢を見るなら平民は冒険者になるしかない。
統計なんて見たことはないけど、おそらく一番人気の職業なのではないだろうか。
危険な仕事の一例を挙げるなら、ハチミツの採取。
この世界でも貴重な甘味であるハチミツを手に入れるには、虫型モンスター『ビー』の巣から奪う必要がある。
そして、この『ビー』がなかなかに厄介なモンスターなのだ。
非常に攻撃性が高く、集団で行動する。
そのうえ毒まで持っているので、無策で巣に近づけば確実にあの世行きだ。
つまり、お金持ちが甘いハチミツを食べるために、誰かが命懸けで『ビー』の巣へ向かっている。
「命懸けなんだから、高いのも仕方ないよね。」
前世から甘いものが大好きな私にとっては、悲報である。
《CreateItem》を使えば、何でも簡単に手に入る?
――それはダメ。
GM装備を出したことだって十分に私的利用だけど、食料や日用品まで生み出すようになったら、どこまでもずるずる行きそうだもん。
『欲しい物があったら《CreateItem》で出せばいい。』
『お金が必要になったら、売れそうな物を生み出せばいい。』
そんな生活を始めたら、きっといつか歯止めが利かなくなる。
だから、この制約だけは絶対に守らないと。




