行ってきます!④
具沢山のスープを最後まで飲み干す。
「ごちそうさまでした。」
そして、いよいよお待ちかねのデザート。
目の前には、小さな一口サイズのケーキが置かれている。
これは毎年、私の誕生日になるとパパが王都で買ってきてくれるものだ。
前世で食べていたケーキと比べれば、それほど甘くない。
スポンジだって少しぱさぱさしている。
きっと前世の私が何も知らずに食べたら、美味しいケーキだとは思わなかっただろう。
それでも私は、このケーキが大好きだった。
だって、この小さな一口の中には、幸福も愛情も全部詰まっているから。
「「アイラ、誕生日おめでとう。」」
世界で一番大好きな人たちが、笑顔で私を祝福してくれる。
十二年間、二人からもらい続けた愛情が胸いっぱいに広がっていく。
――幸せすぎて、泣いちゃいそう。
でも、今日は笑っていたい。
「ありがとう、パパ、ママ。大好き!」
二人に負けないくらいの笑顔で答えた。
食べ切ってしまうのが名残惜しくて、一口サイズしかないケーキをスプーンで少しずつ切り分ける。
本当に少しずつ、十二年分の思い出を噛みしめるように味わった。
そんな私を見ていたパパが、自分のケーキを指差す。
「パパの分も食べるか?」
首を横に振った。
「ううん。それはパパに食べてほしい。」
「そうか?」
「うん。」
三人で同じケーキを食べた今日のことを、ずっと覚えていてほしいから。
私も絶対に忘れない。
この味も、この景色も、二人の笑顔も。
全部、ずっと覚えていたい。
「可愛い娘の門出に、あまり口煩いことを言って嫌われたくないんだが……。」
食器を片付け終わり、三人で寝る前の談笑をしていると、パパがそんなことを切り出した。
「絶対に無理はしないこと。」
「うん。」
「一か月に一回は顔を見せること。」
「うん。」
「辛いことがあったら、いつでも帰ってくること。」
「うん。」
「異性と交際する時は、必ずパパより強い人を連れてくること。」
「うん?」
最後だけ何かおかしい気がしたけど、反射的に頷いてしまった。
「大丈夫。危ないことはしないよ。」
「いや、冒険がすでに危ないことなんだが……。」
「それは、そうだけど。」
パパは困ったように眉を下げる。
心配で仕方ない。
でも、可愛い娘の門出に口煩いことばかり言って嫌われたくもない。
言いたくないのに、どうしても口が出てしまう。
そんなパパの心情が、手に取るように分かる気がした。
「それでなくても、アイラは可愛いから誘拐されないか心配なんだよ。」
これは、前世の世界で親が娘を心配して言うような冗談ではない。
この世界では、少年や少女が誘拐される事件が実際に起きている。
見目の良い子供を攫い、お金持ちへ売り飛ばすような事件だって珍しくない。
「分かってる。人気のない場所には一人で行かないし、知らない人にも注意する。」
そうならないためにも、今日まで鍛錬を積んできた。
だけど、私より強い人やモンスターなんて、この世界にはいくらでもいる。
GM装備やGMコマンドがあるからといって、油断していい理由にはならない。
明日からは、今まで以上に気を引き締めなくちゃ。
そんなことを考えていると、今度はママが口を開いた。
「アイラ、私から渡したいものがあるわ。」
「なに?」
ママは首元へ手を伸ばし、いつも身に着けているネックレスを外した。
細い鎖の先には、小さな青い宝石が付いている。
物心ついた頃から、ずっとママの胸元にあったものだ。
ママはネックレスを手にしたまま私の後ろへ回ると、そっと首に腕を回した。
カチッ。
小さな音がして、青い宝石が私の胸元に収まる。
「きっと、これからはアイラのことも守ってくれるわ。」
「……うん。」
このネックレスの話は、子供の頃に聞いたことがある。
ママのお母さん。
そのまたお母さん。
もっとずっと昔から、母から娘へ受け継がれてきた我が家のお守り。
ママも十二歳の誕生日に、お祖母ちゃんから譲り受けたと言っていた。
指先で小さな宝石に触れる。
今までずっとママを守ってきたお守り。
それが今日からは、私のお守りになる。
「ありがとう、ママ。大切にするね。」
「ええ。」
ママが優しく微笑んだ。
「こうしていると、昔のサラにそっくりだな。」
パパが懐かしそうに私を見る。
「だって、私の娘だもの。」
その言葉が何だか嬉しい。
大好きなママに、また少し近づけたような気がして。
「えへへ。」
思わず笑みがこぼれた。




