『メインストーリー』⑥
ここからアイラ視点に戻ります。
今日はお天気も良い。
昨日降った雨は止み、雲間から温かな光が射している。
「ピクニック日和だなぁ。」
町の外は危ないからと、ピクニックをしたことはない。
でも、いつか三人で来られたら楽しいだろうな。
古代都市、修道院、大灯台、砂漠のオアシス。
行ってみたい場所はたくさんある。
――うん、決めた。
私が強くなったら、パパとママを連れてたくさん旅行しよう。
もし好きな人ができたら、その人とも行ってみたい。
幸い、この世界の住民は寿命が長い。
これからもチャンスはたくさんあるだろう。
「楽しみだなぁ。」
そんな未来を思い描きながら、私は空を進んでいた。
足元には王都西へ続く街道が細く伸びていた。
片手にはレーヴァテインを持っている。
ハイウィザードスキル『レヴィテーション』で空中へ浮遊していた。
空から眺める景色は快適そのものだった。
「まさか『レヴィテーション』がこんなに便利だなんてね。」
ネームレスオンラインでは、地面設置型スキルの効果を防ぐスキルだった。
しかし現実では、浮遊によって安全に偵察や移動ができる。
まさに至れり尽くせりだ。
安全に冒険したい私にとっては、神スキルと言ってよかった。
最近は、モンスター討伐も再開した。
GMコマンドの検証は十分に終えたし、冒険者になってからはきっと自由に動き回るのも難しくなる。
十二歳の誕生日までに、やるべきことは山積みなのだ。
「だから今日は、この辺りのモンスターの生態を見てみたいんだよね。」
この辺りは、王都から最も近いアクティブモンスターの生息地。
こちらに害意が無くても向こうから襲い掛かってくるモンスターたちの棲み処だ。
特にこの周辺へ出現するゴブリンは、初期モンスターの中でも知性が高く、狡猾な手で人間を襲うらしい。
冒険に慣れ始めて慢心した冒険者が、ゴブリンに襲われて命を落とす話もよく聞く。
力はそれほど強くなくても、知恵を使い、数で襲ってくる。
ゴブリンは、まさに初心者キラーだと教わった。
「でも、ゴブリンの生態を知っていれば、将来のリスクも減らせるもんね。」
だからこそ、今のうちに一目見ておきたかった。
相手をあらかじめ知っているということは、冒険者にとって大きな武器になるのだから。
「ゴブリンと戦ってる冒険者はいるのかな?」
地上を見渡してもそれらしい姿は見当たらない。
私は『レヴィテーション』に加えてプリーストスキル『フライ』で跳躍した。
『フライ』の効果は近距離間の瞬間移動だ。
距離にすると、およそ五百メートルほどだろうか。
『ポータル』のように座標登録の必要がないのが利点。
移動先を細かく指定することはできないのが欠点だ。
『フライ』を何度か繰り返したものの、ゴブリンと戦う冒険者の姿は見つからなかった。
「う~ん、今はこの辺に誰もいないのかな?」
この辺りは王都からかなり離れていて徒歩で来ると数時間はかかる。
今日は退散して、また日を改めた方がいいのかもしれない。
「もう少しだけ探して見つからなかったら帰ろう。」
そう呟いて、もう再び『フライ』を発動する。
唱えた瞬間、幾度目かの景色が切り替わる。
そこで足元を見下ろすと、最初に目へ飛び込んできたのは紋章の付いた立派な白い馬車だった。
「貴族の馬車かな?」
あんな立派な馬車、一度でいいから家族で乗ってみたい。
それにしても。
あの紋章、どこかで見たことがあるような気がする。
「う~ん……。」
何か引っかかる。
でも、どうしても思い出せなかった。
「きゃあああああああああああ!!」
突然、女の子の悲鳴が森へ響き渡った。
反射的にその方向に視線を向ける。
林の中から低木をかき分けるように、小さな女の子が飛び出してきた。
凄く可愛い子だ。
高そうな青いドレスは貴族の子であることが明白だった。
そんな子が悲鳴を上げるなんて何があったんだろう。
私は空中で身を乗り出すようにして、その様子を窺った。
「ゴギギッ!」
女の子を追う様に低木の奥から飛び出してきたのはゴブリンたちだった。
護衛と思われるナイトたちがそれを迎え撃っている。
一対一の実力なら、圧倒的にナイトの方が上。
だけど、ゴブリンは数が多い。
しかも守るべき相手を抱えながら戦わなければならない。
状況から見てもナイトたちは苦戦を強いられているようだった。
「聞いていた通り、ゴブリンって知性があって厄介な相手みたい。」
今もナイトたちを無視して、女の子を狙っている。
「ああいう立ち回りをされると大変そう。」
終始、上手い立ち回りを続けるゴブリンに感心しながら戦況を見つめる。すると、
「『スラッシュ』!」
一人の男の子がゴブリンを一刀のもとに斬り伏せていた。
「え、あの男の子、凄くない……?」
サジタリウスで見てきた駆け出し冒険者たちより、ずっと強い。
まだ子供なのに、剣筋も迷いがなく、とても洗練されている。
だけど――経験は少ないのかもしれない。
私は空から戦場全体を俯瞰していた。
だからこそ、ゴブリンたちの動きが手に取るように分かる。
目の前へ現れたゴブリンに釣られるように、男の子が持ち場を離れる。
その動きに呼応するように、草むらの中でメイスを持ったゴブリンが身を低くした。
さらに少し離れた木陰では、弓を持ったゴブリンが静かに弦を引き絞っている。
――このままだと、危ない。
ゴブリンたちの狙いは明確だった。
でも、この場でそれに気付いている者はいない。
――助けられる命を見捨てるのは、違うよね。
私は意を決してレーヴァテインを強く握り締める。
そして弓を構えたゴブリン目掛けて、一気に急降下を開始した。




