『メインストーリー』②
訓練を始めて一時間ほど経った頃だろうか。
父上が私へ声を掛けてきた。
「クレス、そろそろ終わりにして朝食にしよう。『ティアナ』もそろそろ起きてくるはずだ。」
「はい、父上!」
確かに、そろそろメイドたちが浴室の湯を沸かして待機している頃だ。
それに朝食へ遅れれば、ティアナがへそを曲げるかもしれない。
メイドからタオルを受け取ると、体中の汗を拭き、浴室へ向かった。
浴室ではメイドたちに服を脱がされ、体を丁寧に洗われる。
最後に大きなバスタオルで水気を拭き取られた。
汗も綺麗に落ちて気持ちいい。
手渡された下着を自分で身に着けると、服を持ってきたメイドと目が合った。
――あ、さっきの若いメイドだ。
メイド長の雷が落ちたのだろう。
作り笑いを浮かべているものの、元気がないのは一目で分かった。
そんな顔をしていたら、またメイド長に叱られるぞ。
今日はしっかり反省してくれ。
……今度、お菓子を持って行ってあげるから。
下着を着け終えると、メイドたちに服を着せてもらい、温風の魔法で髪を乾かされる。
十分に乾いたことを確認すると、浴室を出て屋敷二階の食堂へ向かった。
「おはよう、爺や。」
「おはようございます、坊ちゃま。」
食堂の扉の前で待っていた執事の爺やと挨拶を交わす。
爺やが静かに扉を開いた。
「どうぞ、お入りください。」
「うむ。」
食堂へ入ると、既に食卓へ着いていた母上とティアナがこちらを見た。
「あ、お兄様!」
ティアナの大きな青い瞳が歓喜に揺れる。
足の届かない椅子からぴょんと飛び降りると、そのまま私へ駆け寄ってきた。
青いリボンで結ばれた美しいブロンドのツインテールが、嬉しそうに尻尾のように上下している。
このまま受け止めても、鍛えている私には何の問題もない。
だが、万が一にもティアナへ怪我をさせるわけにはいかなかった。
勢いを優しく受け流しながら、小さな体をしっかりと受け止める。
「おはようございます、お兄様!」
腕の中へ収まったティアナを見下ろし、私も笑顔で返事をした。
「おはよう、ティアナ。」
ぱぁっと花が咲くような笑顔を見て、思わず私も頬が緩む。
うん。
うちの妹は世界一可愛い。
「おはよう、クレス。……ティアナ、淑女らしくないわよ。」
「おはようございます、母上。」
母上は困ったように笑っていたが、本気で叱っているわけではない。
まだまだティアナを甘えさせるつもりなのだろう。
もっとも、それは私も同じなので口に出すつもりはない。
「お母さま、ごめんなさい。」
当のティアナはまったく反省していなかった。
返事だけは良い。
それもまた、ティアナの可愛いところなのだ。




