↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/127

『メインストーリー』①

謎の侯爵家令息の登場です。


ここから少しの間、アイラ視点を離れて物語が進みます。

彼とその家族に何が起こるのか、見守っていただければと思います。

空が明るみ、朝日が差し込み始めた頃。

私はいつものベッドで目を覚ました。

小さく欠伸をしながらゆっくりと起き上がり、呼び鈴を鳴らす。

間もなく数人のメイドが部屋を訪れ、揃って一礼した。

「おはよう。」

「おはようございます、お坊ちゃま。」

私の言葉を待っていたメイド達が顔を上げた。


「訓練の準備をするので手伝ってくれ。」

「承知いたしました。」

メイドたちは手際よく私の訓練着を用意する。

一人が寝間着を脱がせ、もう一人は訓練着を手にして隣へ控える。

その間にも、別のメイドが水やタオルを準備してくれていた。

私は彼女たちに手伝われるまま、用意された訓練着へ袖を通す。


「どこか違和感はございますか?」

「いや、大丈夫だ。」

手足を軽く動かして着心地を確かめ、手伝ってくれたメイドへ微笑みかける。


「こちらをどうぞ。」

差し出された小さなコップを受け取り、中の水を飲み干した。

適量で冷たすぎず、温すぎない。

相変わらず、良い仕事をしてくれる。


「失礼いたします。」

「うむ。――わぷっ。」

わずかに水気を含んだタオルで顔や首回り、耳の裏まで丁寧に拭かれた。

顔に何かが触れる感触に思わず声が出てしまった。

侯爵家の令息として、恥じるべき失態であろう。

次からは気を引き締めねば。


「お坊ちゃま、整いました。」

メイドたちは私から離れると、一列に並んで一礼し、言葉を待っている。

「うむ。今日も見事な手際であった。皆の者、感謝する。」

そう告げて部屋の扉を開ける。

……感謝を伝えた時、一番若いメイドが小さくガッツポーズをしたように見えた。

いや、きっと気のせいだろう。

大丈夫だ。

私は何も見ていない。

だからメイド長、その怒った時だけ見せる顔はやめてくれ。

私は逃げるように長い廊下を進み、訓練場へ向かった。


メイド長は仕事中、顔に感情が出ないように努めている。

しかし長く当家に使えており、私の乳母まで務めてくれた人だ。

私には、わずかな変化でも分かってしまう。

真面目なメイド長は、主人の前でガッツポーズをすることなど絶対に許さない。

この後は間違いなく雷が落ちるだろう。

あの若いメイドの無事を祈るばかりである。


訓練所の扉を開けると、父上が体を解していた。

「おはよう、『クレス』。」

「おはようございます。父上。」

父上はゾディアック王国騎士団、第二部隊長『カシウス・グローザ』。

私が誰よりも尊敬する人だ。

短い金髪に青い目、長身で鍛えられた肉体。

親子だけあって、よく似ていると周囲は揃えて口にする。

いつかこの人のようになりたい。

そして乗り越えたい。

それが私の夢だ。


父上の隣で十分ほど体を解したところで、私は父上へ声を掛ける。

「お待たせしました、父上!」

「うむ。」

既に準備を終えていた父上は、私が終わるまで待っていてくださっていた。

多くを語る方ではないが、こうした気遣いができるところも、私が尊敬している理由の一つだ。


父上はグローザ侯爵家に伝わるの大剣を手に取り、静かに構える。

私も専用の大剣を手に取り、父上の隣へ並んで構えた。

そして同時に、大剣を振り下ろす。

ビュンッ、と風を切る音だけが、何度も訓練所へ響いた。


やはり父上は凄い。

大剣を振り下ろしても、体はまったく揺れていない。

常に一定の軌道を描き、寸分違わぬ太刀筋を繰り返している。

そのうえ息は乱れず、疲労した様子も微塵も感じさせない。

どれほど修練を積めば、この領域へ辿り着けるのか。

私には想像もつかなかった。


今は必死に大剣を振り下ろす。

息が切れても、太刀筋がぶれても、腕だけは止めない。

少しでも正確に、美しい直線を描けるようになるために。

憧れの背中へ、少しでも早く追いつくために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。