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アイラの近況報告

あれから三か月ほどが経ちました。

カイ君はあれ以来、「僕は一生、町の中で暮らす」と言っているらしい。

辻斬り怖かったもんね……。

七歳の子供が目の前であんなものに襲われたんだから無理もない。


私だって今でも思い出すと怖くなる。

そして私もあの日のことを猛省し、自重する日々を過ごしております。

あの時は結果的に全員助かった。

だけど、それはあくまで結果が良かっただけ。


もし《HidePC》が辻斬りに通用しなかったら。

もしレーヴァテインを取り出す前に攻撃されていたら。

考えれば考えるほど、自分がどれだけ危ないことをしていたのか分かってくる。

だから、まずは安全性の確保を最優先するようになった。


GMコマンドや装備については、まだ十分に検証できていない。

前世で知っている効果と、この世界で実際に起こる現象が完全に同じだという保証もない。

そのため、アクティブモンスターが出現する場所には近づかないように。

情報収集へ出掛ける時も、《HidePC》で人目につかないように。


遠出をする場合は、道中の危険を避けるため《Warp》で移動するようにしている。

ちょっと慎重すぎる気もするけど、辻斬りに遭遇した時のことを考えればこれくらいで良い。

安全だと分かってから少しずつ行動範囲を広げればいいんだからね。


次に進めているのが、レーヴァテインを装備した状態でのスキル検証だ。

「辻斬りを倒した時に使った『スラッシュ』の威力、異常すぎだよね。」

あの時の光景を思い出す。

ゲームなら『スラッシュ』なんて、転職したばかりの初心者が最初に覚えるような攻撃スキルだ。


それがレーヴァテインを装備した私が使っただけで、衝撃波を伴うほどの威力になるなんて想像をはるかに超えていた。

辻斬りを倒せたこと自体は良かった。

あの状況では必要だったし、使ったことを後悔しているわけでもない。

問題なのは、初級スキルですらあの威力になったことだ。


だったら上級スキルを使えばどうなってしまうのか。

それが分からないまま実戦で使うなんて危険すぎる。

敵だけを攻撃するつもりが、周囲にいる人や建物まで巻き込んでしまったら洒落にならない。

人を助けるために使った力で人を傷つけました、なんて笑えないよね。


だから、スキルの検証は絶対に必要だった。

というわけで、人のいない場所を選び、使えるスキルを一つずつ確認しているところなのだ。

どれくらいの威力になるのか。

どこまで力を抑えられるのか。


周囲へどれほど影響が出るのか。

地道だけど、一つずつ確かめていくしかない。

「でもまさか、上級スキルがあんな威力だなんて……。」

遠い目をして、検証に使った場所を見る。


上級スキルについては、しばらく見なかったことにしよう。

あれはダメだ。少なくとも今の私が気軽に使っていいものじゃない。

まずは、力を抑える方法から身に付けた方が良い。

また自然の形を変えてしまわないように。


本当にごめんなさい。検証する場所についても、もっと考えよう。


そしてもう一つ。あの日の経験を踏まえて、自分の命を守るための新しいGM装備も用意した。

《Storage》と頭の中で念じる。

すると何もなかった空間が歪み、目の前にワームホールが開いた。

私はその中へ手を伸ばし、目的の物を取り出す。


GM装備『ギャラルホルン』。

小さな角笛の形をしており、首から下げられるようになっている。

手のひらに乗せられるほどの大きさで、ゲーム時代の装備部位はアクセサリー。

名前の由来は、レーヴァテインと同じ北欧神話だ。


というより、GM装備の名称はすべて北欧神話から取られている。

元々は開発元が作った装備なので、なぜ北欧神話で統一したのかまでは知らない。

私が運営に関わるようになった頃には、もうそういう名前だったからね。

そして、このギャラルホルンもレーヴァテインとは別の意味で、とんでもない性能をしている。


主な効果は『HP増加』『移動速度増加』『HP・MP超回復』など。

レーヴァテインが攻撃面で強力な装備なら、こちらは補助能力に優れたGM専用装備だ。

ゲーム時代には、強力なボスの攻撃を実際に受ける検証などに使われていた。

何しろ二十年以上も運営が続いたゲームの最新ダンジョン。


長年追加され続けたコンテンツの中でも、特に強力なボスモンスターが待ち構えている場所だ。

ギャラルホルンは、そこに出現するボスモンスターの攻撃スキルにすら耐えられる代物だった。

万が一負傷しても、『超回復』の効果によって短時間で全快する。

HPそのものも大幅に増えるため、普通なら耐えられないような攻撃にも耐えられる。


即死効果や、耐えられるHPを超えた一撃を受けない限り、命を落とすことはほとんどない。

これさえ装備していれば、死亡する可能性は限りなくゼロに近づく。

少なくとも今の私には、これ以上ないほど心強い装備だった。

首から下げたギャラルホルンへそっと触れる。


これなら、もし何か予想外のことが起きても生き残れる可能性は大きく上がる。

だけど、だからといって、安心しきって良いわけじゃない。

そもそも人前ではGM装備を身に着けられない。

これを見られて効果まで知られれば、どんな騒ぎになるか分かったものじゃない。


それに「GM装備やGMコマンドがあるから大丈夫」なんて考え方は危険だ。

辻斬りと遭遇した時の私は、どこかでそう思っていたんだと思う。

《HidePC》がある。

《Storage》にはレーヴァテインがある。


だから何とかなる。

でも、本当に何とかなる保証なんてどこにもなかった。

人間、危機に直面した時、いつも万全の状態で挑めるわけじゃない。

GM装備を取り出す暇がないかもしれない。


使おうと思っていたGMコマンドが、想定どおりの効果を発揮しないかもしれない。

だからこそ、力があることを前提にして無茶をするんじゃなくて、そもそも危険な状況に陥らないようにする。

何事も、慎重すぎるくらいでちょうどいい。

あの日の失敗を繰り返さないためにも。


今度こそ、ちゃんと自分の命を大切にしよう。

次のエピソードから、新しい物語が始まります。

アイラにとっても、大きな転機となる出来事が待っているようです。

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